離島観光と「関係人口」:持続可能な地域社会のために [コラムvol.528]

はじめに

日本が直面する人口減少と高齢化は、特に離島において急速に進み、その持続可能性は喫緊の課題となっています。集落機能の低下、担い手不足、医療・福祉サービスの脆弱化など、地域社会の維持は困難さを増し、交通手段の制約や生活物資の輸送コスト、医療機関の不足といった物理的・経済的な不利性も負担となっています。このような厳しい状況下で、離島がその活力を維持し、未来を切り拓いていくためには、「関係人口」という概念がこれまで以上に重要な意味を持ち始めているように感じています。

国土交通省は、「関係人口」を「移住した『定住人口』でもなく、観光に来る『交流人口』でもない、地域と多様な形で関わる人々」と定義しています。国土交通省の「地域との関わりについてのアンケート」(2020年9月実施)によれば、三大都市圏の18歳以上の約18%(約861万人)が訪問型関係人口として特定の地域に関わり、その他地域でも約16%(約966万人)が同様の関わりを持っています。この中には、地域の内発的発展に直接寄与する「直接寄与型」も多数含まれています。内閣官房の2022年度調査では、全国の地方公共団体の約7割が関係人口に関する取り組みを実施していることが明らかになっており、この概念への期待の高さがうかがえます。

今回のコラムでは、離島における関係人口の意義、メリット、アプローチ事例を挙げ、離島の持続可能な地域社会の維持・発展に関する関係人口の役割を深掘りしたいと思います。

離島における「関係人口」創出の意義

多くの離島では、本土以上の速さで人口減少と高齢化に直面し、地域社会の維持が困難になる中、古くから育まれてきた互助(助け合い)の精神に外部の担い手が加わる意義は大きいでしょう。作野(2019)は、関係人口を従来の「交流人口と定住人口の間に位置する第3の人口」という捉え方から一歩進め、「新しい時代における都市地域と農山漁村地域との関わり方の一つ」として位置づけています。一時的な観光客誘致では解決できない地域社会の課題に対し、継続的に関わるリピーター、すなわち「関係人口」が貢献する可能性を秘めているといえます。彼らは離島の多様な問題に新たな視点と解決策をもたらし、地域の活性化に寄与することが期待されます。

国土交通省は、関係人口を「地域の内発的発展に比較的に直接的に寄与する人から、地域と様々な関わりを持つ人」まで多様に存在するとし、地域づくりにおいては「地域への影響が強い関係人口及び定住人口を増やしていくことが重要ではあるものの、特に目立った活動をしない人を含めて、多種多様な関係人口及び定住人口が存在し、ごちゃ混ぜになって活動することにより、地域が賑やかになることが望ましい」と述べています。

離島の関係人口がもたらす具体的なメリット

関係人口、特にリピーターが離島にもたらすメリットは多岐にわたります。

まず、最も直接的なメリットとして「人手不足の解消」が挙げられます。漁業、農業、観光業といった基幹産業における担い手不足や、医療・介護、教育現場での人材不足は多くの離島で深刻化しており、関係人口はこれらの分野で貴重な労働力となる可能性があります。

次に、祭りや清掃活動、子育て支援など、地域住民だけでは維持が困難になりつつある活動への積極的な参加と支援を通じて、「地域活動の活性化」に大きく貢献してくれると考えられます。関係人口が積極的に参加し、支援することで、地域の活力を維持することができるのではないでしょうか。

また、関係人口が地域内で消費活動を行うことで、お金と人の循環が促され、商店や交通機関などの生活サービスが維持される基盤となり、「地域経済の維持」に不可欠な役割を果たします。

さらに、外部の視点から「地域資源の再発見」が促されることも期待されます。島民が気づかなかった地域の魅力や課題が明確になり、新たな観光資源やビジネスチャンスが生まれる可能性があります。

彼らの生の声は、地域の魅力をよりリアルに伝えることができるので、SNSなどを通じたリアルな体験談の発信は、「情報発信力」を強化し、新たな来訪者や関係人口を呼び込む強力なツールとなります。そして、関係人口との交流や外部からの刺激が、島の魅力を再認識するきっかけとなり、「若者のUターン・Iターン促進」につながる可能性もありそうです。

離島で関係人口を育むためのアプローチ

離島の特性を踏まえ、関係人口を増やすためには、従来の観光振興とは異なるアプローチが必要だと考えます。

例えば、「島暮らし体験」の充実はその一つで、農漁業体験や地域行事への参加、古民家での宿泊など、よりリアルな暮らしを体験できるプログラムが求められます。単なる観光ツアーに留まらず、農漁業体験や地域行事への参加、古民家での宿泊など、よりリアルな暮らしに触れることができるプログラムの提供が重要です。沖縄県宮古郡多良間村の「Tarama Adventure Journey」では、多良間島の文化と暮らしを五感で伝える体験を提供し、謎解きプログラムや伝統文化体験(豆腐づくり、追い込み漁、さとうきび刈りなど)を通じて来島者と地域住民の交流を促しています。地元住民が島の価値を再認識し、誇りを持てる機会を提供するとともに、中学校での授業で観光コンテンツ体験を提供し、将来の担い手への関心を喚起する活動も行われています。現代の働き方の多様化に対応した「複業」「兼業」との相性もよいです。リモートワークやワーケーションを前提とした、都市部と離島を行き来する柔軟な働き方を提案することで、多様なスキルを持つ人材を呼び込むことが可能になります。離島の季節性のある仕事と、都市部で培われたスキルを組み合わせる「複業」のマッチングも、双方にメリットのあるものになると考えられます。

