朝ドラ効果の持続性 [コラムvol.250]

朝ドラを見ると旅行に行きたくなる?

 NHK連続テレビ小説(以下、朝ドラ)「まれ」をご覧になっていますか?ドラマの内容はもちろん、能登の美しい里地・里山・里海の自然景観、その自然景観の中で育まれた独自の伝統文化や風習などに心が奪われ、「この場所を訪れてみたい!」という気持ちが湧いていらっしゃる方も多いのではないでしょうか。

 ふりかえってみると、私自身、朝ドラ「ちゅらさん」を見て小浜島に行き、大河ドラマ「篤姫」を見て鹿児島に行き、などと、テレビドラマの影響を受けて旅行先を決めたことも少なくありません。

 そこで、最近の朝ドラと、その舞台となった地域に対する人々の関心との関係について、Google社が提供しているGoogleトレンドというサービスを利用して調べてみました。

朝ドラの舞台となった地域に対する関心の推移

 既にご存知の方も多いかとは思いますが、Googleトレンドとは、特定のキーワードの検索ボリュームの動向を調べるサービスです。調べたいキーワードを入力すると、そのキーワードがどの程度検索されてきたのか、その推移がグラフで表示されます(表示される値は絶対値ではなく、経年の推移を相対的に示すものであるという点に留意が必要です)。

 今回は、最近の朝ドラの中から、以下の5作品を対象としました【表1】。具体的には、検索キーワードに、「あまちゃん 久慈」「マッサン 余市」といったように作品名と地域名を入力し、朝ドラの舞台となった地域に対する人々の関心の推移について調べました【図1】。

 作品によって検索ボリュームの大小はあるものの、いずれの作品においても、放映が始まる約1ヶ月前から検索が始まり、放映開始とともに急増、放映期間終了から約2~3ヶ月後には、検索があまりされなくなる、という傾向がみられます。ただし、「あまちゃん」については、放映終了後も一定程度の検索がゆるやかに行われているという状況でした。

        表1 対象とした朝ドラの放映期間と主な舞台

表1

         図1  「(朝ドラの作品名)(その舞台となった地域)」の検索ボリュームの推移

Googleトレンドでの検索結果

Googleトレンドでの検索結果

地域への興味・関心の底上げ

 ここで私は、朝ドラの放映がその地域自体への関心にどのような影響を及ぼしたのか、ということが、気になりました。そこで、「久慈」を取り上げ、過去10年間の地域自体の検索の推移を確認しました【図2】。なお、久慈については、名字等でも使われることが多い文言のため、ここでは「久慈市」というキーワードを用いました。

        図2 「久慈市」の検索ボリュームの推移

Googleトレンドでの検索結果

Googleトレンドでの検索結果

 この結果を見ると、朝ドラ「あまちゃん」の放映期間中(2013年4月~9月)は検索ボリュームが大幅に増えていることが一目瞭然ですが、注目すべきは、放映終了後の状況です。一見すると、放映終了とともに大幅に減った、というようにも見えますが、放映前の検索ボリュームからみると、底上げされていることがわかります。ドラマの余韻もあるとは思いますが、人々の興味・関心が、ドラマのロケ地からその地域自体に移ったとも言えるのではないでしょうか。

 どんなにはまって夢中になった朝ドラであっても、次の朝ドラが始まると、こっちもいいな、行ってみたいな、と思ってしまいます。放映期間中のほうが注目も集めますし、観光客も増加します。しかし、朝ドラの効果は一過性のものではなく、人々の心にずっと残るものだと思います。

 冒頭の話に戻りますが、私が小浜島を訪れたのも、「ちゅらさん」放映から数年が経過してからでした。そのときに楽しみにしていたことは、ロケ地そのものを見ることではなく、その土地の空気感に触れたい、自然景観を目の当たりにしたい、歴史文化を感じたい、という思いでした。きっかけは朝ドラでしたが、興味・関心の先は、ロケ地ではなく、小浜島という地域自体に移っていたのです。朝ドラによって底上げされた人々の興味・関心を維持するためには、ロケ地だけではなく、自然景観や伝統文化、風習を含めた地域全体の魅力をしっかりと伝えていくことが大切なのではないでしょうか。

参考