熊本地震被災地の今 [コラムvol.365]

2018.03.12

観光政策研究部 主任研究員 牧野博明

はじめに ~自然災害が観光に及ぼす影響の把握~

 2018年3月11日(日)は、東日本大震災発生からちょうど7年目にあたる日でした。復旧工事や復興事業は継続的に行われていますが、復興庁の発表によると、現在も約7万3千人が避難されているとのことです。避難者の方の一刻も早い帰還の実現が望まれます。

 東日本大震災と同様に震度7を記録した熊本地震も、2018年4月に3年目を迎えます。こちらも完全復旧に至るまでには道のり遠く、現在も復旧工事が急ピッチで進められています。

 いずれの地震も、生活面だけでなく、観光面にも大きな影響を与えています(一考察を研究員コラムvol.302にまとめています)。この影響を科学的に分析・把握することを目的に、当財団では熊本地震発生以降、九州産業大学と共同で、熊本地震が観光に与えた影響に関する調査・研究を実施しています。2017年度からは、日本学術振興会の科学研究費助成事業(科研費)の助成を受け、「被害の階層性を踏まえた災害復興における観光地マネジメントに関する理論・実証的研究」という課題名のもと、市場(国内客及びインバウンド客)や被災地の動向、復興政策の影響等の調査・研究を進めています。2017年度の成果については、2017年12月に開催されました日本観光研究学会全国大会において、下記の題目に関する研究発表を行いました。

  • 2016年熊本地震による九州観光への影響(第2報)(横山・室岡・牧野)
  • 災害復興における観光推進組織・旅行業者の役割と機能(室岡・横山・牧野)
  • 熊本地震における旅行者のリスク認知と九州旅行実施への影響に関する分析(牧野・横山・室岡)
  • 熊本地震被災地の現在の状況

     上記研究の一環として、2018年3月9日(金)から10日(土)にかけて、熊本市や阿蘇市、南阿蘇村等を訪れました。阿蘇市や南阿蘇村を通る国道57号、国道325号、JR豊肥本線、南阿蘇鉄道は、現在も一部区間が不通となっており、復旧工事に関わる多くのトラックが出入りしています。地震発生直後に比べると、周辺道路が復旧したり迂回路が強化されたりするなど交通環境は改善されつつありますが、やはり基幹となる道路及び鉄道の不通の影響は住民生活と観光の両面において甚大と言えます。

     現在、国道57号については、迂回路が利用されている一方で、北側を通る復旧ルートの建設が進められています。国道325号についても、迂回路となる長陽大橋ルートが利用されている一方で、新たな阿蘇大橋が流出した旧大橋の南側に建設中となっています。また、JR豊肥本線については不通となっている肥後大津-阿蘇間の復旧工事が昨年より始まり、南阿蘇鉄道については今年に入り、不通となっている立野-中松間の復旧工事が着手されましたが、いずれも再開時期は未定となっています。

     観光地の状況をみますと、楼門や拝殿などに大きな被害が生じた阿蘇神社(阿蘇市)では、現在修復作業が続けられています。ただ、修復費用が膨大であるため、完全な姿に戻るまでにはかなりの時間がかかるとのことです。また、市内にある内牧温泉も被害を受けましたが、建物の損傷が激しかった1軒を除き、現在は普段通りの営業となっています。

     一方、天守閣(大天守)などに大きな被害が生じた熊本城も修復作業が進められています。大天守自体は2019年頃に復元されるとのことですが、城全体の修復作業にはかなりの時間を要するとのことです。熊本城の周辺は概ね普段通りの状態であり、多くの観光客や買い物客などでにぎわっています。

    写真1 国道57号北側復旧ルートの整備

    写真2 旧阿蘇大橋の南側に建設中の阿蘇大橋(右は長陽大橋)

    写真3 熊本地震及びその後の豪雨による斜面崩壊や落石等で被害を受けたJR豊肥本線

    写真4 地震後閉鎖されている阿蘇山ロープウェー
      

    写真5 損壊した拝殿が取り除かれた状態の阿蘇神社

    写真6 天守閣(大天守)や石垣などの復元工事が進む熊本城

    最後に ~記憶を風化させないことが重要~

     東日本大震災、熊本地震とも、まだ地震前の姿に回復したわけではありません。しかしながら、両地域から遠く離れた東京などだけでなく、被害の比較的少なかった被災地周辺地域においても人々の記憶の風化が進んでいる様子が調査からもうかがえました。我が国ではどこの地域であっても、地震などの自然災害が発生する可能性がありますので、これらのことを他人事として捉えるのではなく、日頃から意識し備えておくことが肝要です。

     私どもも、観光を研究する立場として、自然災害における観光のあり方等について、引き続き調査・研究に取り組む所存です。

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