小笠原諸島の11年間と今 ―独自調査とコロナ対策から [コラムvol.459]

東京・竹芝から船で24時間、太平洋を南下し辿り着くのは、世界自然遺産の島、小笠原諸島です。

大陸と陸続きになったことがない海洋島であるため、独自の進化を遂げた固有種の植物や生物が生息しています。また、ボニンブルーと呼ばれる濃い青色をした海でのクジラやイルカとの出会いなど、風光明媚な小笠原諸島の大自然がそこには待っています。

小笠原諸島(以下、小笠原村)で居住者がいるのは父島と母島のみ(人口約2,600人)、そのうち島内産業として最も大きな割合を占めているのが観光です。年間の観光客数は約27,000人と、人口の約10倍もの人々が訪れるこの島では、世界自然遺産登録前の平成22(2010)年度から継続して「小笠原村観光マーケティング調査」(※令和元年度より、JTBFにて分析・報告業務を受託) を実施しています。

今回は、令和2(2020)年度の調査結果から、この11年間の変化について簡単にご紹介します。

また、2020年は新型コロナウイルス感染症(以下、コロナ)が猛威を振るった一年でもありました。2020年の早い段階から、旅行回復に向けてコロナ対策に取り組んできた小笠原村の事例についてもご紹介します。

小笠原村観光マーケティング調査

小笠原村観光マーケティング調査 調査概要

調査票と回収ボックス

①回答者の特徴/年代

回答者の特徴の中で、特に大きな変化があったのは「年代」でした。2011年の世界自然遺産登録、2016年のおがさわら丸新船就航(※この新船就航を機に乗船時間の短縮や船内設備の整備が行われた)のタイミングをみると、50代以上の割合が増加しています。

サンプルの特徴/年代

②回答者の特徴/居住地

回答者の居住地は、2011年以降、継続して「南関東(東京都・神奈川県・千葉県・埼玉県)」が最も高い割合ですが、コロナ禍の2020年には「南関東」が更に増加しました。これは、長時間の移動をしなければならない地域からの旅行者が減少したことが影響したと考えられます。

サンプルの特徴/居住地

③満足度

回答者の総合満足度をみると、世界自然遺産登録の2011年には1.8点まで減少したものの、2013年以降は2点以上を維持、2020年には最も高い評価点となりました。

コロナ禍にも関わらず2020年の満足度が高いことには、コロナ対策としておがさわら丸やガイドツアーの人数制限が行われ、混雑解消への取組があったことも影響しているようです。

また、個別の満足度をみると、「おがさわら丸」への満足度は新船就航の2016年に上昇しています。「自然景観などの観光資源」や「人々のおもてなし」は継続して高い値を維持しており、そのほかの項目も少しずつ満足度を上げていることがわかります。

総合満足度

項目別の満足度

④ガイドツアー参加率

小笠原村といえば、ガイドツアーの人気が高い観光地ですが、ガイドツアーの参加率にも変化がみられました。2010年以降、イルカ・クジラウォッチングは最も高い参加率を維持していますが、2018年度以降減少しています。また、全体的にガイドツアーへの参加率が下がっている一方で、「無回答・不参加」と答えた割合は増加しています。これには、小笠原村を訪れるにあたって、ガイドツアーに参加しない楽しみ方を求める旅行者が増加してきていると考えられます。

ガイドツアー参加率

以上、一部ではありますが、11年間の変化をみてきました。居住地や満足度などコロナ禍の影響により2020年の調査結果に変化があった項目もありました。

では、コロナ禍の小笠原村では、どのような対策がとられていたのでしょうか。

小笠原村でのコロナ対策の取組

小笠原村では、医療資源が限られていることから十分なコロナ対応が難しく、早くから水際対策がとられてきた地域でした。

まず、2020年2月には小笠原村ではおがさわら丸を運航する小笠原海運と協力し、おがさわら丸乗船前の検温・問診票の記入を開始、同年3月には寝台や和室の席数制限を行ったほか、厳重な感染対策をとりました。4月6日には小笠原村観光協会から、4月23日には小笠原村から来島自粛要請が発出され、ゴールデンウィーク期間の運航は一部とりやめとなり、7月1日から来島者の受入れが再開された後も、夏季(7~8月)の折り返し便(本来であれば父島で3日間停泊するが、この場合停泊はしない)の一部運航をとりやめました。

 また、同年8月には、おがさわら丸乗船客を対象とした無料PCR検査を開始しています。この制度は市町村が主体となって行う厳重なコロナ対策の先駆けとなりました。何度かの試行を行い検体の受付方法等を改善したほか、小笠原村観光協会による「PCR受検率向上事業」では、オリジナルリストバンドの配布といった特典を付けることによってPCR検査の受検率の向上を図るなど、島民・来島者がお互いに安全・安心の場所となるよう、継続した取組を行っています。

検査キットと検体受領証(2020年10月時点)

「PCR受検率向上事業」で配布されるオリジナルリストバンド(小笠原村観光協会提供)

さらに、小笠原村では2021年8月末から2週間かけて「小笠原村新型コロナウイルス一掃期間」を設けました。この背景には、医療資源の限られている小笠原村で、たった1週間で村民や来島者の感染者が7名発生したことがあり、この期間に人流を徹底的に抑えることによって感染者数を0にすること、コロナ対策の必要性を改めて共有したうえで、来島者の受け入れを再開するという目的がありました。事業者にとってはキャンル対応や営業ができないといった痛手となってしまうため、小笠原村では協力金といった形で支援を行いました。

おわりに

今回は、2010年から継続して実施している「小笠原村観光マーケティング調査」の分析結果および、コロナ対策の先行事例として小笠原村が実施した対策について紹介しました。今回紹介したもの以外にも、事業者への支援や事業者が独自におこなっているコロナ対策など、ここでは紹介しきれないほどの様々な独自の取組が行われています。 

今後も観光マーケティング調査の継続的な実施や現地訪問等を通じて、Withコロナ・Afterコロナにおける小笠原村の観光動向を注視していきたいと思います。

謝辞

本調査およびコラムの執筆にあたりご協力および掲載許可をいただいた、小笠原村産業観光課の皆様、小笠原村観光協会の皆様、母島観光協会の皆様、小笠原村観光局の皆様、誠にありがとうございました。