要旨

 豊富な海外旅行経験や急増する海外からの旅行者が、日本の観光を変えようとしています。豊富経験や新たな視点が、日本や日本文化を新しい“ニッポン”や“ニッポン文化”として再評価し、日本国内への旅行者を増やしています。ますます“ニッポン”の観光が面白くなるのです。

本文

 今、旅行者の関心が、再び日本や日本文化へと向かい始めています。
 この新しい流れの背景には、観光のグローバル化があります。グローバル化を促している主な要因は二つです。一つは、毎年延べ1700万人もの旅行者が海外に出掛け、日本国内には既に数千万人の海外旅行経験者がいるということです。多くの方が世界的な観光地や施設で一流のサービスを体験し、グローバルな見方や評価尺度を身につけています。
 もう一つは、海外からの旅行者が急増していることです。90年代後半の訪日観光客数は国内宿泊者数の1%程度でほとんど影響が無かったのですが、最近では5%を超えるまでになっており、その影響が無視できない程になっています。東京では、延べ宿泊者数に占める外国人の割合が20%にまで達しており、ある外資系ホテルでは、宿泊者数の半数が外国人旅行者で占められています。
 海外でいろいろなものを見たり経験して磨かれた日本人の感性や美意識、また急増する外国人旅行者が持つ国際的なセンスが、日本や日本文化を新しい視点から再評価しているのです。彼等の目に見えている日本や日本文化は、今までとは違う“ニッポン”や“ニッポン文化”なのです。例えば、ニセコのスキー場は、オーストラリア人に世界的な雪質を発見され活気を取り戻しました。年末に話題になった『ミシェランガイド東京』は、フランス人の感性で東京のレストランを評価し世界に発信しています。歌舞伎ブームは外国にまで拡がり外国語に翻訳され海外公演も好評で、外国人にも受入れられ易い“ニッポン文化”になりつつあります。

 財団独自の調査にも、旅行者の意識の変化がはっきりと現われています。
 昨年より始めた「旅行市場への先行性と周囲への影響力を持つオピニオンリーダー層」調査では、「日本文化をもっと知りたい」「日本には世界に誇れる観光資源が多い」や「日本の観光地の良い点が目立つようになった」という回答が多く寄せられました。
 面白いことに、このような回答は、30代の女性や40代の人が多いのです。国内回帰や日本文化の見直しというと、文化志向の強い中高年のノスタルジアと考えがちですがそうではありません。この現象の背景をしっかりとらえることが大切です。

 二期倶楽部の北山社長は、新しい東館の設計にあたって世界的に有名なデザイナーコンラン卿に、「外国人向けの日本ではなく、日本人のDNAにある日本の美意識」を入れてくれるように要請したそうです。東館には日本文化を具象化した“なにか”が入っているわけではないのですが、宿泊料金からは考えられない若い層からも支持されており、東館のスパ利用者のトップは30代女性です。
 ここに新しい流れを捉えるヒントがあります。
 新しい感性でセンスアップした“ニッポン”やバージョンアップした“ニッポン文化”が提案されているのです。

 グローバルを意識した新しい視点からの“ニッポン”見直しが今のテーマです。
 大切なことは、徹底的な日本文化、特に地域文化へのこだわりです。海外を見てきたからこそ、日本文化に改めて関心が向き、地域文化の違いに気付き、これを面白いと感じるのです。もちろん、急増する外国人観光客も関心を持ちます。鹿児島の雅叙苑では、20年以上も前から薩摩文化にこだわった宿づくりをすすめ高い人気を保っています。経営破綻した古牧温泉は青森文化体感の宿とし「のれそれ(津軽弁で徹底的という意味)青森」をテーマに魅力づくりに努めて元気を取り戻しています。ここでは、出来る限り方言を使うことなどこだわっていますが、大都市圏からのお客様には異文化体験が好評だそうです。
 つぎに大切なのは、自然との融合です。二期倶楽部では、林と渓流、田んぼと野菜畑、そして施設がパッチワークのように組み合わされ、心地よい空間が作り上げられています。天空の森は、「人間性の回復」を標榜していますが、ここでも林や渓流、畑や霧島連山の遠望が大きな要素になっています。日本の原風景的価値がますます重要になります。
 最後は、宿づくりや観光地づくりの哲学、夢や想いがコンセプトに込められ、それを共有することです。そのコンセプトに共感し反応した人を集めるのです。明確なコンセプトに、言葉の壁はありません。二期倶楽部にも星のや軽井沢にも、そして雅叙苑や天空の森にも外国人観光客が多く訪れています。
 従来のような宿泊産業の機能からの発想で、価格や施設の豪華さなどを差別化して売る戦略は終わりつつあり、これからは、簡単に数量化できないモノにこそ価値が生まれるのです。二期倶楽部の理念は、「美しい人が美しい商品を創り、美しい形でお客様にお届けする」です。

 星野リゾートの星野社長は、「旅館こそ世界に誇れる日本文化だ」と述べており、高い目線を持つことにより日本の旅館は世界に通用する“RYOKAN”へと生まれ変われるはずです。年末恒例、財団主催の旅行動向シンポジウムのテーマは「世界におもねない“ワタシ”に時代がついてくる」でした。自分の感性や美意識を信じ、夢の実現に取り組めば、結果は後から付いてくる時代になったのです。

朝日を浴びての気持ちの良い朝食

天空の森

天空の森
星のや軽井沢

星のや軽井沢