観光人材の育成と活用 [コラムvol.81]

 労働集約産業である観光産業にとって、業界を支え働く人材は極めて重要です。工場誘致に道路や工場用地整備などインフラ整備が必須であるように、観光振興にとって人材はソフトのインフラであり、観光人材育成は公共事業で進めてもおかしくない取り組みといえるでしょう。
 観光庁の観光立国推進基本計画においても、”観光立国の実現に関し、政府が総合的かつ計画的に講ずべき施策”の2番目に「観光産業の国際競争力の強化及び観光の振興に寄与する人材の育成」が掲げられていて、”高度観光人材””観光事業従事者の人材””地域固有の歴史・文化等知識の普及”といった3つの人材育成に取り組むこととしています。
 その中で、高度観光人材育成については、前回コラムで特に行政系人材育成の重要性について指摘しました。 今回は、観光事業従事者の人材育成のあり方と条件整備について述べてみたいと思います。

 観光産業の多くは、それなりの規模の人手を必要とする労働集約型のサービス産業であり、そのサービスの良否が、経営の成果に及ぼす影響は大きいです。したがって、観光事業従事者の人材育成は、本来それぞれの企業自らが行うべきことかもしれません。
 しかし、観光産業の現場での仕事は、観光客と直接相対してサービスする職種が多く、それぞれの企業の代表であるとともに、それぞれの地域の代表としても、観光客と対峙することになります。したがって、従業者のサービスが、観光客が行っている観光旅行の印象やイメージを左右することになります。
 ということから、そこの地域に関する「観光知識」や「接遇基礎」など観光産業の各業種に共通する基本素養の研修は、観光人材の”インフラ”部分として、公共で行うべき観光人材育成と考えて良いと思います。
 また、観光関連産業の各企業の経営が順調な状況であれば、企業自らがゆとりを持って自企業内の人材育成に取り組むことができるのでしょうが、昨今の観光客の低迷、減少の観光地が多い中で、行政や観光協会等の公共セクターが率先して観光人材育成に取り組む業界支援策が望まれます。

 実際に、観光人材育成に取り組む例は各地で目立ってきているようです。
 しかし、こうした取り組みの目的は、観光人材を育成することにとどまらず、育成した人材がそれぞれの能力を発揮することにあります。したがって、人材育成の取り組みだけで終わらせるのでなく、育成した人材をどう活用するかの体制づくりが、新たに取り組むべきもう一つの課題です。
 こうした人材活用を可能とする体制づくりに関しては、そのために必要な基本条件の整備に課題があるように思います。例えば、

 (1) 『観光産業が地域の重要な産業である』といった意識が地域住民に薄い
 (2) 観光振興の専門技術者や学識者が地域に少ない、うまく活用できていない。
 (3) 地域がもつ魅力を有効に活用したり、保護しようとする意識に乏しい。
 (4) 全国的視野もしくは国際的視野を持って、地域のことを見られる人が少ない。
 (5) 地域の人材、資源を使って、観光振興のコーディネートをするリーダーの存在がない。

といったようなことが問題としてあげられます。
 相対的に見れば、人材活用のできる体制づくりの整備のほうが急務なのかもしれません。これらは、人材育成と同様に、短期で成果が出しにくい条件ですが、取り組まないと成立しない条件であるだけに、公共事業での地道な継続的取り組みが望まれます。

 観光人材は簡単に育てられるものではなく、観光人材の一人一人が自らの学習と経験、努力と能力により築き上げていくものです。観光人材自身のこうした自覚を前提に、公共セクターやそれぞれの企業が、そのための動機付けや機会を提供することが出来れば、効果的な人材育成が可能となると考えます。そういう点でも、観光人材の育成と活用の問題は、業界経営者及び行政政策担当者の奮起が期待されます。