「子供が主役のKidZania」に学ぶ地域づくり [コラムvol.131]

2010.12.10

観光文化事業部 岡田美奈子
研究員コラム

 子供の成長に伴い、子供から「学ぶ」「気づかされる」ことが少なくありません。最近では子供にせがまれシブシブ行ったキッザニアで思わぬ発見と感動。大人をも惹きつけるその秘密と、そこで感じた地域づくりとの類似点を考えてみました。

■子供はワクワク、親はイヤイヤ?!

 2週間も前から娘はワクワク、私はイヤイヤ。子供とのお出かけで、こんなに気持ちに差があるのは初めて。憂鬱の種はそのひどい混雑。2006年10月に日本にオープン以来、キッザニア人気は高まる一方。学校行事の振休(平日の月曜日)なら大丈夫だろうと、重い腰をあげ計画するが数ヶ月前には満員!仕方なく入場時間が少々短い日曜午後の部に行くことに。当日は整理券を得るため開場3時間前に到着すると、なんと既に200人以上が私たちの前に!
 キッザニアは、1999年メキシコ発祥の職業体験をベースとした社会学習の場で年間約90万人が訪れます。入場は2部入替制、体験する3~15歳の子供と16歳以上の大人の組み合わせが原則(3世代での来場も多い)。各パビリオンではスーパーバイザーが仕事を指導、親は入場できません。約90種ある職業の体験時間は30~60分、でもその待ち時間は45~90分。5時間の滞在で3~4個が平均体験数、リピーターは動きもスムーズなのでもっと多いとか。タウン内では独自通貨"キッゾ"が流通、入場時に50キッゾが貰えます。仕事終了後に給料が支払われ、貯めたお金で習い事体験やショッピング。預金する場合は自分で銀行口座を開設。約1,800坪のタウンは入場者を徹底管理しセキュリティも万全。安全が確保されているので保護者も安心して自主的に行動する子供を離れて見守ります。さて、待ちに待った仕事開始、娘の様子をみてみましょう。

■疑似体験が実体験 ~導かれる達成感

 まずは憧れのファッションデザイナー。ブティック風パビリオンは㈱ワールドがスポンサー。各パビリオンはスポンサー企業の業務内容や方針を踏まえてアクティビティのシナリオ、使用設備環境、制服などが作られ、保護者にも直接そのブランドをアピールできるので、新しいマーケティング手法や社会貢献の形としても注目されています。同社ロゴ入り仕事着に着替え、まずはみんなで「Good Evening」。挨拶は全パビリオンで重視。その日は「入学式や卒業式で着る服」のテーマでデザイン画に色を付け、カラフルでかわいい布やボタンなどのパーツを選んで貼る。完成後に「工夫した点」「大変だった点」を発表。スーパーバイザーは、それにコメント、評価も忘れません。仕事を終え8キッゾの給料を受け取り「ありがとうございました」と大きな声でお礼。礼儀正しさも身につきます。次に待ち時間の少ない宅配員に挑戦。挨拶の発声練習後、指定場所から荷物の回収/お届け。運搬車でタウンを巡るので、仕事をしつつ全体の様子も伺えます。反省会後、給料をもらい終了。増えるキッゾをみてニコニコする娘。銀行口座を開設に行くがここも長蛇の列。待つこと30分、通帳、カード、待望のキッザニアオリジナル財布を見せ誇らし気な顔、子供の成長を感じる一瞬です。そして念願の消防隊員。挨拶、準備体操後、3秒で8人が整列、点呼の練習、息が合わず何度も繰り返し。消火手順の訓練中、「火災発生!」の通報。消防服に着替え、消防車に乗り込み、けたたましくサイレンを鳴らしてビルの出火現場へ急ぐ。隊長の「放水開始」の命令と共に、メラメラと燃えあがる炎を目指して放水。数分後、「放水完了」の声でホースを置く。みんなの顔に達成感。子供新聞記者(新聞社の仕事体験中)が隊員達を写真撮影。給料が渡された瞬間、緊張の表情は一転、最高の笑顔に。凛々しい顔で協力し消火にあたる勇ましい姿に感動です。次は警察署へ。仕事の説明と共に「警察手帳」が配られ、制服に帽子をかぶり慌ただしく事件現場へ。事情聴取後、証拠品を受け取り協力者に敬礼。警察署に戻り証拠品を観察、モニターをみながら会合。その後、給料を受け取り走り寄る娘は「一番楽しかった!また警察官やる!」と充実感いっぱい。すぐにハンバーガーショップにダッシュ、最終回体験待ちの列に並ぶが娘の直前で満員に。無情な現実を受け入れざるをえないことも知るのです。

