2017年を展望する-「DMP(観光地経営計画)」策定のススメ [コラムvol.330]

2017.01.04

理事・観光政策研究部長 梅川 智也

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 あけましておめでとうございます。
 本年も南青山に移転した当財団をどうぞよろしくお願いします。

 さて、年頭にあたり、ご提案申し上げたいことがあります。近年、全国で注目されている「日本版DMO」ですが、あくまで個人的な見解とはなりますが、これからの展開方策の一つとして英国のDMOなどを参考に「DMP(観光地経営計画)」の策定を推奨してはどうかということです。

 昨今のDMOに関する議論の中で、マーケティングの重要性やKPI(重要評価指標)の設定、あるいはPDCA(計画評価システム)サイクルの確立等については盛んに行われていますが、肝心な“日本版DMOは何を目標に何を行うのか”という「DMP(Destination Management Plan)」に関する議論はほとんどなされていません。

 皆様方からご意見など賜れれば幸いです。

1.2016年-観光立国から観光先進国へ?

 昨年も訪日観光客数は順調な伸びを示しました。昨今、明らかな成長(右肩上がり)を示す統計が少ないためか、素直に“嬉しさ”を感じているのは私だけではないと思います。

 2016年3月に策定された「明日の日本を支える観光ビジョン」*1を実現させるための「観光ビジョン実現プログラム2016」には、冒頭、「観光立国の取り組みは、「観光先進国」への取り組みへと、新たなステージに移行した」との記述があります。当財団が毎年発刊している『旅行年報2016』でも指摘させていただきましたが、“「観光先進国」とは、自ら外国を体験し、海外旅行の意義を理解した上で成立する、高いホスピタリティを有した国民が多数存在する国のことを意味する。”のであって、観光先進国を標榜するからには“ツーウェイツーリズム”の原則を忘れてはならない、のだと思います。

2.「観光先進国」の意味は

 その意味で参考となるのは英国ではないでしょうか。昨年末に久し振りに英国を訪れ、地方のDMOなどへのヒアリングを通して、かつて同国から学んだ様々なことを思い出しました。現在の英国の観光政策は、日本の観光政策とは大きく異なる方向で展開されていますし(ある面では最先端かも知れませんが)*2、フランスやイタリアなどと比べて必ずしも観光資源に恵まれているとは言えないことは事実だと思います。それでも、これまでの英国の観光先進国としての発展の歴史や現在の財政難の状況下で展開されている地方の観光政策などは学ぶべき点が多くあると感じます。

 世界でいち早く産業革命と都市化が進んだ英国では、仕事と余暇という時間と空間の分離に関しても先進国でしたし、観光の産業化に対しても先進国でした。例えば「グランド・ツアー」。つまり英国人のアウトバウンドですが、18世紀に始まった英国貴族の子弟達のイタリアへのいわば修学旅行。ローマへの旅の途中で発見し、開発したのがカンヌやニースといった地中海の海浜リゾートでした。また、アルプスの山岳観光・・・モンブランやマッターホルンへの登山、そして日本人にも人気のツェルマットやサンモリッツなどの山岳高原リゾートもイギリス人によって発見され、発展しました。ニースの海岸通りが「プロムナード・デ・ザングレ(英国人の散歩道)」と言われていることからも明らかですし、スイスが世界の観光地へと発展したのもイギリス人のお陰と言っても過言ではないと思います。

 また、旅行の大衆化に寄与し、近代ツーリズムの粗と言われる「トーマス・クック社」もイギリスの会社です。ロンドンの大衆・労働者を万博や日帰りで海浜リゾートに連れて行ったり、パリ万博へ出掛けるパッケージツアーを世界に先駆けて開発しました。こうした観光分野でのイノベーションを巻き起こし、世界に展開させる国こそが「観光先進国」ではないかと思います。

3.英国のDMOに学ぶ-「DMP(Destination Management Plan)」の策定

 こうした「観光先進国・英国」では、観光に関する研究も以前から進んでいると言われて来ました。現在は、極めて厳しい財政状況に置かれている英国の観光政策ですが、DMOに関してVisit Englandが指針やガイドラインを制定しています。既にDMOはイングランド内で約300を越え、公的な予算が付かなくなってきているため、より小さなDMOへと分裂して来ているとのことでした。

 英国(イングランド)のDMOを総括すれば、置かれている状況や抱えている課題など、また公的予算の付き方などは異なりますが、民間を主体に組織化し、それぞれが自主自立で活動しているということになります。地元自治体が全く予算をつけていないところもありますし、予算は付けても口は出さないというところもあります。

 こうした状況下で大切なことは、個々の観光地や観光地域が明確な目標(ビジョン)を持ち、やるべきこととやらないこと(特に後者が大事)、早急に取り組むものと時間をかけて取り組むものなど施策のプライオリティを明確にすること(Prioritization=優先順位付け)に他なりません。それを実現するのが「DMP(Destination Management Plan)」、あるいは「DMDP(Destination management & Development Plan)」の策定であり、限られた予算と人材で効率的、かつ計画的に目標を実現に移していくツールと言えます。

4.わが国における「観光計画」の起源と発展経緯-「観光診断」から「観光計画」、そして「観光まちづくり」へ

 わが国にも「観光計画」、あるいは「観光地計画」は存在しますが、いつ頃から策定されたのでしょうか。残念ながらその起源に関する研究はほとんど進められていませんが、わが国の「都市計画の父」といわれる後藤新平とドイツ留学で親交のあった「公園の父」・本多静六の業績をみると、明治政府の観光政策に対応して、やはり明治の半ばあたりから観光地、主に公園や温泉地の改良設計や風景利用策などが行われていたことが分かります。後藤新平による「帝都復興計画」が策定されたのが1923(大正12)年。あくまで一例ですが、その翌年には本多静六によって「由布院温泉発展策」が策定(実際には講演会)されており、そこには今日に至る由布院温泉の将来ビジョンが端的かつ明確に提案されています。

