地域の博物館、どう見せる?どう活かす?[コラムvol.279]

 先日、立教大学の旅行産業演習という授業の合宿で新潟県佐渡市に行きました。

私が個人的に楽しみにしていたのは、佐渡國小木民俗博物館です。民俗学者の宮本常一が設立を助言し、住民自らが民具を集めて展示の準備を行った手作りの博物館です。旧宿根木小学校の校舎だった建物に、千石船を実物大で復元した白山丸をはじめ、約30,000点もの生活用具が展示されています。私も実際に見学しましたが、民具が好きな人にとってはたまらなく面白いものがたくさんありました。

 しかし、見学した学生や先生の感想としては、展示資料が充実しているのに、ただ羅列されているだけでもったいないというものでした。解説がほとんどなく、しかも整理しきれない民具が単に積まれている一角もあり、どうしても無造作に並べられている印象を持たれるようです。

 これはこの博物館に限らず、郷土系の博物館全般に言えることだと思います。さらにはこうした博物館の中には常時閉館状態になっている施設も多く存在し、せっかく行ったのに見学できず、がっかりする例も少なくないようです。その背景には様々な要因がありますが、地域の歴史や生活を伝える郷土の博物館の魅力をさらに高めていくためには、一体どうすればいいのでしょうか。

郷土系の博物館がおかれている現状

 日本には博物館法で定義されている博物館※1が5,747館(平成23年時点)あり、資料の収集、保存、展示、研究などを行う学芸員は7,293人となっています。学芸員がいない博物館も多くあり、財政状況が厳しい中、少ない学芸員で多くの仕事をこなさなければならず、正常に施設を運営していくだけの体制が整いにくい状況にあるといえます。

 平成25年度「博物館総合調査基本データ集」※2によると、常勤職員の人数をみても、0人と回答した施設は全体で8.6%という結果になっていますが、郷土博物館では18.6%となっています。常勤職員・学芸員の平均人数も他の館種と比較して少ない人数となっています。(図表1)

 また、自館の抱える課題として、全体では「ICT(情報通信技術)を利用した新しい展示方法が導入できていない」(81.0%)、「財政面で厳しい状況にある」(80.0%)「資料や資料目録のデジタル化が十分できていない」(71.5%)の順に挙げられていますが、郷土博物館では上位2つに続く課題として「常設展示の更新が十分にできていない」(76.8%)「職員の数が不足している」(75.1%)「資料を良好な状態で保存することが難しくなっている」(74.4%)の順に挙げられています。(図表2)

 一方で、日本は学芸員の数が少ないことも影響してか、博物館の運営やイベントの企画などに住民(ボランティア)が関わるケースが多いといえます。同調査によると、全国の博物館で住民などによるボランティアの関わりがあるところは37.4%に及びます。彼らは、来館者への案内、イベントの企画など、様々なテーマで活動し、学芸員と一緒になって博物館を支えています。とはいえ、ボランティアの関与度は博物館の規模やテーマによっても異なり、植物園や理工系の館種では6割近くに及ぶのに対し、郷土系の博物館になると31.2%と最も少なくなっています。

 もちろん、施設の規模や扱う資料の種類によって必要な設備や労力は異なるので、単純な比較で議論はできませんが、郷土博物館の置かれている状況が垣間見えるデータであるといえます。

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どこにでもある資料から、1点ものの資料へ

 特に規模が小さい博物館の場合、人手がなく、収蔵庫がないことなども展示資料の整理が追いつかない一つの要因ではありますが、特に民具の展示について気になるのは解説がほとんどないということです。比較的近い時代、かつ身近な環境で使われていたものが多いので、見ればわかるものが多いことも事実です。しかし、各地の民具を見てみると、それらは一見同じ桶でも地域や所有者によって色々な違いがあることがわかります。また、持ち主が使った歴史やエピソードが、キズや屋号の印、手作業で直した跡といった形で資料に残されています。さらに、民具には作る人や使う人の知恵とセンスがたくさん詰まっています。佐渡國小木民俗博物館を見学した学生もランプのデザインに興味を持ったようでした。

 エピソードや蘊蓄が資料と共に展示されていると、どこにでもある資料から、そこにしかない資料へと変わります。1点ものの資料としてのストーリーを来訪者に伝えるためにも、資料の提供者が元気なうちに、いつどこで手に入れたのか、何に使っていたものか、どういった思い出があるのかといったエピソードを詳しく聞いておく作業が重要になります。

 実際に資料にさわれるようにしたり、解説パネルに写真やイラストを加えてあるものもありますが、子どもだけでなく外国人観光客にもイメージしやすいものになります。佐渡國小木民俗博物館では、大学生が中心となって作成した博物館のガイドブックが販売されており、資料の見方をサポートしてくれるツールとなっています。

地域の情報発信基地としての博物館

 博物館は地域のことを最もよく知っている施設です。館内で情報を完結させてしまうのではなく、資料をきっかけに、関連する場所にいざなう仕掛けができないかと以前から思っています。資料自体は古いものが多いですが、それに関連するものが今の時代にどう受け継がれているのか。実際に感じることのできる場所や施設が地域にあれば、その情報もあわせて提供されていると来訪者が地域内を回遊するきっかけになります。

 博物館の特徴的な取り組み事例の詳細については、また別の機会にご紹介したいと思いますが、例えば企画展にあわせて現地をめぐるツアーを実施している例もありますし、博物館周辺の街並みや地域資源の解説パネルを博物館が設置しているケースなどもあります。

 地域全体を博物館として見立てるフィールドミュージアムの考え方が日本でも知られるようになってずいぶんたちますが、そのコアとなる博物館が機能を活かしてできることはまだたくさんあると思います。しかし、やりたいのは山々だが人手と予算がないというのも実状です。博物館の魅力づくりについては、常勤職員のみならず地元の住民の皆さんや学生さんなど多様な方々に協力していただきながら行うことが有効ですが、博物館自体のビジョンや役割を認識しつつ、取り組み全体をプロデュースできる人材の育成も必要不可欠であると言えるでしょう。博物館自体の魅力づくりに加え、国全体としての博物館政策についてもまだまだ考えるべきことがありそうです。

 ※1 博物館法では、博物館を目的、設置主体、登録の有無の3点で位置づけており、博物館(913館)、博物館相当施設(349館)、博物館類似施設(4,485館)の種別がある。その他、統計上把握していない施設もある。

 ※2 平成25年に実施。全国の 4,045 館を対象とし、2,258館から回答を得ており、うち郷土は285館となっている。

http://www.museum-census.jp/data2014/