今秋の観光庁の設置とともに、それに呼応して都道府県の観光行政組織も強化される動きが出てきています。こうした組織強化とともに、観光政策も国内観光地の持続的な発展に有効な展開が望まれます。そのためには、地域の魅力づくりの活用だけでなく、保全のための取り組みとして、地域らしさをどう守っていくかが重要です。

■“地域らしさ”を保全することの重要性

 地方の人口減少、少子化、高齢化の進展し、さらに地方経済の景気低迷が長期化する中で、地方の活性化策として観光振興があらためて注目されています。特に、観光立国推進基本計画が策定されて以来、地域の魅力づくりに対する国による支援事業がいろいろとスタートして、全国各地で観光地の魅力づくりが取り組まれています。
 今年の10月には観光庁の創設が予定され、全国の都道府県においても観光部局の組織体制の強化を図る動きもでてきています。
 しかしながら、温泉観光地をはじめ日本国内の既存観光地の中には、引き続き観光客の誘致に苦しんでいるところも依然あります。
 こうした既存観光地の問題点として、
   ・施設サービスの過剰投資と、老朽化・陳腐化
   ・観光資源魅力の低下
   ・誘客活動一辺倒の観光振興策
   ・内発的観光地再生力の喪失
といったような点があげられます。
 観光政策というと、誘客のための宣伝プロモーションやイベント開催、近年はエコツーリズムやアグリツーリズムなどの体験型旅行商品プログラムの開発、モニターツアーの実施など、地域が持つ観光資源を活用して、施設整備、観光客誘致を図ることによって、「より多くの観光客を誘致する」ことが優先されてきました。
 しかし、これからの観光地の安定的な発展を支えるためには、地域の魅力づくりの礎となる観光資源や素材の保全と活用を計画的かつ経営的な発想で行っていくことも重要となります。特に、今、地域がもつ観光資源や素材の魅力や人材をどう守っていくか、或いは壊れたり、無くなりつつあるものをどう再生するか、今ならまだ間に合う取り組みを行って、他とは違うその地域特有の“地域らしさ”を保全していくことが必要です。
 以下に沖縄を例としてとりあげて、その重要性について述べたいと思います。

■沖縄らしさの保全

 現在、沖縄観光が注目を集めているのは、「青い海、青い空」や「亜熱帯性気候」、「健康、長寿」、「琉球文化」、「伝統工芸」、「沖縄音楽や琉球舞踊」、「生活スタイル」、「人」などといった沖縄が持つ様々な要素を包括した『沖縄らしさ』に個性的な魅力があることにあります。
 こうした『沖縄らしさ』によって、沖縄観光の魅力が成り立ち、観光客の増加、安定的に発展して、観光産業のこれまでの発展が達成されてきました。また、物産製造・流通の分野でも、『沖縄らしさ』により、沖縄産品が注目を集めています。
 沖縄振興策では、「美ら島ブランドづくり」(地場産品の商品化)の取り組みをはじめ、『沖縄らしさ』のある素材を生産、育成して、商品化、プログラム化して、さらに県外市場へ出荷して産業自立化するための様々な支援策が講じられています。
 こうした沖縄産の商品やプログラムが何故市場で売れているかというと、それら自体が持つ魅力に負うだけでなく、『沖縄らしさ』の特異性や優位性がもつ魅力がその商品をイメージアップしていることが大きく貢献しています。
 沖縄産の商品やプログラムは、こうした『沖縄らしさ』という“強烈なスパイス”をふりかけることによって、一層魅力を増して沖縄ブランドとして高い人気を得ていて、もし、この『沖縄らしさ』というスパイスの強烈さが色褪せれば、あるいは枯渇すれば、こうした構造は成立しなくなることが危惧されます。
 自立化を目指して沖縄で取り組まれている産業振興策をみると、商品化して市場に出そうとする支援が多く、島嶼県の限界性から、どこまで将来にわたって安定的な生産拡大をして発展をとげるかが懸念されます。
 沖縄は島嶼県であるが故に、原材料を自ら大量に生産し、商品化するには限界があります。沖縄自身がもともと持つ素材や資源を守り育てて、高質な『沖縄らしさ』を追求していくことが、これからの沖縄の発展シナリオです。
 そのシナリオを保証するのが、『沖縄らしさ』という沖縄スパイスの強烈さを未来永劫どう保持していくことです。『沖縄らしさ』を枯渇化させないためにも、市場への出荷調整も必要であり、最大の「美ら島ブランド」は“元気なオジイ、オバア”であり、次世代の“元気なオジイ、オバア”を誰が引き継ぐかといった人材の継承も喫緊の課題であり、最大の沖縄振興策です。沖縄観光の持続的発展即ち持続的な商品化もそれにかかっていると考えます。