「キャリング・キャパシティ」は算出できるのか(その5) [コラムvol.115]

2010.04.23

観光調査部長 寺崎竜雄
col-115

 前々作vol.71に"キャリング・キャパシティは関係者間の話し合いに基づいて決めるもの"と書きました。今回は、その決定過程となりうる「地域社会(コミュニティ)を基盤とした地域資源の管理運営手法」について考えてみることにします。

■コミュニティ主体の資源管理

 自然公園や世界遺産などの保護地域に近接するコミュニティにとって、そこを訪れる観光客の観光消費は貴重な収入源です。コミュニティにとって誘客の源泉である自然環境をはじめとする地域資源の保全が大切であることはいうまでもありません。しかしながら、コミュニティが日常的かつ主体的に、地域資源の状態を気にかけ、保全活動を実践しているケースはどれほどあるでしょうか。そもそも観光振興についても、短期的な客数の変動には注目するものの、中長期的な観光ビジョンにかかわる話し合いを重ね、観光地としての方向性を共有しているコミュニティは、それほど多くはないと思います。
 「地域資源」と「コミュニティ」と「観光」は、観光経済面の他にも、保全すべき地域資源とコミュニティの日常生活領域が近接しているケースが多い点、コミュニティが信仰上のしきたりなどによって立ち入りを制限してきたために保たれてきた地域資源が観光対象として注目されているという側面などをみても、密接にかかわっています。
 自然環境をはじめとする地域資源の保全、コミュニティのほどよい暮らしぶり、適正な観光振興の三つに配慮した包括的な地域の管理運営を考えていかなければなりません。

■オーストラリア・カンガルー島における観光地の管理運営モデル(KI-TOMM)

 コミュニティ主体の観光地の管理運営手法の先駆例として、オーストラリアのカンガルー島で実施されているKangaroo Island, Tourism Optimization Management Model(KI-TOMM)の概要を紹介しましょう。カンガルー島は、オーストラリアでは3番目に大きい島で、一年間に15万人程度の観光客が訪れています。島域の47%が原生林に覆われており、そのうちの50%は国立自然保護区という自然の豊かなところです。ある時、島へのフェリー航路新設のはなしがもちあがりました。日帰り客がどっと押し寄せるようになるのではないか、これによって島の観光はどのようになるのか、コミュニティはどのような観光を望んでいるのか、観光の価値とは何なのか、を確認しようとする作業が、このシステム構築のスタートでした。
 まず、コミュニティ内の検討会として、

  • 地域コミュニティの代表者(Community Representative)
  • 観光産業の代表者(Tourism Industry Representative)
  • カンガルー島行政(Kangaroo Island Council)
  • カンガルー島自然保護機構(Kangaroo Island Natural Resources)
  • カンガルー島開発機構(Kangaroo Island Development Board)
  • カンガルー島観光協会(Tourism Kangaroo Island)
  • 南オーストラリア州政府観光局(South Australian Tourism Commission)
  • オーストラリア政府環境省(Department for Environment and Heritage)

によって構成される管理運営委員会が設立されました。
 次に、この委員会では、観光利用や資源の状態を客観的に示すために、約50個の指標をリストアップし、その中から実際に計測可能な15個を選びました。例えば、

  • 「島内観光の満足度」といった『観光体験にかかわる指標』
  • 「観光消費額」や「宿泊数」といった『観光経済にかかわる指標』
  • 「ズグロチドリのつがい数」といった『環境にかかわる指標』
  • 「観光収入のある住民比率」や「観光関連事項の決定に関与していると感じている住民比率」といった『地域社会にかかわる指標』

などです。この中に、コミュニティの暮らしぶりや住民意識に関わるものまで含まれていることは、既存の計画手法にはみられないKI-TOMM独自のものだといえます。
 そして、指標ごとに目標とする水準値(許容可能な範囲)を設定します。そして、調査によってこれら指標値の変化を継続的に把握し、変化の要因を分析し、目標達成にむけた適切な対応策を展開していきます。例えば、島内観光の満足度を知るために、観光客を対象としたアンケート調査を常時実施しています。アンケート用紙の質問数は30項目にものぼります。このようにして取得したデータによって、感覚的にとらえられていた諸々の状況が、客観的に把握できるようになりました。何が起きているのかを想像するのではなく、現実を直視することは、関係者間の話し合いを有意義なものにするために、とても重要なことです。
 KI-TOMMは、「観光レクリエーション体験」「施設整備」「地域振興」「資源保護」の包括的管理運営手法です。キャリング・キャパシティ、つまり観光客の入域人数の制限は、いまのところ特定の自然保護区においてのみ設定しており、島全体としては観光客数のゆるやかな増大を目指しているようです。
 システム継続のための経費は、委員会の構成団体からの拠出に頼っており、この資金不足が課題だそうです。しかし資金難を嘆くことなく、現存の資金で現実的にできることをやり続けている点は、おおいに見習うべきところでしょう。

無人のアンケート調査所
カンガルー島空港でアンケート調査に回答する観光客。
空港待合所には、無人のアンケート調査所が常設されている。

ペリカンの餌づけショー
ペリカンの餌づけショー。コミュニティでは、慣例的に行われてきた
このショーのあり方についての検討もすすめられている。

 

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