「軽トラ市」からはじまる商品開発と観光まちづくり [コラムvol.448]
第1回つくみ軽トラ市の様子(著者撮影)

「つくみ軽トラ市」との出会い

 軽トラ市は、岩手県雫石町からはじまった直売イベントだ。軽トラックの荷台に野菜やら漬物やら工芸品やらを積み込んで、会場で荷台をそのまま陳列棚にして販売し、売り終わったらさっと撤収する。カンタンなので忙しい一次生産者にも人気だ。消費者も、普段何もないところに、急に市場が開かれてワクワクするし、スーパーでは見られない食材や、最近は、ちょっとおしゃれな総菜やパン、地ビールなども並んでいて、楽しい。規模が大きければ2~3時間圏内くらいの住人は商圏に入るから、日常生活圏を離れる観光イベントと言っても良い。

 私は、大分県津久見市の観光協会職員として駐在していたおりに、実際に軽トラ市の企画・実施に関わる機会をいただいた。市役所や農家、商店街の皆さんと実行委員会を作り、2020年度までに5回開催した。

 バタバタと企画に実施に走り回っている中で、直観的に、(観光業界では誰もが知っている)「別府八湯温泉博覧会(オンパク)」が思い浮かんだ。これはオンパクに匹敵する面白さがある、“特産品版”オンパクといっても過言ではないかもしれない、と。

特産品開発は大変だ

 私は、観光協会駐在時に、新商品開発にも取り組ませていただいた。想像以上にうまくいったこともあれば、大量在庫を抱えて、うまく売りさばくアイデアを絞らなければいけないこともあった。

 反省すべきことは山ほどあるが、新商品開発は想像以上に大変だった。菓子屋との共同開発事業で教わったことだが、羊羹のサイズを小さくするだけでも、専用充填アダプタが必要だし、新しい菓子づくりもスタッフがきちんと手順を覚えるまで教えるコストが必要である。包材や品質保持剤も最小ロットがあり、適切な組み合わせもあるから、間に合わせではうまくいかないこともある。

 手元資金の少ない零細規模の企業や個人事業主にとって、商品開発はハイリスクの投資であり、極端に言えば、生活が立ち行かなくなるかもしれないリスクと裏腹である。「売れるかもしれないからチャレンジしよう」とは、給与所得者の私が軽々に口にして良いことではない。

「テスト販売」が必要だ

 しかし、人口減少社会の中、放っておけば従来顧客は減少し、売上も縮小の一途となることは避けられない。安定経営を続けていくには、ある程度のリスクを負ったチャレンジは、やはり必要なのである。

 経営に関わる立場から見れば、チャレンジ(投資)に見合うリターンが本当に得られるか、少しでも消費者のリアルな反応を肌感覚で感じたいし、「この商品で、うちの店はもっと良くなる」という確信を僅かでも深めたい。

 このとき、テスト販売はリスクとリターンを推し量る有効な手立てだ。新商品のサンプルを作り、お客様に評価してもらう。店先で、常連顧客に試してもらい、率直な意見をもらうのが最も手軽だ。しかし、新規顧客の獲得を狙うなら、常連顧客の意見だけでは心もとない。狙うターゲットをとらえている知人・友人の店に協力してもらうのも良い。さらに手広い評価も欲しいなら、どこか多くの人がいる場所に出向くか広告費を払う必要があるが、それには少なくとも数万円のコストが重く圧し掛かる。

協働でテスト販売しよう~「軽トラ市」のススメ

 つくみ軽トラ市は、当初から、こうした零細規模の企業や個人事業主のためのテスト販売の場をつくることを企図し、「地道に10年は続けよう」を合言葉に始まった。効果は早くも1回目から現れ始めた。

