「あるべき姿」を考える際の視点 [コラムvol.173]

2012.08.20

観光調査部  安達寛朗
研究員コラム

■JR九州の「幻のCM」

 皆さんは、JR九州の「九州新幹線全線開通」のCMはご覧になったことがありますか?

 九州新幹線は2011年3月12日に全線が開通となりました。その時に作られたCMです。鹿児島中央発博多行きの一本の新幹線に2台のカメラを設置し、沿線の人たちが祝賀ウェーブをする様子をCMにしたもので、「JR九州CM」などのキーワードで検索すると見つけることができると思います。

 全線開通前の3月9日から順次流されていたようですが、開通前日に東北地方太平洋沖地震が起きた後は自粛され、幻のCMとも言われています。You Tubeなどでは今でも見ることができ、たくさんの人から感動したとのコメントが寄せられています。カンヌ国際広告祭2011では金賞を取るなど、海外でも高い評価を得ています。

 私は地震が起きてしばらくしてから見たのですが、私も感動してしまいました。(今でも見ると目頭が熱くなりますが)

 地震が起きてまだ日が浅かったこともあり、テーマが「一つになる九州」というもので、「絆」「人と人のつながり」などを想起させられたためかと思います。インターネット上でもそのようなコメントをしているホームページやブログがたくさんありました。

 しかし、もうひとつ強く印象に残ったのは、「JR九州は、安全安心や定時運行だけでなく、『地域と地域、そして人と人をつなぐこと』を自分たちの提供している価値だと認識しているんだな」ということでした。

■「あるべき姿」を考える際の視点

 前回の研究員コラムでは、中小企業診断士の事例問題での経験をもとに、「あるべき姿の重要性」というタイトルで書かせていただきました。「あるべき姿」は、市場環境の状況だけでなく、経営者の考え方によっても異なってきますので、決して正解はありません。

 この「あるべき姿」を検討する際によく使うのが、「誰に」「どんな価値を」「どのように提供するか」という3つの視点で検討する考え方です(エイベルのドメイン理論といいます)。

 そのため、自分たちが顧客に提供している価値(商品やサービス)をどのように捉えるのかは、「あるべき姿」を検討する上で非常に重要なテーマとなります。(前回コラムの例でいえば、顧客に提供する価値を「企画・デザイン提案力」と捉えるか、「低コストでの大量生産力」と捉えるかでは、会社の方向性が大きく変わってしまいます。)
 その際には、顧客に提供する価値を考える際に、あまり具体的な商品や手段にとらわれすぎないほうがよいのではないか、と思います。

 たとえば、JR九州は交通事業者ですので、安全安心な輸送、定時運行、利便性向上、といった観点から、顧客に提供している価値を考えることもできます。(もちろん、これらは交通事業者としては大変重要なテーマであることは間違いありません)。

 しかし、顧客に提供している価値は「人と人をつなぐこと」と考えたほうが、新しい事業を考える際により発想が豊かになると思いませんか?

 自分たちの「あるべき姿」ってどういうものなんだろう。自分たちの事業は、顧客にとって(本当は)どういう価値があるんだろう。 そんなことを考える際に、ぜひ頭の片隅に入れておいてもらえればと思います。

 

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