心揺さぶるレストラン朝礼 [コラムvol.161]

2012.02.17

観光文化事業部 久保田美穂子
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 人は何に惹きつけられて集まるのか。人の心を揺さぶる見えないパワーはどのように生まれ、伝わるのか。この観光を考える上での重要なヒントが、なんと高校生が運営するレストラン朝礼にあったのです。

●朝礼でうるうる
写真1 「まごの店」外観。設計したのも高校生  ここは三重県多気町にある高校生が運営する一風変わったレストラン「まごの店」。県立相可高校の食物調理科の調理クラブが研修のために運営しています。クラブ活動なので、営業は土・日・祝日のみ、メニューも1200円の「花御膳」定食の一品だけ。限定250食が完売すればその日は店仕舞い。
 驚くことに、町外れのこんな店に毎週早朝から大行列ができるのです。しかも、駐車場の車を見れば名古屋、大阪はもちろん、遠くは関東のナンバープレートまで。
 1200円のランチのために、何倍ものお金と時間をかけてやってくる人達がこんなにいる!

写真2 開店前の朝礼  そんな驚きが、なぜ?なぜ?の好奇心に変化しました。
 列に並んで待つこと1時間余り、10時半の開店の15分前に生徒達の朝礼が始まります。お客様を迎える挨拶の練習です。3年生の部長が大きな声で皆をリードし、他の生徒も元気よくそれに続いて、「いらっしゃいませ!」「いらっしゃいませ!!」。
 よくある朝礼の光景ですが、店内がみるみる清々しい緊張感に満ちていくのを感じ、なぜか感極まって不覚にも涙が出そう。慌ててまわりを見回すと他にも目を潤ませている人達が…。

写真3 花御膳  一体、何が起きているのか?この感動はどこから湧いてくるのか?
 次々と新しい疑問が浮かんできますが、観光が新しい価値の創造だとすれば、この感動価値を創り出しているものの正体を探ることこそ観光研究になるはずです。

 食事をしながら店内の様子や高校生の動きをじっくりと観察すると、ここの魅力がわかってきました。食材の豪華さや(研修施設なので人件費分が材料費にまわせます)期待を超える美味しさはもちろんですが、それ以上に大きいのが、高校生達のキビキビした動き、真剣なまなざしに多くの人が感動して、引き寄せられているということです。  自分の子供や孫にその姿を重ねる親やお年寄りも少なくないでしょう。また、同じ年頃だった当時の自分の姿や気分を思いだしているのかもしれません。
 それにしても、「高校生だから」というだけで、ここまで感動させられるものでしょうか。

●レストランがパワースポットに!?
 調理クラブを指導するのは、相可高校の食物調理科教師、村林新吾先生。前職は辻調理師専門学校で10年間教鞭をとっていたという異色の経歴ですが、2002年の開店以来、生徒とともに文字通り休日なしの生活を楽しんで続けている熱血漢です。「技術だけでなく、料理人の心、人間としてのあるべき姿勢を教える」を信条とする先生は、このレストランを学校では教えられないリアルな接客やコスト管理感覚を身につける真剣勝負の場と考え、運営はすべて生徒に任せているのです。

写真4 村林新吾先生  こんな村林先生や生徒達に出会って惚れ込み、貴重な学びの場となるレストランづくりに奔走したのが多気町役場の岸川政之さん。農林商工課に配属されれば、農業や農家のことを知ろうと、まずは田んぼを借りて米づくりから始める型破りの行政マンです。この岸川さんが「高校生はまちの宝」と地域の農家や企業をその気にさせ、高校生とつなぎ、次々と新しいスパークを起こしてきたのです。

 二人に共通するのは「子供達のために何ができるか」という強い想い。地区住民が運営する「五桂池ふるさと村」のテントを借りて始めたうどん屋が総工費8900万円の立派な高校生レストラン「まごの店」になったのは、この二人とふるさと村の村長をはじめとする町の人々の強い想いが結実した結果です。多気町の大人がいかに真剣に子供達と対峙してきたかがよくわかります。
 「まごの店」は、大人達の想いと願いに応えた高校生が、そのエネルギーをさらに増幅させながら発光している場だったのです。地域の強いエネルギーが集まった、あたかもパワースポットなのです。
 生徒がこれほどまでに輝く源には大人の本気さ、真剣さ、信じる心があったことにあらためて気付かされます。

●鍛錬に裏打ちされた振る舞いが空気を創る
写真5 所作が空気感を生む  そして「感動させる高校生」のもう一つの理由。 生徒達は、村林先生から、プロとして、また人間として成長するため厳しく育てられています。早朝からの仕入れや仕込み。朝食は座って食べたら眠ってしまうからと立ったまま。三連休の3日間営業ならエビの天ぷらが750人前1500匹必要なので3年生はずっとエビを揚げ続け、1年生はひたすらエビの皮をむいてしっぽ切り。授業で揚げるエビの天ぷらは年間一人4匹ですが、レストランでは1年経てば機械よりも早く見事にできるようになるわけです。緊張してだし巻き玉子が上手く焼けない子は、交代させられ、そっと泣いて、家で練習、学校で練習。
 これらの地道で厳しい鍛錬が、レストラン本番の空気感を創っていたのです。夢中で取組む日々の練習に裏打ちされた生徒一人一人の振る舞いや声が、凛とした心地よい緊張感を創り、強い波動となって心に届く。「まごの店」の朝礼にはそれが集約されていて、強く心が動かされたのです。

 想いが凝縮したエネルギー値の高いところに人は集まります。見えないものを感じる、その感動が連鎖を起こし、広がっていきます。 今、観光に求められているのは、そんな「場」を創り出すことでしょう。真剣な想いを込めること、そして、日々の鍛錬が生み出す人の仕草や動作が“言葉にならない”感動を創り出すということを高校生の朝礼が教えてくれました。


(参考1)
昨年11月、観光による地域活性化を志す人を対象に、「まごの店」他多気町の関係者の考え方や行動などからヒントを得ようと、当財団主催の「観光実践講座」を現地開催し、2日間かけてじっくり多角的に学ぶ機会を作りました(現在、講義の記録集を制作中で、本年3月末に刊行予定です)。
詳しくは、http://www.jtb.or.jp/seminars/index.php?content_id=101

(参考2)オススメします
『高校生レストラン、本日も満席』(村林新吾著、伊勢新聞社、2008)
『高校生レストラン、行列の理由』(村林新吾著、伊勢新聞社、2010)
『高校生レストランの奇跡』(岸川政之著、伊勢新聞社、2011)

 

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