 「つくみのみかん応援団」は、地域おこし協力隊(当時)を中心に、地元名産のみかんと、みかん農家を応援するために有志で結成された。台風で崩壊したみかん畑の復旧、みかんのPR販売などを手掛けていたが、短いみかんの旬以外でも味わうことができる「ジュース」の製造を狙っていた。しかし、ジュースの加工製造ができる工場は、県内では由布市にしかなくコスト高となり、売価千円は下らない。踏ん切りがつけられないでいた。第1回つくみ軽トラ市の開催が企画されたおり、実行委員でもある地域おこし協力隊員は、約百本(1ロット)を試作することを決心した。結果、蓋を開ければ、四号瓶1本千円を超える高級ミカンジュースは即完売し、事後問い合わせも相次いだ。その後、地道に販路を拡大し、津久見市ふるさと納税返礼品として不動の地位を築いた。副次効果もあった。それを見たみかん農家が、自分も作りたいと考え、製造方法を尋ねてきたのだ。こちらも商品化され、同市の定番商品となっている。

写真 つくみのみかん応援団がテスト販売した「つくみのみかんだけジュース」(著者撮影)

 「有限会社みなとや」は仕出し料理で知られ、仕入れの確かさと味に定評がある。第2回つくみ軽トラ市の開催が企画されたおり、ブリの照り煮、味噌煮のテスト販売をしたいと伝えてきた。会場で試食販売をしたところ、行列ができる人気となった。社長は一念発起し、瓶詰として加工し、市内で販売を開始した。軽トラ市試食者などから口コミで広がり、一気に品薄となった。設備投資をして製造ラインを強化し、県内での販売、OEMでの全国販売へとステップアップしていった。余談だが、マグロ漁師の島・津久見市保戸島の味にうるさい主婦たちが、その味を手放しに絶賛した。彼女らのライバル心も巻き起こして、保戸島でも同様の商品開発ができないかという声もあがっている。

写真 有限会社みなとやが製造したぶり照りにほぐしとぶり味噌煮ほぐし(著者撮影)

 意外だったのは出店したみかん農家の反応だ。普段、農協や直売所にみかんを納めているが、消費者との直接の接点が薄いという。自ら販売すると、美味しいとか、もっと小さいのが欲しいとか、酸っぱいのが良いとか、そうした消費者の声が新鮮で、生産のモチベーションが高まったという。売り方も、1回目は軽トラの荷台に山積みの量り売りから、2回目は小袋包装、3回目にもなるとリボンとみかんの説明紙も入れて、付加価値を高めて販売する農家が現れはじめた。実行委員たちが予想していなかった効果だ。

軽トラ市と観光まちづくり

 こうした例は、軽トラ市を長年実践している全国の先輩実践者にとって、今更なにを言っているのだ、といわれるかもしれない。だが、やはり軽トラ市の影響力や可能性は、過小評価されているといわざるを得ない。

 冒頭で「オンパク」を引き合いに出した。オンパクは、もともと別府市の温泉宿の取組だが、地域の魅力を体験や媒体を通じて総合的にアピールできること、体験観光や観光プランのインキュベーション装置になること、チャレンジ意欲のある人材が見いだされる機会となることなどから、観光まちづくりに取り組む人々に広く知られ、現在では全国各地で実践されるようになった。

 軽トラ市は、オンパクによく似ていると改めて思う。地域の一次産品や特産品が一堂に会すことで、「わが町にはこれだけの商品があるぞ」と地域の総合力をアピールする。テスト販売の機会を提供することで、商品開発の動きを生み出すインキュベーション装置として機能する。その中で頭角を現すチャレンジャーが出てくる。そして、これはとても重要なことだが、軽トラ市は会場設営と撤収が楽であり、出店料が次回開催経費に回るから、企画を継続しやすい。

 軽トラ市は、地元企業・個人事業主と観光の接点も作る。目線が地元住民から広域圏住民へと拡大し、高く評価された商品は、市外販売へのステップアップの契機になり得る。また、地元住民は、改めて地元特産品の存在を認識し、軽トラ市に集まる人々を見て、地元の価値や魅力を再確認する。

 最初の直観は間違っていなかったし、むしろ、それ以上であった。私たちは、観光まちづくりにもっと軽トラ市を活用しても良いのではないか。

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