スポーツと観光~東京マラソン、地方のマラソンに参加して [コラムvol.294]

2016.03.14

観光研究情報室長 主席研究員 久保田美穂子

 個人的な趣味で始めたランニングだったが、あちこちのマラソン大会に出るようになり、大会によって運営コンセプトや応援、サポートの雰囲気がそれぞれ異なること、また大会参加を通じてその地域への愛着が生まれたり、好感度が増すことがあるなど、レース結果以外のことに関心を持つようになった。

 たとえば、長野オリンピックを契機に始まった人気の地方大会「長野マラソン」を走って感じたのは、世界的なスポーツイベントを経験した長野市民がスポーツ応援を楽しむようになり、そのことが大会の魅力にもなっていること(詳しくは前々回のコラム:オリンピックの経験が地域の魅力に)。

ランナーに伝わる地域の個性

 地域の個性を全面に出したユニークな大会として印象深いのは「小布施見にマラソン」(長野県小布施町)だ。その名のとおり、「小布施を“見に”きてください」が大会コンセプトなので、ハーフマラソンなのに制限時間が5時間と長く(普通は2時間半~3時間)、開催時期も毎年7月中旬(普通は10~4月が多い)と変わっている。

 コースも特徴的で、田んぼの畦道、お寺の境内、民家の横のスキマのような路地なども通る。地元の応援といえば、沿道は町民が日頃の練習成果を発表するステージを兼ねているので、オカリナ演奏や合唱、バイオリンや横笛の腕前を披露する女性たちやオールディーズを楽しく演奏するおじさんバンドで賑やかだ。記録狙いのランナーはこのように暑くてくねくねしたレースを敬遠するが、リピーター比率70%、県外からの参加者比率40%と誘致力は高い(第9回大会アンケート)。人口約11000人の町に毎年8000人のランナーが集まる。

 市民ランナーの多くは練習不足の不安とそれでいて高揚感のある状態でレースに参加していることが多く、迎えてくれる地域のサポートやチア精神には敏感だ。

 いわゆる「夏フェス」会場が企業のマーケティング担当者から注目されているという話をきいたことがある。ライブ会場特有の興奮状態にある若者の多くは、「Yes!」な状態なのだそうだ。たとえばそれまで若者に人気のなかった栄養ドリンクも、夏フェス会場で試飲してもらうと「良い!おいしい!」という肯定感につながりやすく、その時の印象が後の購買行動につながる宣伝効果が高いのだという。

 マラソン大会も、開催地のファンづくりに貢献するイベント、参加者を通じてその地域の魅力や想いまでもじわじわと伝えることができるイベントだといえるだろう。

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身体に刻んで街を感じる

 そして今年、競争率10倍を超える「東京マラソン2016」に初めて当選した。
 あらためて「東京」で感じることは一体どんなことだろうと楽しみに、2月28日のレースに臨んだ。

 ランナー37000人、ボランティア10000人以上、沿道の観衆は109万人というその規模は間違いなく日本一。新宿都庁前を出発し、皇居のお濠を横目に見たら、芝増上寺と東京タワー。品川で折り返した後は銀座大通りを抜けると、やがて下町浅草雷門とスカイツリーだ。東京の観光名所、日本を代表する観光資源が次々と目の前に現れ、沿道の応援も途切れることはない。噂通り特別な大会だということをひしひし感じながら走る。

 外国人ランナーも多かった。欧米人も目立っていたが沿道から「加油!」と叫ぶ応援グループに何度も遭遇したのには驚いた。外国籍ランナー比率は約17パーセントで、世界6大マラソンの一つとして全大会制覇を目指す外国人ランナーも増えているそうだ。

 しかし、あえて一つ、最も強烈に「東京マラソンならでは」を実感したことは何かといえば、9時から16時までの7時間をも大都市東京の幹線道路を封鎖し、”ランナー貸し切り”として運営するその圧倒的なスケール感だ。普段は片側3車線の対面通行の道路を、6車線分一斉に同じ方向へとランナーが駆けていく光景は圧巻で、その一員であることに興奮を覚えた。

 車の通行を長時間止められて、どれほど多くの人がこの大迷惑に怒っていることだろうと心配にもなったが、走りながら変化する街の景色を観ているうちに、「ああ、道路は、街は、時間は、人間のもの。たまには人間が自分の足で確かめてもよいではないか? 今、私たちはこうして街を取り戻している!」と大きな歓びを感じるようになっていた。

 国際的な大都市らしい構造物の迫力と同時に、都会では日頃感じることのない人間性を実感したのはマラソンというスポーツを通じて街を観て、感じたからだろう。
 身体に“東京”が刻み込まれ、「Yes!」になった。

 観光庁と文化庁とスポーツ庁がこの3月7日、観光立国の推進や地域経済の活性化などに向け、初めて3庁による包括的連携協定を締結した。2019年のラグビーワールドカップや2020年の東京オリンピック、さらにその後の観光振興に向け、連携して各種の施策を推進し、文化とスポーツを融合させた地域の魅力の向上に取り組むとのこと。

 「融合」という新たな着眼点から、まだまだ演出されていない日本の地域の魅力を発見したい。

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