オンラインツアーに求められる共創的コミュニケーション [コラムvol.449]

 先日、ある2つのオンラインイベントに参加しました。いずれも観光とは関係のない分野がテーマでしたが、個人的には非常に印象的で、観光の分野でも参考になる部分があったことからご紹介したいと思います。

共創型のビールづくりプロジェクト

 ひとつは新しいビールづくりをするためのワークショップです。ワークショップはある共通のテーマに共感して集まったプロジェクトメンバーが、ひとりひとりのビールにまつわるエピソードや想いを語りながら、商品化に向けて好みの味や飲みたいシチュエーションなどを提案する流れで始まり、その後は一般参加者がチャットで意見やアイデアを書き込み、ファシリテーターがそれらの意見を紹介しながらまとめあげるという流れで行われました。

 このワークショップを通じて感じたのは、単にビールづくりをするというのではなく、ある共通のテーマを設定してそれに共感する人々が集まり、テーマにふさわしいビールについてみんなで考えることで生まれる一体感でした。

 ビジネスの世界では企業が様々なステークホルダーと協働して新たな価値を創造する「共創(Co-creation)」という概念が提唱されていますが、今回参加したワークショップはまさにこの「共創」のプロセスそのものだと感じました。

 コロナ禍に見舞われたこの1年あまりは既知の友人・知人以外とのコミュニケーションの機会は減り、趣味や関心のあるテーマでのつながりはSNSのメッセージ機能でやり取りする程度にとどまっていました。そうしたわずかな交流でも自粛期間の心の慰めとはなっていたのですが、オンラインで互いの想いを伝え合い、商品化というゴールに向かって共有した時間は、この特殊な状況下で貴重なひとときとなりました。ワークショップは今後も数回開催されますが、個人的には都合がつく限り参加し、商品化された際には必ず購入したいと考えています。

施設側ではなく参加者の立場で語られる経験価値の説得力

 もうひとつ参加したのはある施設のオンライン見学会です。

 見学会では最初に施設の概要の説明と動画によるバーチャル見学が行われたのですが、そこで印象的だったのは単に施設の紹介だけではなく、施設内の各エリアに滞在した人々がどう過ごして何を感じたかやどんな話が語られたかといった、滞在経験について説明時間の大部分を費やしていた点でした。また、その後は少人数のグループに分かれて参加者同士の交流の時間が設けられたのですが、私が参加したグループでは過去に訪問経験がある方の施設を利用した際のエピソードが印象的で、スタッフの紹介よりも説得力を持って私の心に訴えかけてきました。

共感により育まれる地域への興味・関心

 コロナ禍が続く中、観光地や旅行会社が開催するオンラインツアーは続々と登場しています。本コラムでも武智と中野がオンラインツアーをテーマとして取り上げ、武智はオンラインツアーに参加しての物足りない点としてコミュニケーションが一方通行だった点を指摘、中野は調査結果から限られた時間で参加者とどのようにコミュニケーションを深めるかがポイントと言及しており、両名ともコミュニケーションの重要性を伝えています。

 両名のコラムと私自身のオンラインイベントへの参加経験から、リアルのツアーは観光地と参加者だけで成り立つものではなく、ツアーガイドや参加者、そして地元の人の間での双方向ないしは多方向なコミュニケーションにより生み出された共感が旅行体験をよりよいものにするという共創的な場であり、オンラインツアーはリアルなツアーが提供してきた共創的なコミュニケーションを画面越しでも提供できるかが成否の鍵を握るのではないかという考えに至りました。

 また2つ目のイベントの例からは、単に観光地の魅力を一方的に伝えるのではなく、その観光地を訪れてどんな経験価値が得られるのかを伝えることが共感を得ることにつながり、ひいては地域への興味・関心を生み出すことに結びつくと感じました。

 こうした経験価値をオンラインで実現することは決して不可能ではなく、むしろ同じテーマに関心を持つ人を日本中、世界中から集めることが可能なオンラインだからこそ、適切な手段で十分なコミュニケーションの機会を設けることができれば実現できるのではないかと考えます。

 本格的に旅行を再開できる時期がいつになるかはまだ不透明な状況ですが、この状況だからこそ地域の魅力に共感してくれるファンを集めて増やすためのコミュニケーションの場としてオンラインツアーを活用するのはいかがでしょうか。