日・台・韓・マレーシアのホームスティ・ホテル(民宿)事情 [コラムvol.16]

2008.01.25

研究調査部 中野文彦

筆者は2007年7月に約3週間、ハワイ大学のTIM(Travel Industry Management)スクール「Executive Development Institute for Tourism (EDIT)」に参加しました。これは日本語に訳せば「観光担当の行政官育成のための専門講座」であり、主にアジア・太平洋各国から観光担当の行政官や政府観光局の中堅クラスが参加する短期研修講座です。ここではその講義(ワークショップ)の一環として取り組んだ「日・台・韓・マレーシアのホームスティ・ホテル(民宿)事情」について紹介したいと思います。

■「日・台・韓・マレーシア」でホームスティ・ホテル(民宿)を考える

 冒頭に紹介した「Executive Development Institute for Tourism (EDIT)」では、いわゆる座学と演習的なグループワークを組み合わせた講義が一般的です。(講師による一通りの講義後、おもむろに「じゃぁ、次回までにこの課題について考えを整理し、プレゼンテーションしてくださいね」というパターンもありました・・・)
 「日・台・韓・マレーシアのホームスティ・ホテル(民宿)事情」に取り組むことになったのは「Managing Partnerships -Stakeholder Relations for Destinations-」という講義でした。具体的には、観光地を取り巻く様々な「Stakeholder(利害関係者)」がパートナーシップを取り、個々ではなく、ともに成長できる観光振興策の必要性を、ハワイ州政府観光局の施策を例に解説する、といった内容でした。そして、課題として、
 ・グループで1つのテーマを決めて、それに関する「Stakeholder(利害関係者)」をあげる。
 ・その「Stakeholder(利害関係者)」にとって、なにが重要なのか(どのような利害があるのか)を整理する。・
 ・「Stakeholder(利害関係者)」たちが“その気になる”具体的な施策を提案する。
というグループワークとなり、マレーシア(政府観光局職員)、韓国(観光公社の広報担当)、台湾(大学教授/フードプロデューサー)、日本(私/観光・地域振興研究者)という4名で「ホームスティ・ホテル(日本でいう民宿です)」というテーマに取り組むことになりました。

■「日・台・韓・マレーシア」それぞれのホームスティ・ホテル(民宿)事情

 ホームスティ・ホテル(民宿)に関する各国の取組は、それぞれの観光事情によって特色があります。例えば、マレーシアでは、125村が登録され、農村部の生活、自然の中でのアクティビティなどの様々なプログラムがオペレータによってコーディネートされています。1週間程度の滞在が普通で、顧客は富裕層、外国人。台湾では中規模(100名程度)の施設が普通で、客室・料理も本格的で、日本の大型高級ペンションといった趣です。彼等の注目している顧客は「企業研修」。台湾ではこうした宿泊施設を利用した企業研修が盛んになっているとのことで、アクティビティや体験プログラムを提供する施設が人気のようです。韓国では、施設自体は日本と似通っていますが、部屋の提供のみで食事はなし。市街地や観光地に隣接しており外食で困ることはあまりないようです。
 注)私のつたない英語力を基にしていますので実際とは異なる場合があるかもしれません。

■ホームスティ・ホテル(民宿)を促進するために

 それぞれ特色のあるホームスティ・ホテル(民宿)ですが、それぞれに共通する「Stakeholder(利害関係者)」として、「行政」「来訪者」「地域コミュニティ」「地域の観光業界・観光協会」といった4点をあげました。
 具体的には、ホームスティ・ホテル(民宿)に取り組むことによって、「行政」には税収、地域イメージの向上(今風に言えば地域ブランド化)につながる。「来訪者」は、低価格で、伝統的な文化・食事や地域の温かさ、自然の中でのリフレッシュ・アクティビティが得られる。「地域コミュニティ」にとっては職場(ビジネスのチャンス)、地域の開発促進(インフラ整備)、地域の文化・自然を維持する、誇りを持つことにつながる。「地域の観光業界・観光協会」にとっては、地域のプロモーションの柱となりえる、あるいは政府・地方自治体などより広いレベルのプロモーションとの連携や補助施策等の支援を受けるといった中央とのチャンネルとなり得る(特に国が積極的にホームスティ・ホテルに取り組むマレーシアや台湾の場合は顕著のようです)。といった点です。
 こうした指摘は私が地域の観光振興計画等で示してきた「観光の意義」や「観光振興の目的」と共通しており、他の国にとってもこうした考え方は普遍的なものと言えそうです。

 さて、観光に関わる様々な主体間の利益を再整理することで、取るべき方向性がある程度見えてきたところで、各主体の利益を踏まえた具体策として、我々のチームは次のような施策を提示しました。
 ・インフラの再整備(Upgrade infrastructure)
 ・宿泊施設等のハード整備に対する一定期間の減税措置や低利率の融資(Incentive by government tax reduction 、Low interest loan by bank)
 ・宿泊施設を運営する上での技術の習得支援、特に財務(Free training program to host,ex: housekeeping, cooking skills, finance)
 ・地域文化を核としたイベントやプログラム等の開発(Create event, festival regarding local culture.
 Create various program regarding local culture.)
 ・政府・行政によるプロモーション支援(Government website promotion)
・企業研修等に対する支援(Cooperate with MICE: Incentive travel)

 特にマレーシアや台湾などは外国人や富裕層等の利用も見据えて宿泊施設や景観等を含めた周辺環境の計画的なアップグレードに力を入れています。またこうした整備を支援するうえで「税制上の優遇措置」が欠かせないことを強調していました。さらに、宿泊施設を運営の技術習得、特に財務知識の習得支援が最も重要という台湾の方からの指摘はまったくその通りだと思います。
 こうした提案の根底にあるものは、「経営」という視点ではないでしょうか。個々の施設の経営努力を低率融資や技術習得等の形で支援するとともに、地域としてのアップグレードやプロモーション活動の重要性が強調されています。どのように「集客するか」というよりも、どのように「経営するか」と考えれば、投資・融資を促進するためには?利益率を高めるためには?質的向上を高めるためにはプロモーションは?などの取組は至極もっともな視点と言えます。

 日本では、「民宿」という宿泊施設は比較的早い時期から急速に広まり、こうした中小の宿泊施設が中心となる地域も少なくありません。しかし個々の施設は中小経営だけに厳しく、インフラの再整備やスキルアップ、プロモーション等に取り組むことがなかなかできない。そうなると地域全体としても厳しい状況になっていく、という悪循環に陥ってしまう地域も少なくありません。
 わが国でも「民宿」に代表される中小の宿泊施設や地域に対する支援は様々な形で実施されておりますが、右肩上がりで来訪者が増える時代ではなくなった今の時代にとって、上記のような「経営的視点」が非常に重要になる、観光振興における視点の転換期にあるのではないでしょうか。

台湾ホームスティホテル
台湾のホームスティ・ホテル。伝統的な家屋や庭を活かしています。
マレーシア食事プログラム
マレーシアの伝統的な食事体験プログラム。
日本でもこうしたプログラムは多いですね。

 

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