地域としての強みにつながるデジタルアーカイブとは [コラムvol.403]

2019.08.28

観光政策研究部 主任研究員 福永香織

はじめに

 地域のまちづくりや観光地としてのあり方を考えていく上では、地域がどのような歴史を歩んできたのか、先人がどういったことを考えて何を形づくってきたのかをふりかえることはとても重要なプロセスになります。

 私たちは、観光まちづくりに長年関わっているキーマンとお話しする機会も多いのですが、最新のトレンドや他地域の取り組み事例だけでなく、その地域の歴史を深く勉強されている方が多く、さらにそれがアイデンティティとなり、揺るがない自信(軸)につながっている方も多いように感じます。

 しかし、歴史や地域の記憶をたどりたくても何を見ればよいのか、どこにどのような資料があるのかがわからないというケースも多いのではないでしょうか。また、存在意義や活用方法が理解されずに資料そのものが廃棄されてしまったり、地震や台風などの災害で散逸してしまうことも珍しくありません。

 今回は特にまちづくりや観光地づくりのヒントとなる地域資料を保存・活用し、より多くの方と共有するための一手段としてのアーカイブ化について考えてみたいと思います。

アーカイブを取り巻く背景

アーカイブの対象となる地域資料のイメージ(一部)

 本コラムにおける地域資料とは、例えば地域の歴史が書かれている市町村史、民俗誌、写真、映像などが挙げられます。例えば図書館に行くと郷土資料コーナーなどがあり、地域に関する資料がまとまって配架されていますが、その他にも過去の統計資料や各種計画類、広報などの行政資料、その地域のまちづくりなどを牽引してきた方の日記や記録など多岐にわたります。これらは図書館や博物館に全て収蔵されている訳ではなく、個人が所有しているケースもあります。

 こうした組織や個人が持つ記録を保存し、将来に伝えていくための施設や仕組み、資料そのもののことをアーカイブと呼び、さらにこれらのアーカイブをデータ化したものをデジタルアーカイブと呼びます。

 デジタルアーカイブという言葉は1996年に設立された「デジタルアーカイブ推進協議会」の準備会議の中で月尾嘉男氏(当時東京大学教授)から提案された和製英語です。その背景には、IT技術の発展やマルチメディアの概念の誕生が大きく関わっており、多くの博物館などでアーカイブとデジタルアーカイブがほぼ同時に立ちあがる傾向がみられたようです。※1

 「デジタルアーカイブの連携に関する関係省庁等連絡会・実務者協議会」が2017年にまとめた「我が国におけるデジタルアーカイブ推進の方向性」※2においても、「未来の利用者に対して、過去及び現在の社会的・学術的・文化的資産がどういったものかを示す、永く継承されるべき遺産であるとともに、その国・地域の社会・学術・文化の保存・継承や外部への発信のための基盤となるものである。こうした基盤を構築することは、国の戦略としても重要な取組であり、特に、公的機関がデジタルアーカイブに取り組むことが社会的責務として求められている。」としており、「デジタルアーカイブの構築・共有・活用ガイドライン」※3などとともにデジタルアーカイブの促進に努めています。

※1 笠羽晴夫「1.デジタルアーカイブの歴史的考察」映像情報メディア学会誌Vol.61. No.11 pp.1545-1548(2007)
※2 「我が国におけるデジタルアーカイブ推進の方向性」デジタルアーカイブの連携に関する関係省庁等連絡会・実務者協議会,2017年
※3 「デジタルアーカイブの構築・共有・活用ガイドライン」デジタルアーカイブの連携に関する関係省庁等連絡会・実務者協議会,2017年

デジタルアーカイブ化の現状と課題

 国内では1990年代から博物館や図書館、公文書館などで、所蔵資料のデジタルアーカイブ化が進んでいます。国が構築したデジタルアーカイブとしては、「国立国会図書館デジタルコレクション」や、約26万件の文化財を検索できる「文化遺産オンライン」(文化庁)などがある他、新聞社やテレビ局などが自社で撮りためた映像などを公開している例もあります。例えばNHKでは1925年のラジオ放送開始以降に撮りためた番組や台本・素材などを集約した「NHKアーカイブス」を構築しているほか、番組で取材した地域づくりに関する500以上の映像を登録した「NHK地域づくりアーカイブス」があり、例えば観光や地域おこし協力隊といった多様なキーワードから検索することができます。

 都道府県や市町村単位では、資料を所蔵している図書館や博物館をはじめ、行政やNPO、民間会社などがプロジェクトを立ち上げているケースも多いですが、特に観光セクションが整備したデジタルアーカイブは、観光素材としての動画や画像を集約して使えるようにしているものが多くみられます。
 また、東北の各県や市町村では東日本大震災をきっかけに、同震災に関する記録や資料を収集・公開しているデジタルアーカイブが複数構築されました。

