ロングトレイル・コラム ~ロングトレイルに優しさを [コラムvol.326]

2016.11.21

観光地域研究部 主任研究員 吉谷地裕

サンチアゴ巡礼路

 サンチアゴ巡礼路は、キリスト教の聖人である聖ヤコブの墓所であるスペインの「サンティアゴ・デ・コンポステーラ大聖堂」を目指して、ヨーロッパ各地から多くの人が歩く道です。1993年に世界文化遺産に指定されており、2015年の統計では、年間約26万人が訪れています。
santiago

サンチアゴ巡礼路 出典:http://caminodesantiago.consumer.es/



 日本からは、一部区間を歩くツアーや、もちろん個人旅行でも歩くことができます。NPO法人日本カミーノデサンチアゴ友の会が定期的に説明会を開催しており、事前に経験者の生の声や、魅力、留意すべきことなどを聞くこともできます。

 サンチアゴ巡礼路は複数の巡礼路の総称ですが、中でも「フランス人の道(Saint-Jean-Pied-de-PortからSantiago de Compostelaまでの約800km)」が最も人気であり、26万人中17万人はこのルートを選んでいます。

  歩く距離が長いとはいえ、基本的に巡礼者の道であり、比較的道やサインがよく整備されています。人が1日に荷物を背負って歩ける程度の距離(約20km前後)ごとに町があり、町には巡礼宿やバル(スペインの居酒屋・カフェ)があります。 そのため、個人・団体、国籍、老若男女、障害の有無を問わず、多くの人が歩いています。

 私は、2011年5月に SarriaからSantiago de Compostelaまでの約110kmを歩きました。これに味をしめて、2016年5月に、Panplona~Logroñoを歩く計画を立てました。後述しますが、今回は散々でしたが、新たな気づきを得ることができました。

万全(?)な事前準備

サンチアゴ巡礼路の道中。写真は、既に足を痛めて杖をついている著者。

サンチアゴ巡礼路の道中。写真は、既に足を痛めて杖をついている著者。

 前回(2013年 Sarria~Santiago de Compostela)は、体重オーバーのためか膝を痛めたので、(体重は減らせなかったので)足全体をサポートする高価なタイツを準備しました。荷物は前回より3kg減。前回購入したガイドブックもあるので情報も十分。万全の準備のつもりでした。

まさかの初日からの不調

 タイツのサポートで膝も軽く、最初は快調でしたが、初日の行程のゴール付近で、急に足が痛みだしました。だましだまし歩いていましたが巡礼宿に到着した時には、1歩も歩けなくなっていました(※機能性タイツの初心者にありがちなトラブルだそうです)。
 勿論、翌日も腫れが引かず、長距離を歩くのはとても無理でした。地図を広げて予定していた行程を眺めるていました。地図をよく見ると巡礼路は幹線道路が並行する区間が数多くあります。
 そこで、歩けるところまで歩いて、そこからバスに乗って巡礼路を回ることにしました。

意外に多いバス利用者

都市間バス。予約不要。多くの巡礼者・ハイカーも利用している。

都市間バス。予約不要。多くの巡礼者・ハイカーも利用している(著者撮影)。

 テーピングを巻いた足で5km先の次の集落に到着し、無理をせず、本当は歩いていくはずだった15km先の町までバスで向かうことにしました。
 町はずれのバス停には、バックパックを背負った女性が二人います。 一人は若いフランス人で同行者が熱を出したので、二人分の荷物を持って、次の街で先に宿を予約するうもりだそうです。もう一人は、年配のオーストラリア人で、もともと足が悪いので、歩けるところまでいってバスに乗るつもりとのことです。
 迎えにきたバスには、既にバックパックを持った旅行者が何人か乗っています。到着したバスターミナルには、更に数多くの巡礼者がいました。ホタテガイとバックパックを身につけている人が多いので一目で分かります。
 意外にも、バスを利用する巡礼者は多いのだと感じました。

タクシーの電話番号で助かった

バル巡りはサンチアゴ巡礼路の楽しみの1つ。

バル巡りはサンチアゴ巡礼路の楽しみの1つ(著者撮影)。

 その翌日は頑張って10km程歩き、街はずれのバス停で待っていたら、やがてバスがやってきたのですが、ドライバーは「満車だよ」といった手振りをして、減速せずに通り過ぎてしまいました。次のバスは3時間後で、この街には1件のバル以外は畑しかない。 次の町まで歩き通す自信もない。
 途方に暮れてそのバルに入ると、ウンターの上にタクシーの電話番号が貼ってあります。 巡礼者によく尋ねられるのか、スペイン語ではなく英語で書いてあります。
 片言の英語でタクシーを呼ぶと、15分もしないうちにタクシーが来ました。ドライバーは、「お客さんみたいな人は多いよ」と英語で言い、車窓から見える雪が積もった山の名前や、次の街のオススメのバルを教えてくれました。

結局は楽しめた旅

 そうこうして、結局ほとんど歩けずに4日間の巡礼の旅は終わりました。当初の目的は全く果たせませんでしたが、バスやタクシーで移動したので、予定よりも多くの観光名所―荘厳なカトリック教会や博物館、バル、土産物屋―を巡ることができ、十分に楽しめました。

日本のロングトレイルにも優しさを

ワインの泉(Fonte de Vino, Monasterio de Irache)。どうしても来たかった。

ワインの泉(Fonte de Vino, Monasterio de Irache)。どうしても来たかった(著者)。

 日本でもロングトレイルやフットパス、九州ではオルレなどが流行っています。自然地域を歩く(縦走)だけでなく、みちのく潮風トレイルのような生活文化をたどる道や、四国遍路、熊野古道といった文化の道まで様々です。地域は、こうした旅行者による経済効果に大きな期待を寄せています。
 自らの足で歩くことは、その道が山であれ里であれ、予め用意されたツアーとは違う発見の楽しみがあり、同じ目的の旅人同士の不思議な仲間意識が生まれたり、やり遂げる達成感があって楽しいものです。
 しかし、そんな旅も、途中で体調を崩すかもしれないし、急に天気が荒れるかもしれない。自分の足で相当な距離を歩くのだから、予期しないアクシデントといつも隣り合わせです 。
 「万全の準備」や「トレーニング(ダイエット)」をしてくるべきというのはもっともですし、失敗したら反省も必要でしょうが、多くの人々~私のような運動不足の会社員、往年の登山愛好家~には、「優しさ」があるとありがたいのではないでしょうか。

 例えば、途中で(体調や天候の都合で)ギブアップしても路線バスやタクシーに乗れるとか、体力がない人や不安がある人は、予め、途中から路線バスやタクシーに乗る計画を立てられるとか、途中で諦めた時にも普通の観光に切り替えられるとか・・・。
 そうなれば、きっと今よりも幅広い人が歩けますし、街で飲み食いする人も増えるかもしれません。小さな子供を連れて歩けるかもしれないし、 障害がある人も参加しやすくなるかもしれません。 

参考

この研究員のその他のコラム

最新研究員コラム

観光研究コラム一覧




関連するタグ: