遠くのひとに声を届ける [コラムvol.298]

2016.04.11

観光政策研究部 研究員 清水雄一

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 この1年、縁あって東北沿岸部での業務に携わることができた。震災後5年が経過する中で、私自身、未だ消化しきれないものが多々ある。あの日からの出来事を、ひとりひとりが心に抱きつつ、それぞれの方法で折り合いを付けようとしていると言ってしまって良いのだろうか。この間、多くの魅力的な人々にお会いすることができた。そんな出会いの中から、今回のコラムでは皆様と共有したいある取組についてご紹介したい。

家に眠っている絵はがきはありませんか

 我々が岩手県の沿岸部から来たことを知ると、その女性は言った。

 「私、出身が釜石なの。親戚が3組住んでる!」

 ホテルのフロント業務の時よりも、幾分、声のトーンが高くなった。

 私たちが、観光を通じて地域の復興を支援している仕事をしていることを聞くと、彼女は静かな口調で問わず語りを始めた。それは、白神山地の懐の、静かな新緑の5月にぴったりの声色に私には聞こえた。

 「段々と、支援する側の悩みも支援される側の悩みも両方見えるようになってきた。私は自分が納得する形で気持ちを届けていきたいの。それで、仮設に住んでいる人達にコースターを作ってもらって販売してる。1個250円で売って経費を差し引くと60円が残る。それを細々と貯めてるの」

 彼女はそう言って、引き出しの中から良く馴染んだノートを取り出した。手書きで、毎月の帳簿が書かれている。

 「この月は1万円、この月は4千円ね。月によって様々ではあるけれど、こうやって貯めたお金を来年の5年目にまた返そうと思ってる」

 私たちがコースターを買いたい旨を告げると、水引を編んで固めたカラフルなコースターが幾種類も出てきた。しっとりとした色の組み合わせも美しかったが、私は、敢えて派手なラスタカラーのものを選んだ。

 「最初は正直、売り物のレベルじゃなかった。だから、私、教材を送ってさ、出来た物をこれじゃダメって突き返したりしながら、ようやく今のものになった。
 きっかけは、何か作業をすれば、気が紛れるんじゃないかって思って。皆、『死にたい、死にたい』って言うの。私はそう言う人達の気持ちを少しでも違う方向に向けたかった。
 それからね、いろいろ考えて、絵はがきと切手を贈ることにしたの。皆、何もかも流されちゃってるから、状況や気持ちを伝える手段がない。お金がないからどうしたら良いか考えて、家に眠っている絵はがきを送ってもらうことにしたの。絵はがきって、皆、楽しいところに行って買ってくるでしょ?でも、海の絵柄は除いた。どうしても思い起こしてしまうから。この取組が新聞記事になったら、全国から絵はがきがドッと集まり出して、数千枚になったの。中には『1枚だけなんですけど、良いですか』って、ここまで届けてくれる男の子もいた。
 集まった絵はがきは、ボランティアの人達が3千世帯に3枚ずつ切手を付けて、全て届けてくれたの。それだけの数となると結構な額になるでしょ?それで、コースターを販売しているのよ。中には、切手代として5百円、千円を一緒に入れてくれる人もいる。
 何で私がこんなことしてるかって言うと、姉と妹を津波で亡くしたの。いろいろと事情があって、私は子供時代を関東で過ごした。良い学校にも通わせてもらって。姉と妹は母と3人で釜石にいた。私が60歳になって仕事を辞めたら、藤里と釜石をゆったりと行き来しながら暮らそうと思ってた。そんなことを思っていたすぐ後に、あの津波があったのよ。それで私は一人になっちゃった。母はその数年前に亡くなっていたし。
 震災後、釜石に入ったんだけど、今にして思えば、二人の最期のことなんて聞かなければ良かった。でも、その時は、最期がどんな状況だったのか、せめて知りたかったのよ。DNA鑑定で『これです』って言われた骨は、こんな小さくて、私は納得いっていないの。この活動をしなかったら、私も消えていたと思う」

 暫しの沈黙があった。私には掛けるべき言葉が見つからなかった。

 「私、自分が卒業した釜石の小学校と中学校に、アマリリスも贈っているの。アマリリスって、球根から芽が出て、それはもう、グングン伸びて、花を咲かせるの。だから、私もそれを見て、どんなことがあっても、最後まで生き抜いてやるって強く思ったのよ」

 アマリリスの花言葉は「内気な少女」。それでもグングン伸びて、花を咲かせる。私はその秘めたる力強さのことを思った。

観光は何ができるか

 私達の仕事は「観光を通じて、豊かな社会を作っていくこと」だと思っている。当財団の機関誌『観光文化』229号の特集では、「東日本大震災からの復興に観光は何を果たしたか~5年間のふりかえりと今後への期待~」を取り上げている。ご覧いただければ、いろいろな人々の想いが詰まった、この5年間の取組の一端を感じていただけると思う。

 地域に対して、個々の人生に対して、我々には何ができるのか。紙面で物語を伝えるだけではなく、地域において、ひとつひとつの物語に耳を傾けながら、豊かなストーリーのある観光地づくりに取り組むことで、地域の歴史文化、自然とそこに暮らす人々の声を伝え、一人でも多くの人に地域に足を運んでいただきたいと考えている。

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