地域の自然資源管理と利用者参加の仕組み~登山道整備に参加して~ [コラムvol.486]

コラムvol.467で、中部山岳国立公園で行われている「北アルプストレイルプログラム」に触れながら、山岳利用における責任ある観光行動、登山者ができることを考えました。「北アルプストレイルプログラム」では、登山道維持協力金の任意での支払い、つまり費用面で登山道維持に協力することを呼びかけていましたが、自然地域の適切な管理のために利用者が実際の担い手となること、つまり管理に必要な労働力面での協力を呼びかける動きやその参加機会を提供する取り組みも増えているように感じます。今回は、私自身が参加した2つのプログラムと、そこで感じたこと・考えたことをご紹介します。

上高地地域・焼岳での登山道整備学習会

1つ目は、信州まつもと山岳ガイド協会やまたみが「北アルプストレイルプログラム」の一環として開催した「登山道整備学習会」です。昨年2022年は計3回開催され、私は第3回(10月15日(土)~16日(日))に参加しました。行程としては、1日目に座学で登山道整備の歴史や目的、方法を学び、2日目に焼岳登山道まで行き歩荷と施工など実技講習を行いました。北アルプス南部では、自然災害の多発などの環境変化によって従来と同様の対応では登山道の維持が追い付かなくなっていることが課題です(詳細は、「北アルプストレイルプログラム」HPをご参照ください)。今回の学習会は、そういった課題に対して、行政や山小屋関係者だけが登山道維持に関与するのではなく、道を使う登山者自身も維持に関わるような仕組みを模索するものです。


写真:登山道整備学習会の様子(2022年10月筆者撮影)

乗鞍での国立公園の景観維持に関わるモニターツアー

2つ目は、松本市アルプス山岳郷が企画した「国立公園の景観維持に関わる白樺の間伐材を活用したベンチ制作体験ワーケーション」です。2022年11月3日(木)~4日(金)の2日間のうち、1日目はオリエンテーションと一の瀬園地ウォーキングを通して歴史・背景の説明を受け、2日目に白樺の間伐材を使ってベンチを制作しました。乗鞍高原では昔から人が自然を利用しながら暮らし、それによって美しい自然風景が維持されてきましたが、近年の人口減少などによりそうした二次的自然の風景が保てなくなっています。白樺もその一端で、伐採する人の手が少なくなり、園地内に生い茂ってしまうことが問題化しています。今回のモニターツアーは、その白樺の間伐材をベンチとして有効活用することで乗鞍高原の景観維持に協力しようとするものです。完成したベンチは園地内の池周辺などに置き、一定期間が過ぎると朽ちて自然に還っていき(そのために鉄の釘などの素材は使いません)、次のベンチを置くというサイクルとなっています。

写真:完成したベンチ(2022年11月筆者撮影)

直接的な貢献実感と継続性に対する懸念

登山道整備学習会とベンチ制作による景観維持モニターツアーに参加して、一参加者としては直接的に地域の課題解決に協力できたという貢献実感を持つことができました。どちらの体験も、1日かけて全員で汗をかいた結果が目に見える形となるため、純粋な嬉しさ、達成感が感じられます。直った道や出来上がったベンチを見て参加者も主催者である地域の人も自然と笑顔になり、その場にいた人同士でのそこにしかないつながりもできたように思います。協力金を支払うだけでは、そのお金がどのように使われるのかを隅から隅までは追えませんが、こうした労働力面での協力では自分自身の関わりがその場に残るのです。他の参加者からも「この道を通るたびに整備に関わったことを思い出す!」という声が聞かれました。

一方で、こうしたプログラムやツアーが今後も継続されるのか、地域の自然資源の持続的な管理の一手段として定着するのかといった点は未知数です。SDGsやサステナブルツーリズムの関係で企画自体は増えつつありますが、行政の補助金で成り立たせているものも多く、自走できるまでの制度・仕組みに至っているものは限られるように見えるためです。利用者一人一人の善意に依拠している点も継続性確保の点では気がかりです。地域の自然資源を持続可能な形で管理していくための方法を考える上では、利用者個人に対してだけでなく旅行会社や交通事業者といった利用者を地域に送り込む産業側へのアプローチなど、検討すべき点はまだ残されていると思います。