変化に対応する地域と観光協会の役割 [コラムvol.463]

2020年1月に新型コロナウイルスの流行がはじまり、早くも2年が経過しました。観光振興に取り組む地域にとっても、長引くコロナ禍によって様々な変革が求められた2年だったのではないかと思います。

私たちは、この2年間、各地の自治体や観光協会の方々のコロナ禍、あるいはポストコロナに向けた取り組みに注目してきました。未だコロナ禍から抜けていない現状では、「何が正解なのか」ということはわかりませんが、コロナ禍という未曾有の危機の中で、地域でどのような動きがあるのか、誰が動いているのかを把握することは、今後の観光地域づくりに繋がる有効な知見と考えています。

コロナ禍で動いたのは、自治体―観光協会―民間事業者の連携体制

こうした観察の中、過去に取り上げた例も含めて(※)地域での取り組みについて整理すると、地域の宿泊施設や飲食店に対するコロナ対策支援にはじまり、地域の観光・飲食の情報発信や割引チケットの配布、飲食店のテイクアウトやデリバリーサービス、安全・安心に配慮した宿泊やイベント開催、オンラインでの物販・市やお祭り、オンラインツアーの実施など、いくつもの新しい動きが見られました。

新しい動きを行ったいくつかの地域にヒアリングをしてみると、危機に対応した取り組みをスピーディーに実現できた背景には、1組織ではなく、地域の複数の組織や人の連携があったことが見えてきました。例えば、首長の掛け声のもと、民間事業者がアイディアを出し、観光協会が企画化し、自治体が予算を確保する。そして地域が足並みを揃えて実施するなど、地域の中でいくつもの組織・人が、主体的に、かつ連携して実現した様子が伺えます。

変化に対するにはリーダーシップ重視。変化を継続するにはマネジメント重視

このように、コロナ禍という予見できない事態に突入した状況において、いくつかの地域では、自治体―観光協会―民間事業者がこれまでになくスピーディーに、組織間、個人間が連携を深めて動けるように変化した事例が見られます。こうした変化ができた地域と、そうでない地域との違いはどこにあるのか。また、こうした変化は緊急時にのみ求められる一時的なものなのか、あるいは、ポストコロナという先の見えない時代にも継続すべきものなのでしょうか?

下図は、変化に対するリーダーシップとマネジメントの役割と効果について、近年の著名な経営学者の1人、ジョン・P・コッターの著書から作成したものです。この図をもとにコロナ前とコロナ禍を経た動きについて考えてみましょう。

この整理を元に、各地域をプロットすると、多くの地域は、コロナ前あるいは現在も、右下(もしくは左下)の、安定・衰退傾向の組織に位置しているのが現状でしょう。一方、コロナ禍という急激な危機(変化)に際して様々な動きが見られた地域は、左上の位置、つまり地域の人、組織が危機を乗り越えるためにリーダーシップを発揮してきたと考えることができます。

すなわち、危機に対して動けたか、変化できたかというのは、その変化を誘導しうるリーダーシップが組織的に生まれるか否かにかかっていると整理できます。しかし、リーダーシップのみに牽引される変化は「短期的」なものであり、継続的に事態に対応することは難しい。変化を持続的に起こし成長につなげていく(右上の位置に移行する)には、生じた変化を計画に落とし込み、予算を得て、継続的に実行する体制を整える、といったマネジメント面の強化が必要と考えることができます。

図 変化に対するリーダーシップとマネジメントの役割と効果

変化に対する観光協会の役割を考える

観光協会(もしくはDMO)は、自治体やその他の地域の組織、民間事業者と役割を分担し、連携しながら「地域全体に利益を生み出す」ことが主のミッションの組織です(自主予算比率が低い場合が多いため、自治体や民間事業者のように単独で動くことは得意ではありません)。こうしたミッションに取り組む組織は、リーダーシップとマネジメントの双方にリーチし、その取り組みを支えていくことが求められます。

例えば、コロナ禍という危機、変化に際して、地域のリーダーシップは首長や民間の経営者が主導するケースが多いでしょう。また、マネジメントについては予算を持つ自治体が計画し、体制を整えるケースが多いかと思います。そうした中、観光協会は、地域の中でリーダーシップを取る主体の声をまとめ、企画化し、自治体に提案すること。逆に、自治体のアイディアを民間事業者に提案し、実現に向けて足並みを揃える、といった役割を果たすことが期待されます。

補助的とは言え、リーダーシップとマネジメントの双方の役割を果たすということは、双方への深い理解が求められます。リーダーシップだけ、マネジメントだけにしか意識が向かない、あるいは双方ともに意識を持たない観光協会では、むしろ危機に際して、変化に向けて動きたい地域の弊害になりかねません。

観光協会自体が、コロナ禍にあって地域に何が必要か、それをどのような連携のもとで実現できるのか。常に主体性を持ちながら考え、率先して動くことが求められるのではないでしょうか?

まとめ

ポストコロナという先が見えない時代に対するとき、主体性を持ちつつ、リーダーシップとマネジメントの意識を持ちながら地域の円滑なコミュニケーションを図る役割を、誰かが担うことが重要になります。観光協会がこうした役割を果たしていくことで、皆の知恵を引き出し、地域の皆で前へ前へと行動し、現在の危機を乗り越えていくことを期待し、そうした地域の動きを今後も注目していきたいと思います。

※参考文献