風景の「発見」から考えること [コラムvol.17]

2008.02.01

研究調査部 堀木美告

目に映る風景の変化は、日常生活から離れて旅に出たことを実感させてくれる、重要で分かりやすい要素です。しかし風景を切り取るまなざしは時代とともに移ろい、また個々人によっても異なります。現在の旅行者は、どのように風景を捉えているのか、考えてみました。

■地域の彼我の差を感じさせる風景の変化

 旅行者が「ああ、××へやって来たのだな」「自分が暮らしている地域とは違うな」と実感するのは、どんな瞬間でしょうか。お国言葉で出迎えを受けたとき、独特の食材や料理に出会ったとき、気温や湿度など大きな気候差を体感したとき…。もちろんその“瞬間”は十人十色、同じ旅行先に出かけて行っても、何をもって日常生活との差異を感じ取るかは人それぞれでしょう。しかし、やはり日常では目にすることのないような素晴らしい風景に出会ったとき、あるいは普段触れることがなくなったちょっとした懐かしい風物に触れたとき…など、「ある風景」を目にして旅に出たことを実感することが多いのではないでしょうか。

■風景を成立させる視点と、「発見」される風景

 中村良夫氏(東京工業大学名誉教授)は、「景観とは人間をとりまく環境のながめにほかならない」*としています。これによると、景観(あるいは風景)とは人間の存在との関係性において定義されるものであることが分かります。つまり、たとえそこに美しい山岳や河川等が存在しても、それを眺める、あるいは気づく「視点」がなければ風景は立ち現れないということです。この意味において、風景とは「発見される」ものだ、という言い方をすることもあります。例えば、上高地の河童橋から眺める穂高連峰と梓川の風景(写真1)は、今や非常に多くの人たちに知れ渡っており、誰しもが何らかの形で(実際には訪れていなくとも)目にされたことのある風景かと思います。しかし、そもそもは英国人宣教師のウォルター・ウェストンによって明治時代に広く世界に紹介されたものです。また、昨夏、単独の国立公園となった「尾瀬」(写真2)も、現在のようにアクセスが整備される以前は、ごく限られた人々だけが目にすることのできる風景だったのです。
 観光ポスター等でおなじみの北海道美瑛町の雄大な農村景観や、愛知万博の開催地選定時にも注目を集め、写真集やガイドブックも出版されている里山や棚田の風景(写真3、4)も同様に「発見された」風景だと言えます。これらの風景が広く知れ渡った理由として、こうした風景に被写体として着目した写真家の存在があげられます。美瑛町の農村景観については前田真三氏が、里山の風景については今森光彦氏が世の中に紹介したと言われます。上高地や尾瀬の風景が交通アクセスの整備によって大衆化した風景であるのに対して、美瑛町や里山の農村景観は、人々の風景に対する意識(視点)が変わったことで大衆化した風景と言えるでしょう。写真家という、「見る(観る・視る)」ことに関してのプロフェッショナルとも言える人たちがその魅力に気づき、光をあてたというわけです。

■旅行者が風景を「発見」し「発信」する時代へ

 このように、ある風景が一般化・大衆化されるプロセスの一つとして、?目利きによる風景の発見と紹介→?メディア等を通じた風景の共有→?風景が観光対象となり大衆化、という流れがあることが見えてきます。近年、旅慣れた人たちはガイドブックやパンフレットに掲載されている情報だけでは満足しなくなっていると言います。かつては誰もが共有できる風景を現地(観光地)へと出かけて「確認」すること(上のプロセスでいうと、?の部分)が旅行の大きな楽しみ方の一つだったでしょう。しかし現在の旅行者は既存の風景を共有し確認することだけでは飽きたらず、自分の視点で風景を発見すること(上でいうと、?のプロセス)に喜びを見出しているように思います。あわせてブログという個人レベルでの手軽な情報発信手段を得た(上でいうと、?のプロセス)ことが風景への関わり方を大きく変えたように感じます。個人が発見した風景があっという間に多くの人たちの間で共有されるようになる、という可能性もあるわけです。

 旅行者が風景を発見する視点と、それを情報発信する手段を持ち合わせた現在では、観光地づくりに携わる地域側としても、画一的な価値観に対応するだけでは立ちゆかなくなってきたと見ることもできます。この意味において、観光地側は旅行者に満足してもらう「最終的な形(風景に限らず、施設、体験、その他サービスなどを含みます)」を提供するだけではなく、「旅行者が自分たちの楽しみを自分たちで選び取る」ための選択肢を示す、という部分がより重視される時代と言えるかも知れません。

* 中村良夫ほか「土木工学大系13 景観論」彰国社(1977年)

上高地から望む穂高連峰と梓川 ミズバショウの咲く尾瀬ヶ原と至仏山 琵琶湖畔にのこる里山の水辺 長野県白馬村の山間に拡がる棚田の眺め
写真1  上高地から望む穂高連峰と梓川

写真2  ミズバショウの咲く尾瀬ヶ原と至仏山

写真3  琵琶湖畔にのこる里山の水辺

写真4  長野県白馬村の山間に拡がる棚田の眺め

 

この研究員のその他のコラム

 

最新研究員コラム

観光研究コラム一覧