コロナ禍に発行した機関誌『観光文化』を振り返る [コラムvol.462]

2022年1月。新型コロナウイルス下で迎えた2回目の正月は、幸いにも全国的に感染状況が落ち着いていることもあって、久しぶりの帰省や旅行をする多くの人で、各地が賑わった。今(1/11)はオミクロン株の感染拡大が懸念されるところだが、この正月は旅行・観光を取り巻く環境に確かに明るい兆しが見えたひと時となった。

これまで、当財団ではコロナ関連の様々な研究を行い、その結果を積極的に発信してきているが、そうした研究結果から見えてきたことは、コロナ禍によって旅行市場や観光地づくりにおける変化が進むということ。

本コラムでは、コロナ関連研究の一環として機関誌『観光文化』で取り上げた特集テーマを振り返ることとしたい。

実践的学術研究機関として、「現場」を強く意識した編集方針で臨む

2019年末、中国・武漢市で報告された原因不明の肺炎、「新型コロナウイルス感染症」は、瞬く間に世界中に拡散していった。発生から2年以上が経ったが、この間、日本では4回もの緊急事態宣言が発令され、日本の経済・社会構造、国民生活は大きな変化を余儀なくされている。ここ30年程度の旅行市場をみても、バブル経済の崩壊(1991~1993年)やリーマンショック(2008年)などの経済危機、米国同時多発テロ(2001年)や東日本大震災(2011年)などの事件・災害が旅行市場を脅かしてきたが、全世界で蔓延した新型コロナウイルスほど甚大な影響をもたらした災いは他にない。

コロナ禍、これまで当財団では、機関誌『観光文化』を6回(246号(2020年8月)~251号(2021年11月))発行してきた。246号の企画に着手した2020年4月、全国的にステイホームが叫ばれる中にあって、『観光文化』で何を発信すべきか、何か発信できるのかに悩み、何度も議論を重ね、企画を練っていった。結果として、「ストック性の強い本誌の特徴を活かし、地域の現場と丁寧に向き合いながら、その時々の現状と課題を押さえておく」という編集方針のもと、これ以降6号続けて、「新型コロナウイルス」を特集テーマとして直接・間接的に取り上げていくことになる。

~持続可能な観光の本質/コロナ禍を生き抜く視点/新たな市場の展望

246号(2020年8月)から248号(2021年2月発行)の3号では、「コロナ禍での現状と課題」を真正面から取り上げた。

246号(「現場で語る、持続可能な観光の本質-コロナ禍での現状と課題」)では、第一線で活躍されている我が国を代表する観光事業者から、こうした厳しい時期に考えたことや学んだことなどについて伺い議論し、現場の声から持続可能な観光の本質について考えた。

247号(「現場に学ぶ、コロナ禍を生き抜く視点~コロナ禍での現状と課題Part2~」)では、コロナ禍における観光の実態、特に夏季を中心とした現場(地域)の実情、課題などを、当事者(行政、DMO、民間事業者等)に語っていただき、コロナ禍を生き抜くにあたり大切にしたい視点について探究を行った。

また、248号(「現場に問う、新たな市場の展望~コロナ禍での現状と課題Part3~」)では、コロナ禍で注目を集めた3密を回避しながら楽しむ旅行スタイルやレジャー、オンラインツアーやワーケーション、ホテルステイなどを取り上げ、その現状と課題、今後の展望などを、地域や関係事業者の方々への取材を踏まえてまとめた。

~東日本大震災から10年/観光振興に貢献する地方公立大学/国際スポーツイベントと地域振興

249号(2021年5月)から251号(2021年11月)の3号では、特集テーマとして“コロナ”を前面には出さなかったものの、各号でコロナ禍における現状や課題についてふれている。

249号(「東日本大震災から10年~被災地の観光復興の今、伝えたい想い~」)では、東日本大震災から10年の節目に、現場の声にあらためて耳を傾け、震災からの復旧・復興における観光や交流の実情、観光振興が果たした役割の概括を試みた。

250号(「観光振興に貢献する地方公立大学~地域における現状と課題、そして期待~」)では、地方創生や観光まちづくりにおいて、地域への貢献が特に期待されている公立大学を取り上げて、公立大学を取り巻く現状と課題、そして期待を、公立大学10校の取組事例をもとに整理した。

そして、最新号の251号(「国際スポーツイベントと地域振興」)では、長い年月をかけて地域のスポーツ振興や国際交流事業に取り組んできた5つの地域に、取り組みの歴史、現状と課題、今後の展開を、コロナ禍で開催された東京オリンピック・パラリンピックにどのように向き合ってきたのかなども含めてご寄稿いただき、「スポーツイベントと地域振興」の要諦を考えた。

246号の企画段階(2020年4月)には発行の中止も一時頭をよぎったが、実践的学術研究機関を目指す当財団は「現場」を強く意識し、この厳しい状況下だからこそ、現場で“語り”、現場に“学び”、現場に“問う”て、各地で奮闘する方々に少しでもお役に立つものを発信したいとの想いで、発行を続けてきた。

『観光文化252号』~観光文化創造に求められる研究領域

冒頭に、コロナ禍によって旅行市場や観光地づくりにおける変化が進むと書いた。こうしたなか、目下、当財団では次号(252号、2022年2月発行予定)の制作に鋭意取り組んでいるところである。特集のテーマは、「(仮)今後の観光文化創造に求められる研究領域~コロナ禍を経て取り組む“新たなチャレンジ”」。

当財団にとって、今年度は2026年度までを計画期間とする新たな経営計画「Challenge2026~柔軟かつ果敢に挑戦する研究者集団を目指して~」の初年度にあたる。当財団には様々な価値観、問題意識を持った研究員が所属しているが、今期からは特に自主研究において、社会的・国際的に顕在化・共有されつつある課題や技術、ムーブメント等(社会的な環境変化)が、我が国の「観光の(少し先の)未来」にどのような影響を及ぼすのか、またそれらにどのように対応すべきかなどを意識して一部の研究テーマを設定し、研究活動に取り組んでいる。

252号では、当財団の研究員が、どのような課題意識を持ち、どのような研究フレームで研究活動に取り組み、現時点で何が見えてきたのか、また今後の展開などについて紹介していくことで、観光関係者が今後の観光振興を考える一助となればと考えている。

2月発行予定。どうぞご期待ください。

機関誌『観光文化』について

※『観光文化』の創刊は1976年。2021年11月で通巻251冊を発行。創刊以来、その時々の観光のトピックを特集に選び、その分野に造詣の深い方々にご執筆いただく形でまとめてきたが、創業100周年にあたる2012年の10月(215号)から、機関誌としての役割をより明確にすべく誌面を刷新。当財団の調査研究・事業活動を基に特集テーマを設定し、研究員が執筆にあたるとともに、外部の専門家の方々のご寄稿、ご協力をいただきながら、観光文化発展のための論考、提言の場となるような誌面づくりを展開。季刊の定期刊行物として毎号約4,000部を発行し、国(省庁)、全国の自治体、主要な大学等の研究機関、観光事業者、大学図書館などに寄贈。また発刊と同時に、全ページを財団のホームページにてPDFで公開。