国内観光七不思議-日本の観光のなぜ?を考える [コラムvol.61]

2008.12.12

研究調査部長 梅川智也
研究員コラム

<はじめに>

 日本の観光、観光地の現場には不思議なことや共通する課題が少なくありません。その典型は各種アンケート調査で明らかな日本人の温泉好き・・、にもかかわらず温泉地の現場は閑古鳥・・といったケースなどではないでしょうか。日本の観光の七不思議を考えてみます。

<七不思議とは・・?>

 特に「七不思議」の定説があるわけではありませんが、日頃観光地でよく言われていながら、なかなか変わらないこと、半ば諦められていることなど不思議に思うことがいくつかあることに気が付きます。それらを独断と偏見で私なりに整理してみたのが以下の7つです。ただ、観光地(ミクロ)の問題と日本の観光(マクロ)の問題は密接に関係しており、必ずしも前者だけ、後者だけでは解決できないことが多々あることも見えてきます。

①なぜ、日帰り型になるのか?

 「高速交通機関が発達したため、宿泊型から日帰り型になってしまった」・・・よく聞かれるフレーズですが、本当にそうでしょうか。もし、そうだとすると、関東圏からの来訪者が7割を占める東京ディズニーリゾートにあれだけのホテルが成立するはずがありません。日帰りできても宿泊しているのです。要は泊まりたい魅力ある宿泊施設があるか、宿泊してまで滞在する魅力が観光地にあるか・・ということではないでしょうか。無論、日本全体(マクロ)でみれば、言うまでもなく宿泊需要のパイは拡大していないことも残念ながら事実です。

②なぜ、滞在化は進まないのか?

 「滞在時間を少しでも増やして消費を拡大させます」・・・理屈としてはまさにその通り、しかし、観光地での滞在化はなかなか進みません。日本人は滞在型観光には向いていないのでは・・と諦めムードも漂います。しかしながら、個々の施設はともあれ、観光地全体の魅力を総体的に高めようという取り組みが圧倒的に遅れていたことは否定のしようがありません。
 変化に乏しい単調で広大な国土を持つ海外の国と比べて、変化に富み繊細な国土を持つ日本・・一カ所に留まるよりも移動してその変化を楽しむ観光に向いているのかも知れません。つまり、日本人の"時間の過ごし方"というマクロな問題とも関係します。

③なぜ、平準化は進まないのか?

 「サービス産業の中でも特に観光産業の生産性が低過ぎる」・・・とは、有識者からよく言われるフレーズです。毎日、生産ラインが確立され、計画生産の出来る製造業と異なり、観光産業には曜日変動、季節変動、天候による変動など極めて需要が安定しない、さらに在庫が効かないという特性を有しています。つまりオンとオフの差が激しく、平準化が指摘されても自ずと限界がありことは事実です。とはいえ、まだ努力が足りない部分もあり、さらなる知恵と工夫が必要だと思われます。
 これも休暇制度というマクロな問題、つまり休みが取りやすい環境づくりと微妙に関連するものと言えます。

④なぜ、観光地化が進むのか?

 「この観光地も昔に比べて俗っぽくなったねぇ」・・・これは観光客からよく聞く話です。つまり、素朴で人情が溢れていた以前来たときに比べて、土産物屋などの観光産業が集積し、のぼりや旗が立ち並び、金儲け主義が随所に見られることを嘆いているわけです。逆に何も無ければ「休むところもない」、「お土産すら置いていなかった」と言われることもあり、観光客に不快な思いをさせない"品格"のある観光地化というバランスが問題となります。
 「やらずぼったくり」はさすがに少なくなったと思いますが、金儲け主義、極端な商業主義を慎しみ、質にこだわる地域ビジネスとしての発展と展開が期待されます。

⑤なぜ、温泉好きが多いのに、温泉地に元気がないのか?

 まさにマクロとミクロのギャップであると言えるかも知れません。全ての温泉地に元気がないわけではなく、あるところとないところの格差が拡大している、二極分化しているとも言えます。宿泊需要全体が縮小しているため、より顕著に表れていることも事実です。一言で言えば、消費者の高度なニーズと温泉地が提供するサービス全体とのミスマッチが最大の要因ではないでしょうか。
 個々の宿泊施設が個別に利益最大化を追求してきたことが、温泉地全体の魅力の創出・増大に繋がらなかったと言うことであり、温泉そのものの価値を見直すと同時に温泉地全体としての魅力づくり(まちづくり)が今後ますます問われるものと思われます。

⑥なぜ、地産地消は進まないのか?

 海辺にありながら、魚は築地から仕入れている、山の中にありながら、当然のようにお刺身が出てくる・・それを不思議と思わない"感覚"に声を失うことがあります。同じものを毎日揃えることの難しさ、あるいは進み過ぎた日本の流通システム、さらには形にこだわる消費者の意識など地産地消が出来ない言い訳が続きます。第一次産業と観光産業との連携の悪さを今こそ打破する必要があります。
 イタリアの「30Km経済圏」の話を以前聞いたことがあります。「あるホテルで出される料理は、全てここから30Km圏内で採れたものばかり、唯一ワインだけはフランス産・・、それはお客さんが求めるから・・」。よそから来る方々に対する"最低限のマナー(おもてなしの心)"と心得ているとの話は感動的でさえあります。

⑦なぜ、マーケティング意識が低いのか?

 「所詮、観光は水商売・・、統計やデータなど必要ない」・・・これも観光地のいわば長老によく言われた言葉です。未だにデータは毎日の頭数と売上だけ、顧客データは"勘と経験"でよい・・・。長く供給側にいると、需要側であるお客さんのニーズや嗜好に疎くなるのでしょうか。これでは産業として成り立ちません。サービス産業の中でも特に観光産業は、ホスピタリティ産業と言われるように、複雑かつ繊細な総合産業です。
 黙っていても客が来る時代から、観光地自体が選別される時代へ、観光地で観光に従事する方々の意識改革が求められます。そのためには一般の住民の皆さんにもまちづくりに参加してもらい、"消費者感覚"を取り戻すことが極めて大切ではないでしょうか。

<観光イノベーションは続く>

 実は「七不思議」などと呑気なことを言っている余裕はないというのが今の日本の観光と観光地の現実です。これからさらに厳しさは増していくでしょう。マクロとミクロ、観光庁と観光地・・・。我々はその間に入って、日本の観光地の発展に寄与して参りたいと思います。

 

この研究員のその他のコラム

 

最新研究員コラム

観光研究コラム一覧