 戦後、全日本観光連盟(現在の(一社)日本観光振興協会の前身)が1946年に創設され、すぐに「観光診断、観光地診断」が行われるようになり、全国で観光診断ブームが起こります。その後は1950年の国土総合開発法に基づく「全国総合開発計画」とともに、より総合性、体系性があり、より理論性が求められる「観光計画」へと発展していくこととなります。「観光計画」が最も隆盛であったのは1970年代の高度経済成長期(新全総の時代)と1980年代後半のバブル経済期(四全総の時代)です。国民の圧倒的な観光需要の高まりに対応した受け皿づくりを進めるための「観光開発計画」、そして内需拡大、地域振興、余暇需要の変化への対応などを目的とした「リゾート開発計画」です。観光計画論に関する研究もこの時代に盛んに進められました。しかしながら、バブル経済が崩壊した1990年代から今日に至る約四半世紀は、ハードからソフトへと言われ、“開発のための計画”はほぼ姿を消すこととなりました。

 その後、21世紀の観光のあり方を考える議論の中で生まれてきたのが「観光まちづくり」です。“絵に描いた餅”と揶揄され、実現性という点でいささか信頼感に乏しかった「観光計画」と比較して、行政や民間企業が主体となるのではなく、住民自らが地域資源を活かしてまちづくりを進めていく、そうした地に足の着いた身の丈の取り組みが観光地づくりの新たな潮流となりました。とはいえ、「観光まちづくり」はその定義にもあるように、終わりのない「街磨きの活動」であり、目標年次を定めて戦略的に、という「計画」とはその性格が異なります。

5.「観光地経営計画」とは

 「観光まちづくり」が多くの人々に支持される背景には、“地域住民による協働”といういわばフラットな平衡感覚にあります。行政が事前に目標(ゴール)を決め、それに向けて進めていく「管理」的なイメージの強い都市計画に対するアンチテーゼとも言えなくありません。しかしながら、観光立国といういわば国策に基づいた観光政策を推進するためには、住民主体の観光まちづくりに加えて、営利を目的とした民間企業の参画が不可欠であり、事業としてやるからには目標年次を決めて、それまでに達成するという観光地全体の合意形成が図られなければなりません。そこで近年、観光地では長期的な理念やビジョンを示し、その実現に向けた戦略や施策を体系化した「観光計画」とともに、内外の環境変化にうまく対応した観光地づくりを進めていく「観光地経営」という柔軟な地域マネジメントシステムが必要とされており、それを我々は「観光地経営計画」と称し、体系化に向けて取り組んでいます*3。

6.「DMP(観光地経営計画)」策定のススメ

 日本版DMOが出来ても観光地経営のために誰がいつ何をするのか、それを明らかにするのが「DMP(観光地経営計画)」です。最も大切なことは10年後、20年後、さらには50年後の将来像(ビジョン)を描く「長期計画」を策定し、地域が共有することですが、当面は2020年に向けた「DMP(観光地経営計画)」を策定することを推奨します。わが国の観光政策は当面、東京オリンピック・パラリンピックの開催される2020年を目標に展開されます。それにタイミングを合わせて、それぞれのDMOが目標を設定し、効率的かつ計画的に施策を進めていくことが肝要だと思います。

 そして、この3~4年の間に「長期ビジョン」をじっくりと時間をかけ、地域の合意形成を図りつつ策定すればいいのではないでしょうか。観光地経営の要諦は、個々の観光地の将来ビジョンをしっかりと描くことです。それを実現させる手段が組織であり、体制であり、財源であるということで、組織(DMO)がブームのように先行するのは本末転倒ということになります。

 今年も全国の観光地、観光業界にとって良い年でありますことを祈念しております。

<注釈>

*1:本ビジョンは首相直属の構想会議で新たに取りまとめられたもの。2020年の東京オリンピック・パラリンピック開催に向けて訪日外国人4,000千万人を目指すという目標数値が注目されたが、それらの実現のため3つの視点と10の改革が掲げられた。
*2:2000年代労働党政権下で進められた移民政策による財政難が根本にあるものと推察される。2010年の保守党・自由民主党連立政権は、2012年のロンドンオリンピック開催に向けて観光予算を大幅に増加させたが、その後は、財政難に加えて国民の批判もあり、観光予算が大きく削減された。地方の観光振興に資するため1997年にイングランドで導入されたRegional Development Agencyが2010年に廃止され、イングランドの観光推進組織であるVisit Englandは、今回のヒアリングによれば、既にVisit Britainに再編されたとのことである。
*3:当財団の機関誌『観光文化 No230』に「「観光地経営計画」策定の試み-長野県白馬村を例にして」として詳細を解説しています。

<参考文献>

・山崎 浩:『英国の観光政策・戦略-オリンピック開催の経験を踏まえ-』、2014.10、「レファレンス」
・岡村 祐:『英国における観光地域マネジメント組織DMOに関する政策・計画・施策』、2015.9、「日本建築学会大会学術講演梗概集」
・梅川智也:『『観光計画』の今日的状況と課題』、2016.9、「日本建築学会大会都市計画部門研究懇談会資料集」(本文中4.5.は本論文から一部引用しています)
・(公財)日本交通公社:『観光地経営の視点と実践』、2013.12、丸善出版

<DMPに関するVisit Englandによる参考文献>

・PRINPLES ROR DEVELOPING DESTINATION MANAGEMENT PLANS
・ADVICE NOTE:PRIORITISATION FOR DESTINATION MANAGEMENT PLANS
・Keep It Real for Destinations

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