地域を深く知るために [コラムvol.375]

2018.07.30

観光地域研究部 主任研究員 五木田玲子

「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」世界文化遺産登録

 2018年7月、「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」の、世界文化遺産への登録が決定しました。各種記事で取り上げられている通り、登録までは紆余曲折があり、イコモスの指摘を踏まえ、当初の「長崎の教会群とキリスト教関連遺産」から日本の特徴である禁教期に焦点を絞っての登録でした。

 登録直前、構成資産の一部を訪れる機会がありました。調べてみると、12の構成資産のうち、教会は長崎市の「大浦天主堂」のみ。あとは、キリシタンが「潜伏」するきっかけとなった「原城跡」と、長年にわたり信仰が密かに続けられてきた10の「集落(集落跡)」から構成されています。旅行パンフレットやガイドブック等を見ると、野崎島の旧野首教会や天草の﨑津教会など、教会や天主堂の写真がクローズアップされて掲載されていますが、大浦天主堂を除くこれらは禁教期が終わった後に建てられていることから教会単体では構成資産にはなっておらず、公式パンフレットでも「その他のポイント」として紹介されています。つまり、教会に行った=世界遺産を訪れた、ではないのです。教会の建築的な素晴らしさではなく、禁教政策の中、密かに信仰を守り継いできたという”ストーリー”が評価された世界遺産、これまでの遺産とは異なり、一見、わかりにくい、と感じる観光客も多いかもしれません。

写真1 野崎島の集落跡(左)  写真2 天草の﨑津集落(右)

ストーリーや背景の理解には欠かせないガイドツアー・体験プログラム

 対象物を視覚的に認識することができれば、美しさや大きさ、珍しさなどをもって、その素晴らしさを体感することができます。そしてさらに、その背景やストーリーを知ることで、より感動が深まります。「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」もその典型でしょう。

 背景やストーリーの理解や興味を促すもののひとつとして、ガイドツアーや体験プログラムがあります。もちろん、案内板などでも、「いついつ、ここで、こんなことがあった」といった客観的事実などの最低限の事実を知ることはできます。しかし、ガイドツアーに参加すると、目には見えないその地域の生活や文化、その地域に受け継がれてきたお話やガイドの方ご自身の思い出話など、資料を読むだけではなかなか感じ取ることのできない、より深い世界を体感することができます。

 私が潜伏キリシタン関連遺産を訪れたときも、いくつかのガイドツアーに参加しました。皆さんは旅行する際、こういったガイドツアーや体験プログラムに参加しますか?いったい、どのぐらいの方が参加しているのでしょうか?

 (公財)日本交通公社「JTBF旅行実態調査2016」では、現地ツアー・オプショナルツアー・体験プログラム等の参加率は全体で13.5%でした。これを同行者別に見ると、「家族旅行」の参加率は17.3%と高い一方、「ひとり旅」では9.1%に留まります。「ひとり旅」の参加率が低い理由のひとつとしては、多くのツアー・プログラムは催行2人以上であることが挙げられると考えられます。安全性や採算性等の課題はありますが、1人でも参加しやすい環境があれば、「ひとり旅」の参加率もより高まる可能性があるのではないでしょうか。

 また、来訪経験別にみると、その地域を「初めて」訪れる場合のツアー参加率は10.7%に留まりますが、「2回目」になると22.0%に高まり、以降、来訪回数の増加とともに、参加率は低下しています。このことは、当該地域への来訪経験に応じ、バリエーションをもったツアー・プログラムの提供が求められていると言えるのかもしれません。

図表1 現地ツアー・体験プログラム等の参加率(同行者別・来訪経験別)

資料:(公財)日本交通公社「JTBF旅行実態調査2016」より筆者作成

より素敵な体験を

 現地ツアー・体験プログラム等の参加率13.5%。「体験型観光」と叫ばれてから久しいですが、まだまだ低位に留まっていると言えるでしょう。

 より多くの旅行者にツアー参加・体験してもらうため、地域側は様々な取組をしています(詳しくは、地域発観光プログラムの流通・販売 (観光文化 224号)参照)。ここに掲載されているツアー・プログラムのいくつかに実際に参加したことがありますが、ただぱっと行って見ただけでは感じることのできない、「なるほど、そうだったのか!」「とにかく楽しい!」といった、心が動く体験をすることができました。但し、もちろんガイドや観光プログラムのレベルアップも欠かせません。今回の関連遺産のツアーでも、残念ながら、他の地点で聞いたことのある情報が多かったり、地域によって世界遺産の登録理由の説明やストーリーが異なっていたり、ということもありました。

 魅力的なガイドツアー・プログラムに参加すると、その地域の魅力をより深く知ることができるだけではなく、他地域を訪れたときにも、そういったものに参加したくなります。今後、より魅力的で面白いガイドツアー・プログラムがますます増え、参加率が一層高まり、多くの人が旅先でより素敵な体験ができることを期待したいと思います。

参考

この研究員のその他のコラム

最新研究員コラム

観光研究コラム一覧




関連するタグ: