コーディネーターの拘り、沖縄ならではの観光バリアフリーセミナーを [コラムvol.37]

2008.06.27

研究調査部 吉澤清良
研究員コラム

 前回、私が担当したコラムvol.20「観光地のバリアフリー」では、観光バリアフリー化に挑む沖縄県の取り組み(「沖縄県観光バリアフリー化推進事業*1」)について、その概要をご紹介いたしました。
今回は、事務局として当財団が同事業を推進する上でも、特に重視していた「意識啓発・人材育成事業」(観光バリアフリーセミナーの開催)について、詳しくご紹介したいと思います。

■ハードとソフトは車の両輪、"意識啓発・人材育成事業"の積極的展開

 日本では「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律」(2006年12月施行)により、バリアフリー化の取り組みは関連法規等の面では一定の成果をみたと言われています。確かに法整備の進展により公共空間をはじめとして、特にハード面の整備は将来的によくなっていくことでしょう。
 しかし、ハードとソフトは"車の両輪"のようなものであり、ハードを最大限有効に活用する、あるいは補完するためにも、情報提供や人的サポートといったソフト面の対応を忘れてはなりません。特に観光産業の場合には、お客様のニーズに配慮する従業員が常におり、ハード面が多少未整備であっても、従業員によるおもてなしや心配りによって、高齢者や障害のある方、妊婦や小さな子供連れなど、旅行に配慮を必要とされている方々はもちろん、来訪される全てのお客様をあたたかく迎えることが十分に可能なのですから、なおさらのことです。
 こうした状況に鑑みて、沖縄県観光バリアフリー化推進事業では、観光産業をはじめ建設、福祉、教育関係者等を対象に、観光バリアフリー化に対する意識啓発や人材育成を目的とした「観光バリアフリーセミナー」を、積極的に開催していったのです。

■コーディネーターとしての拘り、"セミナー講師は沖縄県人(うちなんちゅう)に!"

 観光バリアフリーセミナーを開催するにあたり、私どもはあることに拘りました。それは"セミナーの講師は必ず沖縄県内の方にお願いする"ということです。
 事務局とすれば、県外の大都市から専門家をお招きすれば、おそらくセミナー自体は楽に開催できたことでしょう。しかし、本土から遠く離れた沖縄県ですから、そうそう外部の専門家に頼ってばかりはいられません。
 私どもは、例えば、"観光産業の現場で働く従業員が、高齢者や障害のあるお客様の受け入れに際して何か困った時に、身近に相談できる人がいる"、そんな環境(ネットワーク)を沖縄県に創り出したいと考えたのです。ですから、私どもも、講師も、受講者も、"皆がセミナーを通して一緒に成長していきたい"との思いに立ち、試行錯誤を重ねながら、手作り感いっぱいのセミナーを開催していくことになりました。

 観光バリアフリーセミナーは、バリアフリーネットワーク会議や脳文庫の講師陣を中心に、障害のある当事者や受講者等のご意見を参考にセミナー内容を見直し、改良を行うとともに、関係機関等への協力依頼、関係者でのシュミレーション等を重ねて、事業の最終年度となる2006年度には、"沖縄ならではのセミナー"として、格段に進化を遂げるまでになったのです。

● 接遇セミナー概要(講師:NPO法人脳文庫)
 ・ 高齢者や障害のあるお客様が来店された際、安心してサービスを受けていただけるよう、心(ノ
   ーマライゼーション、ホスピタリティマインド)と介助接遇技術(車いす、目、耳、身体ご不
   自由な方の介助)の両面を、体験的に学ぶ。
 ・ 障害への理解をより高め、より効果的で充実したセミナーとする"ために、車いす使用者・
   視覚障害者・聴覚障害者を「ピュアインストラクター」として起用する。
 ・ 高齢者や障害のあるお客様を積極的に受け入れている宿泊施設・観光施設のスタッフを講師と
   して起用する。
● ハード整備セミナー概要(講師:NPO法人バリアフリーネットワーク会議)
 ・ 大きく2部構成をとり、第一部では、施設設計を行う段階での留意点のみならず、「簡易な設備・
   器具による、創意工夫でバリアフリー」と題して、経済的かつ実用的な既存施設のバリアフリ
   ー化を具体的な事例をもとに学ぶ。また、"災害時、ホテル等に宿泊されている障害のある方々
   をどのように避難させるか"(逃げるバリアフリー)を体験的に学習する。
 ・ 第二部「海浜地域におけるバリアフリーと遊び方」では、実際のビーチを会場に、"沖縄最大の
   魅力でありながら、障害のある方には最大のバリアでもある海を、安全に楽しんでいただくた
   めの方法"を学ぶ。

■試行錯誤を重ねたセミナーが、沖縄バリアフリーツアーセンターの活動の原点

 観光バリアフリーセミナーの開催により、観光産業の現場サイド、従業員レベルでの意識や接遇技術が高まってきたことに加えて、現場サイドでの横の連携が強まり、さらには福祉団体や教育機関等との連携が強化されていくことになりました。
 当時、観光バリアフリーセミナーの評価は高く、観光事業者からばかりではなく、教育機関からも問い合わせやセミナー開催の依頼が相次いだことを覚えています。

● バリアフリーセミナー等、開催例
 ・ 八重山商工高等学校での「バリアフリーセミナー」の開催(2006年10月26日)
 ・ 泡瀬養護学校での「逃げるバリアフリーセミナー」の開催(2006年11月5日) 等

 沖縄県では、こうした地道な取り組みが、結果的に、観光バリアフリー化の実現に向けて不可欠となる人的な受入体制(組織と人材)づくりを進める大きなきっかけになっています。2007年11月に開設された「沖縄バリアフリーツアーセンター」や、同センターが派遣する「観光ケアサポーター(観光で訪れた高齢者や障害者からの要望に応えてサポートするスタッフ)」の活動の原点はここにあったと言っても過言ではありません。

 きっとどこか遠回りをしているように思われる方もいらっしゃることでしょう。しかし、観光バリアフリーセミナーのような意識啓発・人材育成事業は、何を以て成果とするか判断の難しい面があります。だからこそ、時には"急がば回れ"といった視点も大切なのではないかと思うのです。

*1:「誰もが楽しめる、やさしい観光地」を目標に、観光のバリアフリー化によるさらに"質の高い
   沖縄観光の実現"と、それに伴う"県内経済の活性化、県民生活の安定、県民の生活環境の向
   上"を目的として、2004年度から3カ年間にわたって実施された。具体的な事業としては、「意
   識啓発・人材育成事業」(観光バリアフリーセミナーの開催、観光バリアフリー接遇ハンドブッ
   クの発行等)、「情報提供事業」(バリアフリー観光情報サイトの開設、車いすトイレ・マップの
   発行等)などがある。

喜久里講師 親川講師
やさしい語り口で受講者を引き込む
喜久里講師(接遇セミナー担当)
バリアフリー社会の実現に向けて沖縄中を
飛び回る親川講師(ハード整備セミナー担当)
障害のある当事者が講師を務める カヌーへの移乗を学ぶ
障害のある当事者が講師を務める カヌーへの移乗を学ぶ

 

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