年頭にあたって休暇計画を [コラムvol.108]

 働く人々が心身をリフレッシュするためには、まとまった休暇を計画的に取得することが重要です。また、観光地においては交通混雑の緩和や施設経営上、旅行需要の平準化が求められています。そのためにはオフシーズン期の魅力にも光を当てることが必要であり、それにより新たな旅行需要の創出も期待されます。

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 昨年の秋、紅葉が美しい下北半島の恐山へ向かう路線バスに、私を含む女性のお一人様が3名と男性が1名、そして外国人が3名乗っていました。こんな半島の突先まで外国人が、と感慨深いものがありましたが、その中のルクセンブルクから一人で来ていた若い男性は、2年に一度、約3週間の行程で日本を訪れるとのことで、その旅行スタイルに驚きました。日本の紅葉の美しさに惹かれ、一眼レフを抱えてたくさんの写真を撮る彼は、日本以外に海外旅行へは行かない「ニッポン一筋」。計画的に作り出した自由になるお金も時間も我が国に捧げてくれる”上お得意様”に見えました。

 こうした長期の休暇・海外旅行の習慣は、日本人にはなじみが薄いもので、逆に日本では、年初のお正月から始まってお盆や農閑期の湯治など、四季折々に農林漁業といった生産活動と連動しながら短・中期の休暇を楽しんできたといえるでしょう。これが、経済の工業化の進展とともに、一斉操業・休業という効率化追求の下、人々の勤務時間も休暇の取り方も画一化していきました。

■求められる休暇の分散

 このように固定化している日本人の休暇がもっと分散し、人々の移動のピークが少しでもなだらかになることが、今日の観光産業に求められています。旅館・ホテルなどの宿泊施設は装置産業・労働集約産業であるため、旅行需要が一時期に集中し、逆に閑散期が長く続くことは、施設の遊休化を招き、従業員の正規雇用を難しくします。施設の効率的な利用や従業員の雇用の面で、旅行需要が年間を通じてできるだけ平準化することが求められているのです。

 今年のお正月、そして昨年秋の大型連休の際も、多くの人々が帰省や旅行のために地方の実家や滞在先などへ向かい、観光地が賑わったとともに大規模な交通混雑が発生しました。特に秋の大型連休の際には、高速道路料金千円の影響もあって宿泊が好調だった観光地もありましたが、客室数の制約により、「泊まりたいのに泊まれないお客様」が出て機会損失が発生したケースもあったようです。つまり、1週間の連休が1回あるよりも3連休が2週末ほど続くというように、人々の休暇が適度に分散することが、特に宿泊施設にとっては好都合なのです。

■四季折々に休暇取得を

 旅行者にとっても、休暇をいつでももっと自由に取れるようになれば、混雑や渋滞によるストレスや疲労から開放され、宿泊費についても高額な繁忙期料金を免れることができます。何より、四季折々に自然の美しさに細やかな変化があり、食の魅力も多様な我が国では、現在のシーズン期に加えて晩秋や冬、春先の旅行がもっと注目されてよいでしょう。仕事柄、年間を通じて、特に平日に観光地を訪れることが多いのですが、「これでも、シーズン期の週末は結構混み合うんですよ…」と地元の人が寂しそうに言う晩秋のブナ林なども、力強く根を張るブナの息づかいが聞こえてきそうな気配を静かにかみしめるには、この時季も「better」と思うのです。現在オフシーズンになっている季節に上手に光を当てることで、旅行需要の創出も期待できるでしょう。

 特定の祝日や歳時に根ざすお正月やお盆の休暇は、長年の慣例として遠くに暮らす家族が揃う年に数回の貴重な機会でもあることから、全国的に変更したり分散させることは難しく、この時期に人々の移動が集中するのは仕方がないでしょう。
 しかし、4月末から5月、夏季・冬季といった季節的な休暇については、企業や働く人ひとり一人が意識を変えることで個々人が、また地域別に、少し日をずらして取得することもできると思われます。混雑の緩和にはいくつかの手だてがあり、列車・航空の便といった供給量を増やしたり、弾力的な運賃を設定することで必ずしもピーク時に移動するニーズがない人を排除するといったこととともに、旅行者の発地を分散させることも考えられるでしょう。

 私自身、昨年は夏休みとして約4年ぶりに長めの休暇を取り、ブリュッセルとパリへ出かけました。出発日は7月の平日で、深夜便のため成田空港は人もまばら。あっという間に出国手続きが済みました。お盆や年末の出国ピーク時とは比べものにならないくらいのスムーズさです。また、航空券も出国・帰国日がともに平日ということで、正規割引運賃がかなり安くなりました。日本は酷暑の7月、ヨーロッパはとても過ごしやすく、1週間の滞在中は完全に仕事を忘れて心身共に一息つき、想像以上にリフレッシュできて、あらためて旅が持つ効能の大きさを感じました。

 2010年も約半月が過ぎました。以前は新しい手帳を手にすると、真っ先に5月の大型連休や年末年始の曜日配列をチェックしていました。それがここ数年、年の始めにその年の休暇計画を立てることがめっきり少なくなりました。つい忙しさにかまけてしまったのですが、年頭にあたり、今年は自分自身の休暇をもっと大切に、四季折々で計画を立ててみようと考えています。それは、昨年の「オフピーク夏休み」の体験、そしてルクセンブルクの彼から学んだことでした。

春の農村歌舞伎(福島県檜枝岐村)
春の農村歌舞伎(福島県檜枝岐村)
初夏の花菖蒲(小田原市)
初夏の花菖蒲(小田原市)
秋の恐山(青森県下北半島)
秋の恐山(青森県下北半島)
晩秋のミクリガ池(富山県立山町)
晩秋の立山連峰とミクリガ池(富山県立山町)