一人でも独りじゃない一人旅 [コラムvol.198]

2013.09.06

観光文化事業部 久保田美穂子
研究員コラム

■単身世帯が増えると一人旅?

 「おひとりさま」が注目を集めています。『おひとりさまの老後』(上野千鶴子、法研、2007)、『日本人はこれから何を買うのか?「超おひとりさま社会」の消費と行動』(三浦展、光文社、2013)など、話題の書籍は高齢社会の一人世帯に言及しています。一人暮らしといえば未婚の若者だけではなく高齢者のおひとりさまも急増する「超おひとりさま社会」がやってくると。
 そんな中、一人旅がじわじわと増えているというデータも注目されるようになりました。当財団の調査では、同行者別にみて一人旅は、延べ人数ベースおよそ6~8%です。全体に比べればまだまだ大きなマーケットではありませんが、長期的に振り返れば、職場や学校などの団体旅行が減り続けているのに対し、相対的にトレンドとして増えているのが「家族旅行」と「一人旅」。
 では、単身世帯がますます増えると、一人旅も増えると単純に考えていいのでしょうか。 「一人旅」の「ひとり」の意味をあらためて考える必要がありそうです。

■第二次おひとりさまブームが起きている

 昨年頃から、ひとりカラオケ館、ひとり焼き肉専門店、一人鍋専門店など、複数の業界で「おひとりさま対応」が積極的に始まりました。これまでグループで楽しんできたことを一人で楽しむ利用者が増えているというのです。
 一人カラオケは、他人に披露する前に練習をしたいというニーズに応えて始まりましたが、意外なことに若い女性がゆっくり本を読んだりSNSやメールのチェックなどをして休んで過ごす姿も少なくないそうです。一人焼き肉や一人鍋の専門店では、「一人で寂しくないの?」の質問に「スペースが区切られていてまわりの目を気にすることなく、一人で好きなように食べられるからいい」と。

 2004年に『男が知らない「おひとりさま」マーケット』を書いたマーケティングライターの牛窪恵さんは、今、「第2次おひとりさまブーム」が起きていると言っています。
 第1次ブームは2000年代の前半で、主に高級ホテルやレストランを好むアラフォーや段階ジュニアがそれを支えました。そもそも「おひとりさま」とは、ジャーナリストの故岩下久美子さんが「これからは個の時代。女性が堂々と一人で行動できる世の中にしたい」と99年、「おひとりさま向上委員会」を発足させたことがきっかけです。言い換えれば、当時はそれが普通ではなかったということです。
 第2次おひとりさまブームは2000年代後半から現在に至ります。第一次と少し異なるのは、「おひとりさま」がもはや特別ではなく「日常」になり、「カジュアル」な内容になってきたことです。第一次ブームよりも少し若いアラサーや20代が中心になって支えていること、また、結婚して夫や子供がいても一人の時間を大事にしたいという人が出てきているのが特徴です。
 その理由は、子供の頃から個室を与えられ、一人でいることに慣れている世代だから。あるいはもっと深い心理面から、イジメに直面した世代であることから、みんなにあわせようとする同調圧力から解放されるために一人になりたいのではと分析する人もいます。

 いずれにせよ、今はこのように一人を楽しむ女性が増え、「おひとりさま」を社会も本人もポジティブに評価する時代になりました。「おひとりさま」は「寂しい」「かわいそう」どころか、自分自身の充実した時間を取り戻す積極的でプラス志向の行動なのです。今や男性にも影響するムーブメントになっているといえるでしょう。

■本気の事例から読み解く一人客

 ここで観光業界に目を転じますと、確かにwebサイトを中心に「一人旅」予約の入り口が増えたり、旅雑誌の一人旅特集なども目立つようになりました。しかし、多くの旅館の本音は積極的とは言えないのが実情で、「(しかたないので)一人も予約受けます(空いていれば)」といった気配はまだまだ濃厚。「ポジティブにひとりで良い時間を過ごしたい」と考えている「おひとりさま」の気持ちとのギャップは大きいと言わざるを得ません。
 そんな中、一人客から支持を集めている事例を取材して「ひとり」に関する共通点を考えてみました。

 別所温泉(長野県上田市)の上松屋旅館は、15年前から積極的に一人客を受け入れ、一人旅歓迎の宿として成功している人気の宿です。ユニークな経営の考え方や様々な工夫については別の機会に紹介したいと思いますが、なんといっても社長自身が一人旅が好きで、一人旅「も」でははく一人旅「を」を受け入れているという「本気」がポイントです。
 面白いのは、一人旅のお客さんはクチコミを書く傾向が強いため、結果的に一人客が旅館の評価点全体を上げてくれたという話。また一人客はリピート率が高く、家族や会社の同僚などを連れて泊まるようになるそうで、「ひとり」は一人だけの世界で閉じていない存在らしいと気がつきます。

 2011年から「旅館一人旅」の特設ページを設けたところ好評で、一人客が全体の1割を占めるに至ったのは予約サイトの一休.com。会員の平均年齢は男性45才、女性41才ですが、“一人旅館”は女性の30~40代の利用が目立つとのこと。
 他社のサイトでは、一人旅のバナーから入っていっても、食事や部屋の条件を中心とした一般的なプラン名がぞろぞろ出てくるケースが多い中、一休.comでは、どんな時間が過ごせるのかイメージが膨らむような表現のプラン名などが工夫されています。また、利用者が寄せた体験コメントがよく読まれているそうで、ここでもやはり自分の体験を伝えたがっている一人客、感性のあうクチコミに背中を押されたい一人客予備軍の構図が浮かんできます。同社の汲田取締役COMは「一人客とは、良質なクチコミが輪を広げる、ユーザー主導の需要創造が起きるマーケットなのかもしれない」と分析していました。
 SNS全盛の今日、カタチは一人旅でも、スマホを利用して常に知り合いとコミュニケーションしている旅行者は少なくなく、一人客とはむしろ、旅の前後も最中も「つながり」を意識している客層なのではないでしょうか。

 (株)朝日旅行の「恋するヨーロッパ 私を元気にする旅」は、ツアー商品でありながら、ユニークな「おひとりさま」の楽しませ方を示唆しています。同社の海外旅行顧客の平均年齢は68才、多くが女性。もともと一人参加者が多かったそうですが、昨年思い切って試みた「女性おひとりさま限定」が好評だったので、今年の秋はツアー数を増やしました。
 ポイントは「女性はいつまでも乙女!」という現場の実感に基づき、「女性のおひとりさま」と「かわいらしさ(可憐で乙女チックなこと)」に絞り込んだこと。参加形態とテーマを限定したことで、それぞれが安心して自分の趣味世界を楽しみ、「皆さんハジけていらっしゃいました」とのこと。

■内面の充足感を共有したい

 共通点は「一人」であっても「独り」ではないということ。
 一人暮らしだから一人旅なのではなく、すでに「おひとりさま」行動は、女性が現代社会を生きるために必要な元気の源なのです。また、一人=aloneは楽しみたいけれど、独り=lonelyではないということです。それがネット上であったり、ツアーで一緒になったりと幅はありますが、感性的な共通点を誰かと共感したり楽しみたいという深層心理を伴っているのではないでしょうか。
 活力をチャージし、豊かな時間を過ごした自分を好きになること、それを誰かと共有するといった両面的な感覚が埋め込まれた一人旅。
 「ひとり」は見かけよりもずっと奥深いのです。

 

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