「コミュニティ形成の支援」もまた、不可欠な要素です。関係人口同士や島民との交流の場(オンライン・オフライン問わず)を提供することで、彼らが地域に自然に溶け込み、継続的なつながりを持てるような仕組み作りが必要です。作野(2019)は、「地域を守る」行動を継続的に行える人材としての関係人口の重要性を指摘しており、この視点からも、「島ファンクラブ」のような制度や、環境保全、特産品開発といった特定のテーマに関心を持つ関係人口が集まるプロジェクトの立ち上げは有効な手段となります。沖縄県うるま市の地域団体SU-TEは、古民家食堂「あごーりば食堂」を運営し、地域住民が集まる「島のリビング」として活用しています。ここではヨガ教室や修学旅行のワークショップも行われ、島内外の交流の場となっています。また、同団体はアートイベントを通じて地域住民の楽しみを創出し、島外からの訪問者との交流を通じて関係人口を増やしています。

「教育の機会創出」も、関係人口の育成において重要な役割を担います。隠岐諸島・海士町の「島留学」のように、島外から学生を呼び込み、島での学びと地域との交流を深める取り組みは、将来的な定住人口や関係人口の創出につながる可能性を秘めています。沖縄県読谷村の「ちゅらむら読谷」は、修学旅行生向けの教育民泊事業を展開し、沖縄民家での生活体験を通じて心の交流と感動体験を提供しています。ここでは、サトウキビ農家との連携による農業体験や、沖縄の歴史文化を伝えるプログラムが実施され、地域住民の誇りにも繋がっています。

そして、「情報発信の工夫」も欠かせません。離島のリアルな暮らしや課題、そこで奮闘する人々の姿を魅力的に伝えるストーリーテリングは、人々の共感を呼び、深い関心を引き出します。西表島の自然保護・社会貢献活動「Us 4 IRIOMOTE」は、「エシカルな旅」をキーワードに、イリオモテヤマネコのロードキル防止支援やビーチクリーンイベントを行うほか 、西表島の歴史・文化を伝える映画『生生流転』を制作し、YouTubeで発信することで、観光客の行動や意識変革を目指しています。

まとめ

従来の観光客をいかにして関係人口へと深化させるか、その方法はとても重要です。関根他(2024)の研究では、現地活動への参加や現地に友人・知人がいることが、関係人口の地域愛着と当事者意識を高める要因となることが示されています。また、田原・敷田(2023)は、観光経験における「自己拡大」(自身の内面的な成長や発見)と「現地交流」(地域の人々との交流)が、地域への関与意識である「自己表現」と「利他心」を醸成し、結果として地域への積極的な関わり意向を高めることを明らかにしています。これは、観光客が単なる消費者としてではなく、地域と協働し、地域づくりに関わる活動に主体的に関わることで、地域の新たな担い手となり得る可能性を示唆しているといえます。

このような知見を踏まえると、「また来たい」と思わせるような魅力的な観光体験の提供だけでなく、地域住民との温かい交流の機会を設けることが、関係人口化を促す上で不可欠です。リピーター特典として、再訪を促す割引や特別な体験を提供することも有効かもしれません。地域のイベント情報や暮らしに役立つ情報を積極的に発信し、深い関心を持ってもらうための「情報提供の強化」も重要だと考えます。さらに、ボランティア募集や体験プログラムなど、気軽に地域と関われる機会を複数用意し、「関わりの『入り口』を作る」ことも、新たな関係人口を呼び込む上で有効です。

互助(助け合い)の精神にある人と人とのつながりは、離島が持つ魅力の一つです。現代人が求める「心の豊かさ」を提供し、その地域を愛する人たちがその地域のために、支え合っていくことで地域を持続可能にしていくかもしれません。

岩野コラム画像

【参考文献】

  • 1) 藤田美幸,小宮山智志(2025).アドベンチャーツーリズムによる地域愛着の醸成に関する研究:関係人口に着目して令和6年度報告.『新潟国際情報大学国際学部情報学部ビジネス情報学部紀要』,8.
  • 2) 石河正寛(2023).離島地域における訪問型関係人口の活動実態.『農村計画学会誌』,42(2),54-57.
  • 3) 岩永洋平(2020).観光リピート意向と関係人口はいかに形成されるかーリピート循環モデルによる検証.『地域活性研究』,12,15-24.
  • 4) 作野広和(2019).人口減少社会における関係人口の意義と可能性.『経済地理学年報』,65(1),10-28.
  • 5) 国土交通省(2021).ライフスタイルの多様化と関係人口に関する懇談会最終とりまとめ.
  • 6) 関根仁美,佐藤充基,武田裕之,加賀有津子(2024).地域との関係性による関係人口の分類と特徴-岐阜県飛騨市における行政施策に着目して-.『日本建築学会計画系論文集』,89(825),2125-2134.
  • 7) 田原洋樹,敷田麻実(2023).交流人口から関係人口への変容可能性の検討一観光経験による関与意識醸成と地域への継続的な関わり意向との関係―.『観光研究』,34(2),49-64.