宿から地域活性化を考える [コラムvol.164]

2012.04.13

観光調査部 高橋葉子
研究員コラム

 先日、ちょっと変わった宿泊施設を訪れる機会がありました。一室の広さは、たったの5㎡(畳三畳)。ところが、その快適性を求めて海外からの宿泊客も多いと言います。さて、どんな宿なのでしょうか。

≪街に開かれたゲストハウス≫

林会館の屋上庭園 林会館の屋上庭園
(ヨコハマホステルビレッジ)
 その宿は、JR石川町駅から徒歩5分。周辺には元町商店街や中華街があり、横浜観光には最高の立地です。一泊3千円、トイレ・シャワー共同・・・そう、日本三大ドヤ街として知られる「横浜寿町」のゲストハウスです。かつては日雇い労働者の街としてにぎわっていた寿町ですが、現在は福祉の街(居住者の7割が高齢者、9割が生活保護者)へと様変わりしていました。約7000室ある簡易宿泊所は、入居者の高齢化にともない、その2割程度が空き室となっています。(特にエレベーターのない物件では、4階より上階の空き室が増加。)そんな状況を変えようと2005年にオープンしたのが「ヨコハマホステルビレッジ(以下、YHV)」です。
 YHVを運営するコトラボ合同会社は、提携先である簡易宿泊所オーナーから委託を受け、受付業務や清掃などの管理運営を行っています。宿泊者の4割を外国人が占め、リピーターや長期滞在も少なくないと聞くと、同じドヤ街の山谷を思い浮かべる方も多いと思いますが、大きく異なる点があります。YHVでは、複数の施設を一元的に管理しているため、各施設の競合を避け、効率的な集客や情報発信ができるのです。
 宿泊客は、まずフロントのあるヘッドオフィスで受付をおこない、自分がその日に泊まる宿の案内を受けます。フロント横のラウンジスペースでは、英会話教室や月1回の誕生日パーティーなどの様々なプログラムが用意されており、宿泊者同士の交流だけでなく、地元横浜のクリエイティブな若者が集まる“場”となっています。

≪まちなかで、農山漁村で、新たな付加価値を再生させた宿泊施設≫

 このようなリノベーションによって新たな付加価値を再生させた宿泊施設の事例は、全国各地でみられます。例えば、大阪の「HOSTEL 64 Osaka(ホステル ロクヨン オオサカ)」は、事務所ビルをリノベーションしたホテルです。改修を手がけた株式会社アーツアンドクラフトは、建築基準法や条例などを整理し、宿泊施設に転用しやすい要件を満たす物件を数百件の中から絞り込んだそうです。レトロな外観とデザイン性の高い内装が受け、外国人はもちろん、建築や音楽に関心の高い人たちが集うデザインホテルとして知られています。
 一方、長崎では「小値賀古民家ステイ」が話題を呼んでいます。一般的に古民家の保存には膨大な費用がかかるのですが、一棟貸しの民宿として有効活用し、新たな客層を取り込むことに成功しています。5棟ある古民家のうち、1棟をレストランに改修し、地元の食材を使った料理を提供しており、島の魅力を味わうことも可能です。農山漁村においては、数年前に農家民宿の規制が緩和されたこともあり、古民家を活用した民宿は増えていますが、小値賀の場合は、古民家をオーナーから借りて転貸する「短期賃貸借契約」という方法で運営しているという特徴があります。

≪空き家活用から発想する滞在スタイル≫

 これらの宿に共通しているのは、「宿泊」という機能と「食」や「体験プログラム」、「イベント」などを有機的につなぐことで、その土地ならではの滞在スタイルを提案している点です。宿泊施設単体の動きとせず、地域と連携して展開することで、地域に新たな需要を生み出し、地域活性化に一役も二役も買っているのです。全国的に空き家率が上昇する中で、宿泊施設へのリノベーション(転用)を考えるオーナーや事業者は少なくないと思いますが、旅館業法の基準クリアなど、ハードルがあるのも事実です。ともあれ、ツーリストの立場では、その土地の魅力を肌で感じることができるこうした宿は、これまでにない新たな選択肢として期待できるのではないでしょうか。


■リノベーションで新たな付加価値を再生させた宿泊施設の一例
リノベーションで新たな付加価値を再生させた宿泊施設の一例

【参考】
 ◎ヨコハマホステルビレッジ http://yokohama.hostelvillage.com/ja/index.php
 ◎HOSTEL 64 Osaka http://www.hostel64.com/
 ◎小値賀古民家ステイ http://ojika-stay.jp/

 

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