親子滞在型リゾートとして台湾リゾート・墾丁 [コラムvol.542]

「沖縄の方が安い」という議論の背景

台湾では数年前から、「墾丁に行くなら沖縄へ行った方が安い」といった議論が話題となっていました。かつて台湾を代表する南部リゾート・墾丁(Kenting)ですが、近年は、観光客減少や「割高」というイメージも語られるようになっています。

私は先日、私用で実際に墾丁を訪れました。現地を歩いてみると、日本でイメージしていた「若者向けビーチリゾート」とは少し異なる風景が見えてきました。

墾丁は台湾最南端の恒春半島に位置し、1984年に台湾初の国家公園として指定されました。国家公園統計では、2014年には年間観光客数が約837万人に達しましたが、その後は減少傾向が続いています 1)

背景には複数の要因があります。LCCの普及により、日本や東南アジアへの海外旅行が一般化したこと、若年層の嗜好が都市型・短期型観光へ変化したこと、さらに「墾丁は割高」というイメージがSNS上で定着したことなどが挙げられています2)。台湾北部住民にとって、沖縄は桃園空港から約1.5時間で到着できる一方、墾丁へは高雄からさらにバス等で約2時間の陸路移動を要するため、時間効率の面でも不利とされています。

一方、行政側は、従来統計ではホテル滞在型観光客やエコツアー参加者を十分に把握できていないと説明しています。携帯電話位置情報を活用した推計では、従来統計とは異なる来訪実態も示されています3)。墾丁では、以前のように「何人来たか」だけでは、観光地の実態を測りにくくなっている、という状況になっているようです。

「親子で学ぶリゾート」への変化

今回、私が墾丁を訪れた大きな目的の一つは、子ども向け環境教育コンテンツの体験でした。若者向けビーチリゾートのイメージが強かった墾丁ですが、実際に訪れてみると、親子向け滞在型リゾートとしての側面もかなり目立っていました。その象徴が、台湾最大級の水族館である国立海洋生物博物館(海生館)です。

特に人気なのが、閉館後の水族館に宿泊する「夜宿海生館」プログラムです4)。参加者は夜間の生態観察やバックヤード見学などを体験できます。

実際に参加してみると、サンゴをはじめとする生物の夜間行動を観察したり、海中トンネルの下に布団を敷き、ベルーガの泳ぐ水槽を眺めながら就寝したりする構成となっていました。単なるレジャーではなく、海洋環境への理解を深める教育プログラムとして非常に完成度が高いと感じました。日本でも類似企画はありますが、ここまで大規模な常設型の宿泊プログラムは比較的珍しい印象でした。

研究員コラム
「夜宿海生館」体験写真(著者撮影)

印象的だったのは、自然環境だけでなく、地域インフラも学習対象に組み込まれている点でした。近隣港湾ではサンゴ礁観察やエネルギー展示なども行われていました。グラスボートで港を出ると、穏やかなサンゴ礁の海の背後に2棟の原子炉建屋が見えました。サンゴ礁の海と原発建屋が同時に視界へ入る光景は、日本のリゾート地ではあまり見られないものでした。

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サンゴ礁と原発が隣接する景観写真(著者撮影)

宿泊施設側でも、ファミリー市場への対応が進んでいます。大型リゾート「悠活リゾート」は、キッズ設備や、二段ベッドにクライミングウォールとブランコがある部屋、大型プールを備え、台湾国内で高い人気を集めています。スタッフの一人は台北出身で、「墾丁は台湾の沖縄のような場所。こういう場所で働きたくて移住してきた」と話していました。

実際に同行した子どもも、夜の水族館やベルーガ観察に強い興味を示し、電力展示館でも展示を通じて学習を楽しんでいました。悠活リゾートについても「また泊まりたい」と繰り返していました。

平日に訪れた現地は比較的落ち着いた雰囲気で、来訪者の多くは台湾国内客であるように見受けられました。大量集客型リゾートとして知られてきた墾丁とは、利用実態が変わりつつあるようにも感じられました。

墾丁観光の裏側にある地域事情

現地を調べていくと、墾丁では観光だけでなく、土地利用やエネルギー政策など、複数の課題が重なっていることも分かってきました。

国家公園区域では長年、厳しい土地利用規制が続いてきました。一方、地域住民からは「生活改善が難しい」「地元住民に利益が還元されにくい」といった不満も存在していました。

そのため近年は、一定条件下で農地転換を認める土地利用規制の見直しも進められています5)。外部資本による大規模開発を抑えつつ、地元住民主体の小規模宿泊業などを支援する方向性です。地域主導型エコツーリズムも推進されています。梅花鹿観察ツアーなどでは、地域住民自身がガイドとなり、観光収益を地域へ還元する取り組みが進められています6)

墾丁では、観光とエネルギー政策も無関係ではありません。恒春半島に立地する台湾第3原子力発電所は2025年に運転を終了し、地域社会では雇用や地域経済への影響が議論されています7)。現地を歩いていると、観光だけでは語れない地域事情も背景にあるようでした。

墾丁は「衰退」しているのか

墾丁を巡っては、観光客減少ばかりが注目されがちです。しかし現地で感じたのは、単純な衰退ではなく、「観光地に何を求めるのか」という価値基準が変化しているという点でした。

行政や一部事業者は、沖縄や東南アジアとの価格競争ではなく、環境教育や長期滞在体験による差別化を図っています。実際、高級リゾート投資も徐々に進み、滞在型や体験型を重視する動きが強まっています8)

一方で、こうした転換の恩恵を受ける事業者はまだ限定的であり、従来型観光に依存する地域経済との間には、温度差もなお残っているように感じられました。こうした変化が地域全体にどのような影響を与えていくのかは、まだ見通しにくい部分もあります。

墾丁を見ていると、観光地に求められるもの自体が少し変わりつつあるようにも感じられました。実際に訪れてみると、かつて日本でイメージしていた「台湾のビーチリゾート」とは少し異なる姿が見えてきました。少なくとも現在の墾丁は、単なる「安い南国リゾート」として語れる場所ではなくなっているように感じられました。

【参考文献】

  1. 墾丁國家公園管理處「遊客統計資料」
  2. 台湾メディア・SNS上における「墾丁不如去沖縄」関連報道
  3. 墾丁國家公園管理處による通信ビッグデータ活用説明資料
  4. 國立海洋生物博物館「夜宿海生館」公式資料
  5. 墾丁國家公園第五次通盤檢討関連資料
  6. 墾丁國家公園管理處 エコツーリズム関連資料
  7. 台湾電力公司・核三廠除役関連資料
  8. 台湾観光業界報道(墾丁リゾート投資・ホテル開発関連)