海外旅行の経験からインバウンド対応を考えると [コラムvol.404]
コルティナダンペッツォ:中心街「コルソ・イタリア」

はじめに

 9月に入り、徐々に夏の雰囲気が薄れてきている感じがしますが、皆さんはこの夏どこかに旅行に出かけたでしょうか。私はこの夏、数年ぶりにプライベートで海外旅行に出かけました。

 日ごろ仕事として、日本を訪れる外国人旅行者への対応をどうしていくべきか、国内の地域の方々とお話をしたり現場を見たりする機会があるわけですが、自分が訪問地にとっての「外国人旅行者」という立場になると、改めて色々なことに気づいたり、考えさせられたりしました。

イタリア北部を周遊

 今回の海外旅行先はイタリアの北部で、主な訪問地はコルティナダンペッツォとヴェネツィアでした。まず日本からミラノへ飛行機で、そこからレンタカーにてコルティナダンペッツォ(Cortina d’Ampezzo)へ、更にそこからヴェネツィア(Venezia)へと移動しました。

 ヴェネツィアはご存知の方が多いと思いますが移動手段は徒歩か船になりますので、レンタカーはヴェネツィア・テッセラ空港(マルコ・ポーロ空港)で返却、ヴェネツィアからミラノは鉄道で移動し、ミラノから日本へ戻りました。

 なお、コルティナダンペッツォは今年の6月、2026年冬季五輪の開催地にミラノとともに決定した、古くからヨーロッパの人々が訪れるリゾート地です。またヴェネツィアは中世にはヴェネツィア共和国の首都として栄えた都市で、水の都と称される世界有数の観光地です。


イタリアでの主な訪問地と位置関係


海外でのレンタカー移動もスマホにより容易に

 旅の前半、私はレンタカーで移動しましたが、ここで便利だったのがスマホとカーオーディオを統合してくれるアプリ「Android Auto」でした。Android AutoはGoogle社が提供する無料アプリで、自分のスマートフォンにダウンロードし、カーオーディオと接続(※Android Auto対応している必要があります)するだけで、いわゆるカーナビとして利用できます。

 5~6年前にヨーロッパでレンタカーにて移動した際は車に設置されているカーナビを使うしかなかったのですが、これが日本製に比べわかりにくい、また英語が母国語でない国であったこともあり、行き先一つ入力するのも大変でした。

 その時と比較すれば、目的地設定等は元々自分のスマートフォンですので当然日本語で操作ができますし、道案内の音声も日本語、更には事前に目的地を登録しておけば車の中で時間をかける必要もない、と非常に快適でした(なお、iPhoneでも「CarPlay」アプリを活用すれば同様のことができるかと思います)。ただし必要なこととしては、スマートフォンが常時データ通信を行なえる状況にあること(データローミングを使用する、SIMを購入する、海外WiFiをレンタルしていく)が挙げられます。

マーケット側での情報流通が重要に

 日本を訪れる外国人旅行者のことを考えるとどうでしょうか。車の貸出さえきちんと英語等の多言語で対応できていれば、ナビゲーションシステム等を多言語化しなくとも多くの人は対応可能ということになります。また、各地でのフリーのWi-Fiスポットの整備が進められていますが、常時データ通信を行なえる状況を多くの人が実現するようになると、多くの場所でフリーのWi-Fiスポットが必要とはならないかもしれません。

 さらに言えば、カーナビとしての利用に限らず、事前にスマートフォンで色々と情報を集めて事前に場所等を登録しておくということは、出発地で、出発地の言語で集められる情報(私の場合で言えば、日本で、日本語で集められる情報)がより大事とも言えるかと思います。観光地において各種の情報を多言語化することももちろん大事ですが、いかにマーケット側で、母国語での情報が多く流通しているかが重要ではないかと改めて感じました。

