インバウンドの地方部訪問・消費促進における体験活動の活用可能性 [コラムvol.516]

2024年も折り返し地点を過ぎました。ここまでのインバウンド市場は、単月の訪日外客数が8ヶ月連続で過去最多を更新し、コロナ禍で低迷していた数年前の状況からは想像できないほど好調に推移しています。コロナ禍以降、インバウンド市場は都市部やゴールデンルートで先行的に回復してきた一方、一部ではオーバーツーリズムも起きています。こうしたインバウンド需要の地域偏在を解消するためにも、改めて地方分散が重要になるのではないかと感じています。

地方観光地への訪問・消費促進に活用が期待される「体験活動」

10月11日に公表した当財団と(株)日本政策投資銀行で毎年実施している 「DBJ・JTBF アジア・欧米豪訪日外国人旅行者の意向調査2024年度版」において、「日本の地方にある(首都圏・都市部から離れた)観光地(以下「地方観光地」)」への訪問意向は、イギリス(81%)を除く11市場で90%を超え、高水準である一方、実際のいわゆる地方部への訪問経験は低位です (図1)。この調査結果から、地方部への高い訪問意向を、どう実際の訪問につなげていくかが大きな課題であることが見えてきました。

図1 日本の観光地への訪問経験(n=3,349)

日本の観光地への訪問経験
資料:DBJ・JTBF アジア・欧米豪 訪日外国人旅行者の意向調査 2024年度版より筆者作成

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地方部への訪問や消費促進にあたってはいろいろなアプローチがありますが、今回は体験活動に着目したいと思います。その理由として3点ほど挙げたいと思います。1点目は、体験活動を実施することによって宿泊、飲食、移動等を伴うことが多いため、1人当たり旅行支出の増加に影響することが挙げられます。実際に訪日時に体験活動を実施した人は実施していない人に比べ、1人当たり旅行支出が高いことが分かります(図2)。2点目として、今後、成長の余地や可能性があることが挙げられます。体験活動に関連する消費の大部分は、訪日外国人消費動向調査(現:「インバウンド消費動向調査」)(観光庁)では、「娯楽等・サービス費」に分類されますが、観光・レジャー目的の人の購入率(体験サービス等を購入した人の割合)、購入者単価(体験サービス等を購入した人を分母として算出される当該サービスを購入する際に支払った支出金額の平均値)ともに、過去10年間で上昇しており、購入率に至っては28ポイント上昇しています(図3)。3点目は地域資源の活用のしやすさです。買い物や飲食は集積している方が消費促進される傾向にあるため、都市部に分があると言えますが、地域資源の活用という観点からは、都市部と地方部に大きな差はないと考えられます。

図2:体験活動の有無別1人当たり旅行支出

日本の観光地への訪問経験
出典:「令和元年度版 観光白書」(観光庁)

図3:娯楽サービス費の購入者単価・購入率の経年推移(観光・レジャー目的)

日本の観光地への訪問経験
資料:「訪日外国人消費動向調査」(観光庁)より筆者作成

訪日時の体験活動の実施率や消費の現状から考えられる活用の方向性

続いて訪日時の体験活動の様子から、活用の方向性を考えてみたいと思います。訪日経験者を対象に訪日旅行で体験した活動の実施率(横軸)、購入率(縦軸)、購入者単価(バブルの大きさ)の関係(図4)から、実施率と購入率には弱い負の相関があり、全体的な傾向として、実施率が高い活動ほど、購入率が低くなる傾向があります。また、「自然や風景の見物」にように、実施率が高く、購入率が低い活動、「伝統工芸品の工房見学・体験」のように実施率が低く、購入率が高い活動もあり、活動ごとに特徴があることがうかがえます。この結果から、例えば、「伝統工芸品の工房見学・体験」は、幅広い層に訴求するコンテンツとして育てて、実施率(訪問率)向上を主目的としたコンテンツとして活用していくのか、ニッチ層に訴求する高品質(高単価)なコンテンツとして育て、消費促進コンテンツとして活用していくのか、活用のパターンは複数存在します。重要なことは、体験活動の特徴を捉え、体験活動ポートフォリオの中でどう活用していくのか、その方向性を決めていくことではないでしょうか。

図4:訪日旅行で体験した活動の実施率(上位20位)×購入率×購入者単価(n=3,349)

訪日旅行で体験した活動のの関係

続いて、地方部の体験活動の実態から、地方部の体験活動の活用の方向性を考えてみたいと思います。当該体験活動を実施した人を100%とした場合の実施場所(地方部・都市部※)別の構成比を示したのが図5です。地方部での割合が高い(5割を越える)活動は、「雪景色鑑賞」、「アクティビティ(スノー/マリン/山/その他アウトドア)」、「自然や風景の見物」、「温泉への入浴」、「自然や資源を損なうことのないよう配慮されている観光地・観光ツアー」、「フルーツ狩り」と、今回聴取した31活動中6活動と2割程度に留まり、さらに自然資源を活用した体験活動が目立ちます。こうした状況から、シェアの拡大や幅広い資源活用という観点からも地方部での拡大余地があると考えられます。

図5:訪日旅行で体験したこと×実施場所(地方部・都市部別)

実施場所
資料:DBJ・JTBF アジア・欧米豪 訪日外国人旅行者の意向調査 2024年度版より筆者作成

図6は地方部・都市部※での購入率に有意差が確認された活動です。地方部での購入率が高い活動は、見物を主としていることが明らかになりました。これらの活動の実施割合は都市部の方が高いものの、購入率では地方部が高い結果となっています。都市部では建造物が集積しており、二次交通も発達しているため、これらの活動を実施することは容易です。事前に予定していなくても気軽に立ち寄ることができる環境とも言えます。一方で地方部では都市部ほど建造物は集積していない可能性が高く、アクセスも必ずしもよいとは言えません。それでも地方部で日本庭園や建造物を見物する人は、はっきりとした目的意識と期待を持って訪問している可能性が高いのではないでしょうか。それゆえ、価値を理解し、支出することを惜しまない傾向があるのではないかと推察します。

図6:訪日旅行で体験したこと×実施場所×購入率

訪日旅行で体験したこと×実施場所×購入率
資料:DBJ・JTBF アジア・欧米豪 訪日外国人旅行者の意向調査 2024年度版より筆者作成

おわりに

地方部の自然資源は都市部に比べて充実しており、自然資源を活用した体験活動も豊富です。また、調査結果が示すように(図5)、外国人旅行者の期待も大きいと言えるでしょう。そこで、例えば、実施率向上、地方部への訪問率向上を狙うコンテンツとしては、主に自然資源を活用した体験活動を位置づけるのもよいかもしれません。また、自然資源以外の地域資源を活用した活動については、明確な目的意識と高い期待を持った層が実施してくれる可能性があります。これに応えられるサービス、商品を提供し、消費単価向上を狙う手段とすることもできるかもしれません。

今回は「地方部」という大きな枠の中で体験活動を活用した訪問、消費促進の方向性を考えてみましたが、今後、体験活動を通じて、外国人旅行者の訪問・消費促進を狙う地域においても同様の検討ができると思います。まずは、自地域の地域資源を活用した体験活動の実施率、また、これによる消費の現状を網羅的に把握し、地域課題に合わせた活用を検討することが重要になるのではないでしょうか。

※「DBJ・JTBF アジア・欧米豪 訪日外国人旅行者の意向調査 2024年度版」においては、「都市部」は埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、愛知県、京都府、大阪府、兵庫県、「地方部」は都市部以外の道県とした。