コロナ禍における博物館・美術館の動向[Vol.430]
「ゲート前の看板にて、事前予約制であること・入場時の注意等を案内している(東京国立博物館)」

新型コロナウイルスの感染拡大は、「三密」になりやすく感染リスクが高い屋内集客施設の運営に大きな影響を与えている。博物館・美術館も例外ではなく、東京・京都・奈良・九州の国立博物館4館等公立ミュージアムを始めとして、本年2月末頃より多くの博物館・美術館が休館し、企画展の延期・中止が相次いで発表された。その後、3ヶ月間に亘る長い休館期間を経て、6月頃より再び開館し始めた。しかし、感染症対策のため、これまでとは異なる形での開館を余儀なくされている。

博物館・美術館の新型コロナウイルス感染症対策

 博物館の基本機能として「資料収集・保存」「調査研究」「展示」「教育・普及」があるが、中でも「密」な環境になりやすい「展示」において、重点的な感染症対策が必要だと考えられる。

 公益財団法人日本博物館協会(以下、日博協)は、5月14日に『博物館における新型コロナウイルス感染拡大予防ガイドライン』を策定し、開館にあたって行うべき感染症対策を示した。同ガイドラインは、展示空間における換気、入場時のマスク着用・手指衛生等の一般的な対策のほか、対人距離確保のため必要に応じて入館制限を行うこと等を求めている。

 これを受け、一部の館では混雑時の入場制限や日時指定の完全事前予約制を実施している。十和田市現代美術館では、30分毎の入場人数を50人までとし、上限を超える場合は整理券を配布することで入館人数をコントロールしている。東京国立博物館では来館前の日時指定オンラインチケット購入を必須とした。岐阜県現代陶芸美術館では、来館にあたって事前の電話予約を求めるようになった(注1)。このような入館制限により、対人距離を保った観覧が可能になっている。

 しかし、入館制限を始めとする感染症対策のために、収益確保において難が生じている館もある。東京国立博物館では、入場者数の制限や感染症対策による人件費増加等を踏まえ、10月6日開始の特別展『桃山―天下人の100年』の一般入場料を2,400円とした(朝日新聞「感染対策で入場料「最高」に 東京国立博物館の特別展」2020/09/16より)。特別展の一般入場料は通常2,000円未満であった同館としては、異例の値上げとなった。

 さて、政府は9月11日付の内閣官房新型コロナウイルス感染症対策推進室長事務連絡にて、一律50%であったイベント開催時の収容率制限について、博物館・美術館も含む「大声での歓声、声援等がないことを前提としうるもの」に関しては、9月19日より「100%以内」へ緩和することを発表した。これを踏まえ日博協は、ガイドラインに基づく感染防止策が徹底されている場合は入館制限等を緩和することが可能との旨、前掲『博物館における新型コロナウイルス感染拡大予防ガイドライン』(9月18日改訂版)に記載した。完全事前予約制となっていた森美術館では、9月19日より予約なしでの来館も可能としている。ただし、同ガイドラインに定められた「密が発生しない程度の間隔」を確保できない館では、今後も入館制限が継続すると考えられる。

オンラインコンテンツの拡充

 コロナ禍は博物館・美術館の「展示」にマイナスの影響を与えているが、一方で「教育・普及」においては良い変化も生み出している。

 長期に亘る休館、及び企画展の延期・中止を経て、多くの館がオンラインにて収蔵品の紹介を行うようになった。


新型コロナウイルスによる休館に伴って公開された博物館のオンラインコンテンツ事例(一部)


 中でも特徴的な取組として、飛騨みやがわ考古民俗館のオンラインツアーが挙げられる。休館中であった5月3日、同館にてZoomを用いたオンラインツアー『おうちで飛騨の縄文めぐり』を開催したところ、通常の年間入館者数の約3分の2に相当する約200人が参加した。山間にありアクセスに悩む同館であったが、オンラインでの魅力発信に活路を見出している(朝日新聞「アクセス悪すぎる博物館 Zoomで気づいた新たな活路」2020/06/11より)。

 コロナ禍以前より、国立歴史民俗博物館『WEBギャラリー』や国立博物館『e國寶』等デジタルアーカイブの整備・公開は進められていたものの、数としてはまだ少なく、広く知られてはいなかった。コロナ禍を契機として、博物館・美術館のオンラインコンテンツは一気に拡充され、一般に認知されつつある。前掲『博物館における新型コロナウイルス感染拡大予防ガイドライン』には、利用制限を実施する際、来館しなくても博物館が提供可能な情報をオンラインで利用できるコンテンツの公開を推進することが望ましい旨記載されており、オンラインコンテンツの拡充は業界全体としても推進されている。その館の魅力がオンラインで地域を超えて発信され、個々の集客力が向上し、かつ人々の関心や知識が深まることで、博物館・美術館業界全体が活性化していくのではないか。

観光政策との関係

 日本国内には914館の登録博物館、372館の博物館相当施設、4,457館の博物館類似施設がある(2018年10月現在、文化庁「平成30年度社会教育調査報告書」注2)。近年、この膨大な資源に対し、観光においても大きな期待が寄せられている。2017年の観光庁『明日の日本を支える観光ビジョン』では文化財を中核とする観光拠点の整備が施策として掲げられ、その一つである博物館・美術館についても、ニーズに応じた夜間開放や多言語化等が進められている。2020年には、『文化観光推進法』に基づき、地域の博物館・美術館・寺社仏閣等を「文化観光拠点施設」として中核に据え、国内外からの誘客に向けた魅力向上・受け入れ体制整備を地域一体で推進する取組が支援されることとなった。

 こうした施策の中で、博物館・美術館の「展示」「教育・普及」機能が観光対象として磨き上げられ、その魅力が広く知られることで、「調査・研究」「収集・保存」といった他の基本機能の拡充にも繋がるのが理想ではないだろうか。

おわりに

 これまで述べてきたように、コロナ禍を契機として博物館・美術館の「展示」「教育・普及」のあり方が改めて模索されている。逆風が吹く一方で、博物館・美術館のあり方について再考する好機でもあるのではないか。行く末はまだ不透明だが、今後も動向を注視していきたい。

  • 注1:8月18日(火)より事前予約なしでの入館が可能になった。
  • 注2:ただし、ここで挙げた館の数には、一般的にイメージされるハコモノの「博物館・美術館」だけでなく、動物園・水族館・植物園等も含む。