利用者モニタリングの重要性 [コラムvol.226]

2014.10.10

観光文化研究部  五木田玲子
研究員コラム

■健康診断の重要性

 先日、健康診断を受けました。その際、医師から「例えば、健康診断の結果、ある問題のありそうな症状があったとします。しかし、それはここ数ヶ月で急に発生した現象なのか、それとも昨年から同じ状況なのかで解釈の仕方や対応は異なります。それは、一回の検査ではわかりません。ある時点で一定値を超えるという診断もありますが、その症状がいつ発生したのかによっても捉え方は異なるのです。そのためには、定期的に自分の体の状態を把握することが重要です。」といった健康診断の重要性についての話がありました。

■自然地域におけるモニタリングの現状

 医師からの言葉は、私の心に深く残りました。というのは、この話を聞いて、私が近年取り組んでいる研究テーマのひとつである「自然公園における利用者モニタリング」を思い浮かべたからです。「モニタリング」とは、デジタル大辞泉によると「監視すること。観察し、記録すること。」と定義されています。つまり、利用者モニタリングとは、利用者の量(数)や質(意識等)を定期的に観察し、記録することです。日本の自然地域においては、自然環境におけるモニタリングは行われています。また、利用者の量(数)についても、モニタリングは進められています。しかし、利用者の意識等質的な情報については、これまで国内の複数の公園について統一的かつ継続的な調査が実施されたことはなく、対処すべき課題が発生した際に各公園で独自に調査票を設計して実施していることが多いという現状です。

■自然地域でのモニタリングの海外事例

 それでは、海外ではどのような取組が行われているのでしょうか。

 事例1:アメリカの国立公園における「VSP」と「VSC」
 アメリカの国立公園では、「VSP(Visitor Services Project)」と「VSC(Visitor Survey Card)」という2つの利用者モニタリングが行われています。

 VSPは、サービスの向上や資源の保全、公園をより効果的に管理することを目的とした調査です。特徴としては、ボリュームのある詳細な内容の調査票(ヨセミテ国立公園での2009年調査では16ページ!)で、プロジェクト(公園)ごとに調査票をアレンジ、毎年継続して実施するものではない、などといったことが挙げられます。この調査は、国立公園局が利用者やその意見について把握することの必要性を認識し、1982年よりアイダホ大学公園研究ユニットと共同で開始したもので、調査方法を大きく変更した1988年から、300件以上の調査を実施しています。

 一方、VSCは、政策評価の目標値である「利用者の満足」「利用者の理解」に関連した実績を測定するための調査で、国立公園局とアイダホ大学公園研究ユニットが共同して1997年から実施されています。調査票には1枚のマークシート形式の簡単なものが使われ、全地域で統一フォーマットを利用、全地域が毎年実施といった特徴があります。

 事例2:ノルディック・バルチック諸国の自然地域における利用者調査マニュアル
 ノルディック・バルチック諸国(デンマーク、エストニア、フィンランド、リトアニア、ノルウェー、スウェーデン)では「自然地域における利用者調査マニュアル」が作成されています。作成したのは各国の研究者などによるワーキンググループで、2004~2007年の4年間を掛け、ノルディック・バルチック諸国におけるビジターモニタリングの統一手法の確立を目指し、利用者の量と質の2つの側面から調査の意義、調査の実施方法、結果の読み方、活用方法などを記した約200ページに及ぶ内容となっています。統一した理由のひとつには、経年比較、他地域比較があります。ノルディック・バルチック諸国でも以前から利用者調査は行われていましたが、ガイドラインはなく、独立した個別のプロジェクトとして実施されていました。しかし、アドホック調査(特定な目的のための調査)では調査結果が不正確となり、結果間の相互比較ができないことが問題となっていたことが、取組のきっかけとなっています。

図 ノルディック・バルチック諸国の自然地域における利用者調査マニュアル
図 図
出典:Visitor monitoring in nature areas – a manual based on experiences from the Nordic and Baltic countries.

■利用者モニタリングの重要性

 冒頭の医師からの言葉の“健康診断”を、“利用者調査”に置き換えてみます。
「例えば、利用者調査の結果、ある問題のありそうな状況があったとします。しかし、それはここ数ヶ月で急に発生した現象なのか、それとも昨年から同じ状況なのかで解釈の仕方や対応は異なります。それは、一回の調査ではそれがわかりません。ある時点で一定値を超えるという診断もありますが、その現象がいつ発生したのかによっても捉え方は異なるのです。そのためには、定期的に自分の地域の状態を把握することが重要です。」


(参考)
National Park Serviceホームページ http://www.nps.gov/index.htm
スウェーデン環境保護庁ホームページ http://www.naturvardsverket.se/

 

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