縮小マーケットへの対応を考える [コラムvol.327]

2016.11.28

総務部企画創発課長 主任研究員 相澤美穂子

radio-photo

 最近様々な分野で「○○離れ」と言われています。テレビ離れや車離れ、活字離れ…数え上げればきりがありません。自分の行動を振り返ってもそれは例外ではなく、気がつけばテレビを観ることはほとんどなくなり、車も自転車すらも手放してしまいました。いまや我が家のテレビは録画番組や動画サイトを視聴する機械と化し、移動は電車や時折利用するレンタサイクルで事足りています。

 その一方で、最近利用していなかったサービスの利用を再開する機会がいくつかありました。

既存のサービスへの回帰

 ひとつは、映画館での映画鑑賞です。テレビの大型化やAV機器の進化によって映画は自宅で十分楽しめるようになり、映画館を訪れることは少なくなっていました。それが再び足を運ぶ思ったきっかけになったのは昨年(2015年)に公開された「マッドマックス 怒りのデスロード」の上映でした。

 映画自体の評判はさることながら、とくに目を惹いたのはSNS上に書かれた”立川”、“極上爆音上映”の文字。調べてみると、立川シネマシティという映画館が「マッドマックス」上映のために多額のお金を投資してスピーカーを購入し、大迫力の音で映画を楽しめるようにしたとのこと。

 残念ながらその時は日程が合わず“極爆”体験はかないませんでしたが、その後公開された「スターウォーズ フォースの覚醒」を観る際に念願を果たすことができました。“爆音”といっても耳が痛くなるような音量というわけではなく快適に楽しめる範囲の大音量で、まるで映画の世界に入り込んだような臨場感を味わうことができました。アクション映画などを観るときは時間とお金をかけてでもまたここで観たいと思いました。

 もうひとつは、ラジオの聴取です。大学院で論文を書いていた頃には深夜ラジオをよく聞いていたものでしたが、勤め始めてからは時間が合わず聴くことができなくなっていました。

 再びラジオを聴くようになったのは、最近になってradiko(ラジコ)の”タイムフリー聴取“サービスが開始したからです。radikoというのはラジオをパソコンやスマートフォンで聴けるサービスで2010年にスタートしました。

 そのradikoが先月(2016年10月)から過去1週間のラジオ番組を聴くことができるサービスをスタートさせたのが“タイムフリー聴取”です。この“タイムフリー視聴”が開始してから私は以前よく聴いていた番組や、興味があっても放送が深夜なので聴くのをあきらめていた番組を新たに聴くようになりました。
 先日朝日新聞で紹介されていた記事によると、radikoの月間利用者数は100万人にも上るということですが、この“タイムフリー聴取”によってさらに利用者数が拡大しているとのことでした。

○○離れさせないための工夫

 なぜこの2つの事例が成功したのかを考えてみると、立川シネマシティの場合は独自の付加価値を作り上げ、他の映画館との差別化を図り、交通費と時間をかけてでも訪れたいという魅力を生み出したことにあると考えます。実際、インターネットで紹介されていた記事を見ると、“極上爆音上映”には東京以外の離れた地域から訪れたお客様もいるとのことでした。これを観光に置き換えてみると、競合する観光地の中でいかに差別化を図り、独自の価値で旅行者を惹きつけることにあたるかと思います。こうした取り組みは既に多くの地域でも取り組まれているのではないでしょうか。

 一方で、radikoの“タイムフリー聴取”がなぜ成功したかというと、消費者の手間や面倒を取り払う工夫をしたことにあるように思います。“タイムフリー聴取”が始まる以前、好きな深夜ラジオ番組を聴こうと録音できるラジオ受信機を買って、SDカードから再生機器にダビングして聴いていた時期がありましたが、その手間が面倒でいつしか聴くのをやめてしまっていました。それどころか防災用を除いてはラジオ受信機自体を家に置かなくなり、ラジオを聴くこと自体がなくなっていました。それがradikoのサービス開始によって、今ではラジオがなくてもスマートフォンでいつでもラジオを聴くことができます。さらに“タイムフリー聴取”の開始によって、わざわざ録音しなくても番組表から選ぶだけで過去の番組を聴くことができるようになりました。

 このように、サービスに到達するまでの手間や不便を取り除くことで興味はあるけれど、これまで手を伸ばしてこなかったというような新たな顧客の開拓に結び付くと思われます。これを観光に置き換えてみると、観光地を訪れるまでの手配の面倒や手間を省くような工夫をすることにあたるでしょうか。

 実際、観光地を訪れるまでの手間を省くことについては、まだまだ取り組みの余地があるかと思われます。少し前の調査になりますが、2014年にアジア5か国・地域を対象とした調査で、訪日意向、特にFITでの地方訪問を希望している人を対象に、FITで日本の地方を訪れる際に問題になる点を尋ねたところ、上位に挙がったのは、地方に行くまでの移動時間の長さに加えて、交通を手配するのに手間がかかるといった点や、交通の便が悪いので旅程が組みにくいといった点でした。

 インバウンドの先進地の取り組みを見ると、こうした課題の克服に多くの地域が注力しています。フリー切符の開発、また旅行日数別、季節別のモデルルートの作成、観光拠点を結ぶ交通機関と所要時間をまとめた地図の作成などに取り組み、それらを旅行者向けのパンフレットに掲載するなどして旅行者が地域を訪れやすいように工夫を凝らしています。一方で、昨年タイの旅行博を訪れた際に見かけた、とある日本の地域のブースは自分たちの地域の観光資源の紹介に終始しており、その地域が日本のどこに位置していて、どうやって行くのかが全く説明されていませんでした。このようなちょっとした工夫の有無が先進地とそうでない地域とを分けることに結び付いているように感じます。

 今後さらに少子高齢化が進み、様々な業種で「○○離れ」が進む中、今回紹介したような既存の枠や概念を超えて消費者を惹きつける取り組みはますます増えていくと見られます。できるだけアンテナを高く広く伸ばしてウォッチし、少しでもヒントとなるような事例を見つけて観光に活かしていければと思います。

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