地域のキャッシュレス化を推進するために [コラムvol.368]
都心では完全キャッシュレスの駐車場が登場

 私事ですが先日23区内から郊外の住宅地に引越しをしました。それに伴い近所に住む人の層は働き盛りの単身者や夫婦が中心だったのが家族や高齢者などに様変わりをしました。

 周りにはスーパーなどがいくつもあって住みやすい環境なのはいいのですが、その一方で驚いたのはそれらの店の多くで現金でしか支払いができないことでした。クレジットカードはおろか電子マネーさえ一切使えません。これまでほとんどの支払いをクレジットカードか電子マネーで済ませていた身としては非常に不便に感じます。そして、帰宅時には最寄りの郵便局のATMに長蛇の列。都内でこれだけの違いがあるとは思ってもみませんでした。

 おそらく東京以外でも大都市を除いては似たような状況なのではないでしょうか。他国に比べて日本人は現金主義だとニュースでも目にする機会はありましたが、ここまでとはと驚いたのが正直なところです。それと同時に危機感を覚えました。

旅行者だけでなく住む人にとって重要となる地域のキャッシュレス化

 というのも、これだけ訪日外国人旅行者が増えており地方への誘客を進めようとしている中で、外国人が自国で使い慣れている決済手段が使えないというのはかなり不満に感じるだろうと思ったからです。特に、注目すべきは中国です。中国では急速にキャッシュレス化が進み、現在では屋台でさえ電子決済でしか買い物ができない状況にまで至っているといいます。年間700万人以上の規模にまで拡大した中国マーケット、一時の爆買いは一服したとはいえ、購買意欲が高い層であることは変わりません。こうした旅行者がストレスなく国内を旅行できるようにするためにも、早急に改善を行う必要があります。

 政府は「日本再興戦略」の中などでキャッシュレスを推進する方針をすでに打ち出しています。2017年に発表した「未来投資戦略2017」では、2027年までにキャッシュレス決済比率を2016年の20%から40%にまで引き上げる目標数値を掲げています。また、2020年までに外国人が訪れる主要な商業施設、宿泊施設及び観光スポットにおいて「100%のクレジットカード決済対応」及び「100%の決済端末のIC対応」を実現することに向け、決済端末の設置を働きかけるとしています。

 外国人が多く訪れる土産物店や飲食店などでのクレジットカード対応はすでに進んでいるところも多くありますし、おそらくこれからも順調に対応が進んでいくものと思われます。

 問題は観光地以外の地域のキャッシュレスの推進だと個人的には感じています。これからよりFIT化が進み外国人の訪問先が多様化する上でも重要ですし、今後は住む人のためにもキャッシュレス化を進める必要があると考えられます。それも地方ほどです。

 その理由は、今後はATMが地方部から減少すると想定されるためです。ATMを維持するためには一定以上の利用件数があり採算が取れることが条件となりますが、人口減少により厳しい状況になることが予想されるからです。そうした意味では地方に住む、特に高齢者をいかに取り込めるかがキャッシュレス推進のカギを握るのではないでしょうか。

 そうした中で、最近ニュースでも取り上げられたのが「キャッシュアウト」というサービスです。キャッシュアウトというのはスーパーなどの店舗のレジで銀行口座から現金を引き出すことができるサービスで、海外では広く普及していると言われています。日本では銀行法の改正により2018年4月からサービスが開始されました。

 キャッシュアウトはキャッシュレス化に抵抗がある人にとっては歓迎すべきサービスなのだと思いますが、やはり観光という観点からは、現金を引き出しやすくする方向ではなくクレジットカードや電子決済などのキャッシュレス化の方向に進んでほしいというのが正直なところです。

地域のキャッシュレス化を進めるためには

 ではどうすれば地域のキャッシュレス化は進むのでしょうか。

 日本人が現金主義なのは、電子決済やクレジットカードなどはお金の動きが見えないことや、スキミングなどの犯罪に対する不安感が大きな理由のひとつだと言われています。こうした不安を払しょくするためには、サービスを正しく理解して適切に使用できるようにする以外の解決策はないように感じます。

 そこで思いだしたのが、前職の携帯電話会社で行われていたシニア向けの携帯電話の使い方教室でした。当時はまだ低かったシニア層の携帯電話普及率を上げるために行った施策で、現在も同様のセミナーがショップで開催されているようです。特に、電子決済を利用するにあたって携帯電話が必須ですから、そうした場で取り上げることは効果的だと思われます。もちろんそれ以外にもカルチャースクールやテレビの教育番組など、シニア層との接点となる場はいくつもあります。地道な活動ではありますが、こうした活動を通じて理解を深めることがキャッシュレス化推進の足掛かりになるのではないでしょうか。