増える一人旅の背景とこれから [コラムvol.337]

ニーズに応えて商品も増加

 一人旅に関する研究論文やコラムを執筆してきた縁で、これまでも新聞社等から取材を受ける機会があったが、ここへきて再び問い合わせが増えている。一人参加を積極的に歓迎するパッケージ商品が目立つようになってきたからだろう。一人で参加するなら追加料金、が常識だった海外パッケージツアーの世界も変化してきた。

 元祖「一人参加限定ツアー」の老舗は(株)クラブツーリズムで、20年前からの積極的な取り組みは不動の地位を築いている。2012年、(株)朝日旅行が「女性おひとりさま限定の旅 恋するヨーロッパ」を発表し、「ツアーグランプリ2014」(日本旅行業協会等主催)でシリーズ部門のグランプリを受賞した。2014年には(株)ジャルパックが「ヨーロッパひとり参加で楽しむ旅」を発表、以降、対象方面を拡大している。いずれも一人参加に限定しているところが特徴で、一人の気楽さと趣味の合う新しい仲間づくりが叶うことからシニア層の女性の参加率が高い。

 2015年には、ヨーロッパ需要の刺激策として(株)エヌオーイーが「ぷら旅シリーズ~どの日に行ってもお一人部屋追加無料19.8万円」を打ち出した。同商品はアルバニア、チェコ、ギリシャ、ヨルダンといった必ずしもメジャーでないデスティネーションを扱っており、ヨーロッパリピーターの一人旅を意識した企画となっている。

 『旅行年報2016』(公益財団法人日本交通公社、2016)によれば、同行者別に観光レクリエーション旅行の実施件数を見ると、一人旅のシェアは国内旅行で全体の15.6%、海外旅行で19.4%となっている。10年前の同調査結果はいずれも約6%程度であった。

 一人旅増加の背景は、既に述べてきたように(一人でも独りじゃない一人旅[コラムvol.198]) 、SNSのおかげで一人旅であっても「独り(ぼっち)」ではなくなったことや、特に女性にとって、一人で過ごす開放感や挑戦する達成感が日常にエネルギーを与えたり、新しい自分を発見するチャンスになっているからである。

 さらに俯瞰すれば旅に限らず「おひとりさま行動」は増加しており、それは多様な価値観から成る現代社会を生きぬく知恵として、個々人の精神的な自立が必須になっているからだと思う。

一人旅経験の共有が育てる文化

 自身の一人旅の体験を描いた写真家竹沢うるまの『The Songlines』(小学館、2015)を読んだ。当財団機関誌「観光文化」231号(2016年10月発行)で旅行作家の荒木左地男氏に
「旅心を誘う、旅の本レジェンド30選」
として執筆いただいた原稿の中で、荒木氏が「(沢木耕太郎の)『深夜特急』から30年。久々にズシリとくる旅の書き手の登場」として推した作品だ。著者はすでに複数の写真集を発表し注目されている新進気鋭の写真家で、本書は竹沢自身の1021日間、103ヶ国を巡る旅の記録である。

 読み始めると「なぜ写真ではなく文章で旅を振り返っているかというと、そこにはどうしても写真では捉えきることのできない世界があるような気がするからである」とある。時代はビジュアル表現全盛の方向へ流れているというのに。

 竹沢は、旅の時間の長さ、心揺さぶられた音楽、忘れていた記憶との再会や心の動きを記述し、「目に見える世界、目に見えない世界、その両方でこの世界は成り立っている」と実感を込めて書いている。

 読むうちに自分自身の学生時代の一人旅を思い出した。

 私が育ったのは山に囲まれている長野県で、山の向こうはどんな世界なのだろうと、18才で東京へ出てきた。外国語を専攻し、もっと遠くへ行ってみようと大学3年の時に初めての外国、ヨーロッパへ旅に出た。建物、乗り物、石畳、人々の表情、パンの固さ。気の向くまま約30日間、圧倒的な異文化に囲まれ毎日何を考え移動していたのかよく覚えていない。蘇るのは愉快な記憶というより悶々とした気分。行く先と時間と手段を決めて、探し、状況により途中で計画を変更する、その繰り返し。

 ただ、何かが身体に刻み込まれたという実感はあった。毎日日記を書いていた。極めて個人的な体験のキモは、書いたり、語ったり、表現して初めてカタチを現す。

 これからも一人の旅を楽しむ人は増えるだろう。

 カメラに写らない世界を拡げてくれるのは、例えばガイド業。2006年の「長崎さるく博」以降各地で盛んに取り組まれているまち歩きツアーでは、ガイドが住民の目線でまちの歴史や人の想いなど「目に見えない世界」を教えてくれる (歩いて分かった「まち歩き」の進化[コラムvol.184])

 それぞれの体験を表現しあう場、ツール、スキルアップの機会がもっとほしくなるかもしれない。古い旅行記や旅行案内書に注目するのもいい。

 人はなぜ旅をするのかといった旅の本質への関心も高まっていくのではないだろうか。