案内標識の多言語表記は進むけれど… [コラムvol.39]

 外国人旅行者の受入体制整備の一環として、交通機関や都市、観光地における各種案内標識等の外国語併記が進んでいます。既に英語併記はかなり普及し、最近では、韓国語と中国語の併記も進んでいます。しかし、外国語併記の内容が中途半端だったり、都市とか観光地全体でみると案内標識等の一貫性が欠けている例も少なくありません。都市、観光地といったエリア全体で案内標識等の現状を再チェックし、問題があれば総合的な整備計画をあらためて策定して実行する必要があるでしょう。

■案内標識等における外国語併記の進展

 外国人旅行者の訪日促進に向けた受入体制整備の一環として、「外国人旅行者がひとり歩きできるまちづくり」への取り組みが各地で行われています。その一つとして、交通機関や都市、観光地での案内標識等(交通ターミナルにおける各種施設・設備や周辺地区への誘導標識、施設・設備自体の案内表示、乗り場などの利用案内や各種注意事項表示、都市・観光地における観光施設等への誘導標識、観光(地域)案内図など、幅広い内容を含みます。以下同じ)への外国語併記が進んでいます。
 既に英語(固有名詞はローマ字。以下同じ)併記は一般化しており、最近は韓国、台湾、中国などからの来訪者増加を反映して、韓国語、中国語の併記も次第に進んでいます。但し中国語については、特に公共の場では諸般の事情により、中国本土(大陸)で使われる簡体字が使われ、訪日旅行者の多い台湾で使われる繁体字を併記したものはほとんど見られません。繁体字による情報提供は、主にウェブサイトやパンフレットにより行われており、これはJNTOとか地方自治体等でも同じです。台湾からの来訪者への利便性という点でやや問題ではありますが、やむを得ないところでもあります。

■鉄道駅の状況

 都市部の駅や観光地の入り口となる駅では、JRも他の民鉄も、案内標識等にはほとんど英語が併記されるようになっているようです。JRや大手民鉄では、韓国語、中国語の併記も進められています。
 それ自体は評価できますが、現実には、一つの案内標識等の中で一部の表示だけ韓国語・中国語併記というケースが多いのが実情です(写真1)。
 私が日常生活の中で見るところ、JRでは、「出口」という表示あるいは出口の名称(東口とか中央口とか八重洲口とか)、トイレ、切符売り場、精算機の案内標識等と、ホーム等での安全に関する案内表示だけは韓国語と中国語も併記され、あとは英語だけ併記というパターンが多いようです。韓国語、中国語の併記を進めている他の民鉄でも、同じような状況のようです。各交通機関の方針や案内標識等のスペースの問題はありますが、韓国人や中国人に対する情報提供という点で、やや中途半端な感じは否めません。
 また、駅構内ではそれなりに韓国語、中国語の併記が行われていても、駅を出てからの周辺地域や主要施設への誘導標識、トイレ等の案内表示などでは、英語だけ併記されているものが大部分の感じです(写真2)。案内標識等の設置者が違うため、完全に一貫性を持った案内表示というのは無理かもしれませんが、これも考えたい問題です。

■都市、観光地の中での状況

 都市部や外国人旅行者が多く訪れる観光地では、少なくとも英語は併記された地区案内図、観光案内図、観光資源・施設や公共施設への誘導標識などがかなり整備されてきており、以前に比べれば英語のわかる外国人旅行者がひとり歩きしやすい環境は整ってきたといえるでしょう。但し、韓国語、中国語など英語以外の言語の表示についてはまだまだ不十分ですし、どこまで整備すればいいのかの検討も必要です。
 たとえば東京では、各所に統一様式の地区案内図が設置され、日本人にも自分が行きたい所の位置がわかりやすくなっています。また、地図中のほとんどの表示には英語が併記されています(写真3)。さらに、施設等の種類を表すマークには、ピクトグラムと英語に加えて韓国語、中国語も併記されています(写真4)。但し、韓国語、中国語は、地図のスペースや内容の見やすさという問題からでしょうが、地図中の個々の施設等の名称までは併記されておらず、韓国人や中国人にどこまで役立つかはやや疑問です。
 また、統一されたデザインで英語を併記した観光資源・施設や公共施設への誘導標識も、各地でかなり整備されてきて、日本人にも英語のわかる外国人にも便利になってきました(写真5)。観光資源・施設等の説明板でも、英語を併記したものが増加しているようです。
 これらの誘導標識、説明板には、特定の国からの来訪者が多い地域では、英語の他にその国の言語を併記したものを整備しているところもあり、好ましい取り組みといえます。たとえば北海道の小樽市では主な観光資源・施設の説明版には英語の他にロシア語も併記されています。
 しかしながら、私が体験したところでは、外国語を併記した誘導標識を整備しても、肝心の観光資源・施設自体の名称表示に外国語が併記されていないことも時々見受けられます。これでは外国人旅行者には不親切と言わざるをえません。

■観光地、まち全体で総合的に案内標識整備を

 今後わが国がさらに多くの外国人旅行者を受け入れようとするならば、基本的には、案内標識等への外国語併記、それも英語に加えて韓国語、中国語の併記をできるだけ進めていくことが望ましいといえるでしょう。しかし、どこまで外国語を併記した観光案内標識等を整備すべきかは、地域の状況によって異なりますし、案内標識等を見たときにどうわかりやすい表示にするかという問題もあります。ただやたらに外国語併記の案内標識等を増やせばいいというものでもありません。
 しかし、上で指摘したような、中途半端な表示の問題、交通ターミナルから個々の施設等への一貫した誘導の問題などは、旅行者への情報提供におけるコンシステンシー(統一性)という面から改善が必要です。このようなことを含め、各地で案内標識等の整備状況を再チェックし、問題があればあらためて総合的な外国人旅行者の受入体制整備計画を策定し、実行していくことが必要でしょう。このことは、日本人旅行者にとっても歩きやすいまちづくり、観光地づくりにつながるはずです。

写真1.東京駅構内の案内標識例 写真2.東京駅八重洲地下街の案内標識例
写真1.東京駅構内の案内標識例 写真2.東京駅八重洲地下街の案内標識例
写真3.東京で随所に設置されている地区案内図 写真4.写真3の案内図の一部
写真3.東京で随所に設置されている地区案内図 写真4.写真3の案内図の一部
 写真5.横浜・桜木町駅周辺の案内標識例
   写真5.横浜・桜木町駅周辺の案内標識例