「観光客が多すぎる」の正体 [コラムvol.544]

近年、多くの観光地で混雑やマナー問題、地域住民の生活環境への影響といった議論を耳にする機会が増えました。メディアや行政では、こうした現象を広く「オーバーツーリズム」と呼び、観光客数の増加が問題の根本原因として語られることが多くなっています。しかし、本当に問題なのは「人数」そのものなのでしょうか。

地域ごとに異なる「受け止め方」

例えば、同じ数の観光客が訪れていても、地域によって受け止め方は大きく異なります。筆者がこれまで視察したハワイやクライストチャーチ、バルセロナ、国内の離島地域においても、地域と観光客との距離感や住民の受け止め方は実にさまざまでした。観光客の来訪を歓迎する地域がある一方で、少ない人数であっても負担感や不満が生じる地域もあります。そこには、単純な人数だけでは説明できない何かが存在しているようです。

観光研究の分野では、このような問題を考える際に「社会的収容力(Social Carrying Capacity)」という概念が用いられます。「観光地はどこまで観光客を受け入れられるのか」という議論は、1960〜70年代から観光利用の増加に伴う自然環境の荒廃や混雑への危機感を背景に、自然公園やレクリエーション管理を中心に発展し、その後、観光研究においても半世紀以上にわたり知見が積み重ねられてきました。現在、「オーバーツーリズム」という言葉で改めて注目されている課題も、こうした収容力研究の蓄積から捉え直すことができます。

社会的収容力とは、地域住民や観光客が観光活動を受け入れられる限界のことです。当初は「何人まで受け入れられるか」という数量的な考え方が中心でしたが、近年では人々の感じ方や地域との関係性を含む概念として捉えられるようになっています。

限界を左右する「関係の質」

実際、観光客数が増えても必ずしも地域住民の不満が高まるとは限りません。観光による経済的な利益を実感している場合や、観光客との交流に肯定的な経験を持つ場合には、観光を前向きに受け止める傾向がみられます。一方で、生活空間への影響や文化的な摩擦を感じる場合には、人数がそれほど多くなくても観光への否定的な感情が生じることがあります。

つまり、観光地の限界は人数だけで決まるものではありません。地域が観光をどのように受け止め、観光客とどのような関係を築いているか――その「関係の質」によって、地域が受け入れられる許容度は、時に広く、時に狭く伸縮するものです。社会的収容力は、固定された上限人数ではなく、人々の認識や関係性によって変化するものだと考えます。

数の管理から「より良い関係づくり」へ

これから人口減少が進む日本では、多くの地域が交流人口や関係人口の拡大につながる観光振興を必要としています。しかし、単に観光客数の増加を目指すだけでは持続可能な観光にはつながらないでしょう。重要なのは、地域と観光客との関係をどのように育み、双方にとって心地よい状態をつくるかということだと考えます。

「観光客が多すぎる」という言葉の背景には、単なる混雑の問題だけではなく、人と人との関係の問題が隠れています。これからの観光地に求められるのは、観光客数を管理することだけではなく、地域と観光客とのより良い関係を築いていくことです。オーバーツーリズムという現象を考えることは、地域と観光の望ましい関係のあり方を、今一度問い直すことでもあるのではないでしょうか。