 地元の観光関連事業者や住民が地域の歴史資料や記録をたどり、活用することを目的としたアーカイブもあります。機関誌「観光文化231号」※4で紹介した伊那市立高遠町図書館は、所蔵する古地図を活用し、現在の地図と合わせて見ることができるアプリ「高遠ぶらり」を住民とともに作成。住民のみならず観光客のまちあるきにも使われ、地域資料への注目と活用に一役買っている例といえます。

 また、大分県由布院では長年にわたってまちづくりを牽引してきた中谷健太郎氏主宰による「由布院の百年編集サロン」が立ち上がっており、同氏が関わってきた多様なまちづくりの記録を有志によってアーカイブ化する試みが進行中です。そこでは資料をアーカイブ化するだけでなく、過去の資料を改めて読み直して気付くことを整理・発信したり、由布院の観光やまちづくりに携わる人々が集まって語り合う場にしたいという想いがあります。

 このように多様なアーカイブが構築されるようになってきた一方で、課題が多いのも実情です。例えば「アーカイブの意義や必要性が理解されず活用する人が限られてしまう」「構築・運用に向けた財源や人材・ノウハウがない」「具体的な活用場面を想定しないまま構築してしまい使い勝手が悪い」「構築された後の管理・更新がされない」などが挙げられます。では、観光やまちづくりに特化したアーカイブを考えていく上ではどういった点が重要になるでしょうか。

※4 機関誌「観光文化231号:「観光の研究と実務に役立つ図書館」を目指して」

観光地づくりに活用できるデジタルアーカイブとは

 デジタルアーカイブ化に向けた具体的な資料整理の手順や詳細については、ガイドラインなどを参照していただければと思いますが、具体的な作業の前にまずは誰にどう役立ててほしいのか(住民や子どもの観光教育目的なのか、観光関連事業者向けなのか、観光客に向けたディープな情報提供なのか)という、アーカイブの位置づけや目的を設定することが重要です。

●利用が想定される関係者を構築段階で巻き込む

 アーカイブ化に向けた作業こそが、地域の観光やまちづくりの記憶をたどることになります。その過程では恐らくほとんどの人が知らなかった歴史やストーリーを発見することができますし、その時間を共有する会話の中で観光地づくりの新たなアイデアが生まれる可能性もあります。アーカイブ化の作業を委託先に全て任せてしまうのではなく、構築段階から地元の関係者が関わる機会や仕組みをあわせて検討することが必要です。アーカイブが構築された後の利用度や愛着度にも大きく影響します。

●資料に関する補足・詳細情報を記録しておく

 アーカイブ化の意義は、地域資料の保存と共有という点ももちろんありますが、その資料をより使える状態にする(価値を高める)ことに意味があると考えます。例えば、当時を知る方がお元気なうちに資料にまつわる詳しい話を聞いて記録しておく(見えないものを形にする)ことも重要です。

●観光ならではのアーカイブ資料

  観光に携わる方が利用することを想定したアーカイブの場合、例えばこれまでの写真や動画などの観光素材記録のみならず、過去の地域の様子がわかる旅行案内書やイベントなどのパンフレット、文化財などの詳細情報、郷土料理のレシピ集、観光統計資料や観光基本計画などの行政資料、講演会やシンポジウムの配布資料なども貴重な情報になります。 また、地域に全ての資料が残されているとも限りません。観光分野の資料の特性として、常に新しい情報に価値があると判断され、古いものが捨てられてしまう傾向があります。地域で所蔵していない資料がないかどうか、住民や古書店などに情報提供を呼びかけたり、国や外部の機関(専門図書館など)とも連携しながら情報を集約化しておくことも重要です。アーカイブとして収蔵できる量に限界はありますが、まずは一度、アーカイブの対象を広く捉えてみることをおすすめします。 資料そのもののデジタル化と公開に時間を要する場合は、どういった資料がどこにあるかという情報(目録)を一元化して公開するだけでも意味のあることです。

おわりに ~アーカイブ構築の作業を通して「今」やるべきことを考える~

 アーカイブというと過去の資料を対象とするイメージが強いですが、未来にとっての過去となる「現在」の取り組みや経験をどのような形で記録し、継承していくかも重要なテーマです。特に近年はWeb上だけで公開されるデジタル資料も少なくありません。改めて述べるまでもありませんが、作り上げたアーカイブを誰が責任を持って更新・運用していくかという議論が必要不可欠であるといえます。

 また、資料をデジタル化したからといって安全な訳ではなく、ソフトが使えなくなればデータを開くことさえできなくなります。デジタル環境に合わせてデータの更新が必要になることはもちろん、資料原本を適正な環境で保管し継承していくことも重要です。

 本当に役立つアーカイブのあり方は地域や分野によっても異なります。アーカイブを構築することの多様な意義を関係者と共有し、地域の強みにつながるアーカイブのあり方と構築方法を考えてみてはいかがでしょうか。

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