「伝える」と「伝わる」 [コラムvol.395]

2019.05.07

観光地域研究部 主任研究員 五木田玲子

気になる機内安全ビデオ

 2019年のゴールデンウィーク10連休が終わりました。皆さんはどのように過ごしましたか?

 海外旅行や国内旅行を楽しんだ、自宅でゆっくり過ごした、なかなか手を付けられなかったことにじっくり取り組んだ、仕事を頑張った、などなど、様々な過ごし方をされたことと思います。私は、仕事柄、日常的に移動が多いのですが、連休中もあちらこちらに出掛け、いろいろな地域の様々な魅力を満喫しました。

 移動と言えば飛行機に乗る機会も多いのですが、最近、ANAの機内安全ビデオが気になっています。昨年末から上映が始まっているのでご覧になっている方も多いかと思いますが、歌舞伎役者が機内の安全について説明するといった独創的な内容となっています。酸素マスクの使い方や救命胴衣の付け方など非常用設備や緊急事態を想定した内容も含まれるため、「必ずご覧下さい」とアナウンスされる機内安全ビデオですが、私自身、これまでは搭乗機会が多いことなどを言い訳にして、画面に顔を向けないことも度々ありました。しかし、今回のビデオにリニューアルされてからは、歌舞伎役者の方の動きや反応などが興味深く、ほぼ毎回、じっくりと見ている自分に気がつきました。まわりを見回すと、他の乗客の方々も、これまで以上に画面を注視している方が多いように思います。

「伝える」と「伝わる」

 ビデオが伝えている内容そのものは、これまで同様、機内安全に関わる内容で変わりありません。しかし、歌舞伎というテーマを用いてより伝えるための工夫をしたことで、私自身、これまでよりも興味を持ってその内容を視聴していますし、自分自身に伝わっている内容はより深まっていると感じます。

 伝えたいことを伝えるために工夫が必要なものは、日常的に数多く存在しています。観光地に立てられている標識もそのひとつではないでしょうか。そこに存在こそするけれど見られていない、伝えたいことが伝わっていないことも多くあるように感じています。

 以前行った調査*1で、国立公園を訪れている人に対して「ここが国立公園だと知っていましたか?」と尋ねたことがありました。調査対象地はいずれも、国立公園の中でもさらに日本を代表する公園であり、旅行中に「国立公園 ○○」と書かれている看板等が視野に入っている可能性は高いと思うのですが、それでも初来訪者の国立公園認知度は6割にとどまりました。あれば見るだろうでは見てもらえない、伝えたいことを伝えるためには印象に残るような工夫が必要です。国立公園では、これまで看板や標識は景観上の配慮などもあってむしろ目立たせないような整備もされていたと思いますが、外国人観光客など伝えたい相手が多様化してきた今、環境面への配慮とともに伝わることに注力すること、認知度を高めることも、これまで以上に重要になっているのではないでしょうか。

 せっかく伝えようとしても、受け取る側がその気になっていないと、伝えたいことも伝わりません。そのためには、どうしたらより伝わるのかを深く考えること、そして、伝えたい相手の思いや行動を理解することが欠かせません。

 以前、仕事で担当したガイド研修に参加した際に講師の方がおっしゃっていた言葉です。

 「“伝える”ではなく“伝わる”が重要です。“伝える”というのはガイドの自己満足に過ぎません。“伝わる”を意識することが重要です。」

霧島錦江湾国立公園の看板

写真1 霧島錦江湾国立公園の看板(左)

ガイドツアーの様子

写真2 ガイドツアーの様子(右)

*1:公益財団法人日本交通公社 観光文化215号 研究成果の紹介「国立公園の利用者意識に関する研究」
https://www.jtb.or.jp/wp-content/content/img/publish/bunka/bunka215_P28-30.pdf

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