ファッションデザイナー
ファッションデザイナー
 
消防隊員
消火後、達成感あふれる
消防隊員
警察署内で会議
警察署内で会議
 

■Get Ready for a Better World ~体験から「生きる力」を培う

 なぜこんなに子供達は仕事に意欲的なのか?違う年齢の初めて会う仲間と協力してひたすら仕事に熱中。終わると充実感、そして次の仕事へ。「仕事ってこんなに楽しいんだ!」「大人はこんなにイキイキと仕事しているの?!」、とても複雑な気持ちになります。(娘が責務を果たすと自分のことのように感動、達成感で満たされるのも不思議。)目の前で子供の成長を感じつつ、自分もそんな風に仕事をしようと元気づけられるのです。
 こうした働く疑似体験から、子供達は様々な仕事の社会的役割を理解し、働く楽しさ、厳しさ、社会のルールやマナー、経済のしくみ、自律性、金銭感覚などを学びます。まさしくエデュテインメントタウン。そのコンセプトは「こどもたちの、こどもたちによる、こどもたちのための国」、「子供たちが主役の街」です。タウンでは、受身の子供は殆どいない、自分から行動して楽しむ場所なのです。思ったより仕事が難しい、失敗もある、体験からの気づきや感動は子供たちの自信となり「生きる力」につながります。キッザニアはそれを「Get ready for a better world」と表現。前向きな子供の姿から大人も「離れるべきときは、離れなければいけない」ということを教えられます。

流通通貨
流通通貨キッゾとジョブ
カード
銀行 口座開設中
銀行 口座開設中
 
お財布
お財布
 

■よりリアルな体験を通して自分だけの発見も ~「Out of KidZania」

 もっとリアルな世界を体験する「Out of KidZania」も全国で実施、開催地も広がっています。例えば林業体験では、岡山県の西粟倉村に行き、森林見学、仕事場見学、木工体験、ワークショップなどを通して仕事や働く人たちのことを知る。農業体験では、千葉県旭市で米を栽培・収穫。土のにおい、作物を育てる厳しさ、収穫の喜び、販売の工夫など全工程を体験。収穫したお米は秋にタウン内のデパートパビリオン(三越デパート)で販売されました。より多様性のある実体験を通して自分だけの「発見」をすることで、考える力や状況対応力が培われるのです。
 また、キッザニアは日本以外の5カ国で運営中、今後8カ国にオープンを予定。日本では英語で体験する「ENGLISH @ KIDZANIA」も実施、英語教育というより世界中の子供が協力して仕事をするためのコミュニケーション能力、国際感覚の醸成も目指しています。

■キッザニア人気の秘密 ~高い参加モチベーション

 職業体験を通して育まれる力は、旅のそれと似ています。そして、キッザニアと元気な地域にも共通点を感じます。それは関係者の高い参加モチベーション。当財団主催の平成22年度観光実践講座・第1講義では、地域主体の観光を推進する際、関係者の参加モチベーションを高めることが重要で、そのポイントは、①自律性(創意工夫を評価)、②学び、競争(熟達)、③情報提供(情報共有)、④経営参画(参加性)、⑤感謝される(目的・真の喜び)、と指摘されています。キッザニアで職業体験する子供は仕事を楽しみつつ、つらいことも乗り越え、意思決定力や社会適応能力などを身につけます。他者より上手に仕事をしよう、いいものを作ろうという競争心も芽生え、達成感が低いとまたそれにチャレンジしようという自律性も養成。自分が主役の体験が社会に役立つこと、お客様に感謝してもらえる喜びも知ります。その上、自分の仕事が給料という形でも評価され、一層モチベーションがアップするのです。親も子供が自ら学び、成長する姿を見て、もっと色々な体験させたいと思う。家族や友達と職業について話し情報を共有、キッザニアやそのスポンサーにも波及効果をもたらす。このようにキッザニア全体に、参加モチベーションを高める要素がつまっているのです。体験を提供する側と体験する子供、それを見守る親が常に刺激し合い進化し、魅力を向上させているのです。親子がここで過ごす時間中、感性が連鎖し、感動のレベルも高まります。

■人が集まるところに理由あり ~行かなければわからないその本質

 今回の体験から2つのことを再認識しました。人の集まるところには理由があり、その場に身を置いてこそ、その本質がわかること、そして、キッザニアにも「今だけ、ここだけ、あなただけ」があることです。今、その年齢の子供が、その日にここに訪れた仲間と体験し、自分だけの発見をする、親も子供を通じてそれらを体感しているのです。訪れる人の心を捉える巧みなキッザニアのしかけ。「人が足を運びたくなる地域づくり」へのヒントがまだまだありそうです。

 

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