旅行者による金銭的負担も必要では

 ヴェネツィアについては近年、観光客数の増加による住民生活等への負の影響(いわゆるオーバーツーリズム)が指摘されていますが、実際に訪れてみると確かに旅行者の多さを実感する場面が多くありました。数値でみても、旅行者が最も多く訪れるヴェネツィアの本島には約5万人が居住しているといわれていますが、本島を含めた歴史的地区の宿泊客数は2017年で約786万人泊(※1)となっています。ヴェネツィアではこうした状況の改善の一環として、本島や歴史的地区への入場を有料化するための条例も2019年2月に制定されました。しかしその後、2019年12月まで有料化については延期されたため私は今回支払うことはありませんでした。

ヴェネツィア:島の中心部に位置するリアルト橋上

ヴェネツィア:サン・マルコ広場につながるパリャ橋

 イタリアではいわゆる宿泊税(領収書表記はtassa di soggiorno=City Tax)が各都市単位で導入されています。税額はホテルの星の数によって、また都市によって異なっていて、私が今回の旅行で体験しただけでも0.75ユーロ(約90円)~4.5ユーロ(約550円)/人泊とかなりの差がありました。最も安い0.75ユーロだったのはミラノ・マルペンサ空港至近のホテル(日本でいうとビジネスホテルのようなイメージ)、最も高い4.5ユーロはヴェネツィアの歴史的地区内のホテルでした。

 宿泊税に加え、更に入場を有料化することが良いことかどうかは何ともいえませんが、ヴェネツィアの状況を実際に見てみると、旅行者、住民の双方にとって快適で持続的な地域づくりのために旅行者が一定の金銭的負担をすることも必要なのではないかと感じました。

 なお、正直なところ私はイタリアに行く前に宿泊税の存在は知っていたものの、その値段について細かい情報は把握していませんでした。仮に知っていたとして、訪問先や宿泊するホテルを選ぶにあたってそのことが影響していたとは考えにくいです。

 日本を訪れる外国人旅行者の立場になると、宿泊税の支払いに慣れている外国人旅行者の場合、私と同じような感覚になる可能性は大いにあると思います。現在、日本においても各地で宿泊税の導入議論が行なわれていますが、検討の際にはそうした旅行者、特に外国人旅行者の立場になってみると、また違った角度で考えられるように思います。

※1 “Annuario del Turismo a Venezia” Città di Venezia, 2017 (“Tourism Yearbook in Venice” City of Venice, 2017)より

快適な空間は重要な要素

 コルティナダンペッツォでは、中心街が歩行者のみ通行可となっており、車はその外周を一方通行で回るような仕組みになっていること、また多くの施設で駐車場が地下に作られており、歩行空間として楽しめるところに車の気配は感じられないなど、旅行者にとっては快適な空間となっていました。

 コルティナダンペッツォには約6千人が居住していますが、2017年の宿泊客数は約115万人泊(※2)となっており、数値だけみればヴェネツィア以上に居住者に対して旅行者の多い場所となります。もちろん、同地のメインはスノーシーズンのためピークが夏のヴェネツィアと異なりますし、地理的状況が大きく異なりますので単純な比較はできませんが、中心街を歩いてもそこまでの混雑感はなく歩いていて気持ちの良い空間でした。

 これも日本を訪れる外国人旅行者の立場に立ってみると、今後日本としてターゲットとしたい欧米豪の一定の所得水準以上の方々は、こうした快適な空間を多く経験している旅行者と考えられ、訪問場所や時間の分散化といったソフト的な手段とともに、快適な空間をいかに創り出していくかが重要と考えられます。

コルティナダンペッツォ:中心街「コルソ・イタリア」

※2 “MOVIMENTO TURISTICO IN ITALIA” Istat, 2017 (“TOURIST MOVEMENT IN ITALY”, Istat, 2017)より

おわりに

 今回は、ITを活用した情報提供や受益者負担、空間整備といった点について私見を述べましたが、海外旅行に出かけることで気づくことはその他にも様々あると思います。インバウンドを促進するためにはアウトバウンドも促進しなければ、と言われますが、それは単に人の「数」としてのバランスを取るという意味合いだけでなく、異文化に触れることで人の「意識」を変えるという意味もあると思っています。今後も、海外旅行の機会があるごとに様々な気づきを得て、それを地域づくりへと役立てていきたいと思います。