「観光地の品格」について考えてみませんか [コラムvol.15]

2008.01.18

企画課長 寺崎竜雄

印象に残った旅先のことをふりかえってみると、そこで暮らしている人たちのことが思い出されることがよくあります。彼らの何気ない生活の一場面にふれて、気高さを感じたことはありませんか。

■印象に残った旅

 思い出を語ることが主題ではないのですが、イメージしやすくするためにいくつかの例を。もう20年近くも前になりますが、鹿児島県のとある町にヒアリング調査に行ったときのこと。気の重たい仕事を前に目的地である町役場にむかってとぼとぼと歩いていると、向こうからやってくる小学生たちが、ひとりひとりこんにちはと声をかけていきます。ちょうど下校の時間らしく、数十人の子どもたちとあいさつをかわすことに。ほのぼのとした気分になるとともに感嘆。子をみると親がわかるといいますが、この子たちには日本の近代史を塗った薩摩人の誇りがしっかりと受け継がれているような気がします。彼らには当たり前で日常のことかもしれませんが、わたしにはこのまちの気品が鮮烈に伝わってきました。 ニュージーランドのオークランドでのこと。レンタカーを道路端のパーキングゾーンにとめたものの、パーキングメーターの使い方がわからなくて途方にくれていると、通りかかった人が自分の硬貨をメーターにいれ、これでいいですよとひと言いって去っていきました。スマートな対応に感激。ニュージーランドでみられる庭園のごとく美しい街並みは、そこに暮らすひとたちの内面のあらわれだとはいいすぎでしょうか。人との不要な接触をさけ、不都合なものには目を覆うということに慣れ始めた頃でしたが、親切という言葉だけでは表現しきれない心のゆとりと気高さに触れて、あらためて自分を振り返ることに。

■小笠原の魅力

 小笠原によく行きます。小笠原諸島は東京からちょうど1,000km離れたところに位置する島嶼群で、アクセスは片道25時間かかる船だけ。一回の旅行には少なくとも6日間かかります。人が生活するのは父島と母島で、人口はあわせて2,500人程度です。大陸と陸続きであったことがない海洋島であることからこの島にしか生息しない固有種が多く、世界自然遺産への登録の準備がすすめられている自然の豊かなところです。 小笠原の魅力は何ですかと聞かれると、それは島民の暮らしのリズムだとわたしは答えています。自然景観はすばらしいし、クジラやイルカもみられます。知的好奇心が旺盛な人には学術的にも貴重な自然資源をじかにみられることは大きな楽しみでしょう。しかしこのような観光資源は、小笠原独特の時間の流れとリズムの中でみるからこそ、感激が大きいのだと思っています。 小笠原には不幸な歴史があります。島民はそれを乗り越えてまた島に戻ってきました。期するとことがあって小笠原に移り住んだ人もたくさんいます。島民はだれもが島を愛しています。不便だけれど、すばらしい自然に囲まれた生活を心の底から楽しんでいます。 1週間に一度の入港日夕方、スーパーは買い出しの島民で活気にあふれています。お昼休み前後のメインストリートには仕事場と家を行き来する人たちによるミニラッシュがあります。島の子どもたちがガジュマルの木で遊んでいる様子。小さな子供をつれたお母さんたちの海端会議。生活のリズム、暮らしの場面は、自然景観とあわさった一枚の絵にみえます。そして、ことばをかわさなくても島民の生き方への意志が感じられるのです。

■観光地の品格

 頻繁にあちこちに出かけていると、見たもの聞いたこと、果てには行った場所すら手帳に頼らなければ思い出しにくいものです。なおさらのこと、昔行った旅行のことなどは写真でも引っぱりださない限りほとんど忘れてしまっています。とはいうものの、いくつかのシーンは鮮明な記憶として残っていることも確かです。わたしの旅の想い出は、行った先でみた地域に根を張った人たちの暮らしぶりにかなり支配されています。自分探しの旅とはよく言ったものです。 魅力的な観光地とは、わがままを何でも受け入れてくれるような受動的なところではなく、生き方へのメッセージをなげかけてくるようなところだと考えています。メッセージの発信者はいうまでもなくそこに暮らしている人たちです。彼らの静かなる誇りが、表情やしぐさとして表現されて観光地の品格をつくり、その品格が人を魅きつけているような気がします。

ガジュマルに集まる子供たち
ガジュマルに集まる子供たち(小笠原母島)
お母さんたちの海端会議
お母さんたちの海端会議(小笠原母島)

 

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