地域の思いがつまった廃校を、“新たな交流拠点”に [コラムvol.383]

2018.11.19

観光地域研究部次長 主席研究員 吉澤清良

 先日、東北一の標高を誇る「鳥海山」の山麓を訪れる機会に恵まれました。鳥海山は、秋田県由利本荘市、にかほ市、山形県酒田市、遊佐町に跨る活火山で、秋田では「出羽富士」、山形では「庄内富士」とも呼ばれて親しまれています。

 この鳥海山山麓に、今夏(2018年7月1日)、新たな美術館が誕生しました。その名も「鳥海山 木のおもちゃ美術館」。面積の約75%が森林という由利本庄市が、木製品を子育てに生かす「木育」とともに、地元の木工職人を育成し産業振興につなげたいと整備した、木のおもちゃに触れられる東北初の美術館です。

地域住民の強い思いが結実、廃校が刻む美術館としての新たな歴史

 「鳥海山 木のおもちゃ美術館」となっているこの学校は、1954年(昭和29年)に鮎川中学校として、その後、1970年(昭和45年)からは小学校として、50年間にわたって使われていたものです。濃茶の木の壁に白い窓枠、三角屋根が特徴的なこの建物は、明治から大正時代の校舎形式を受け継いだ東北日本海側の特徴ある木造校舎で、現存する木造校舎としては秋田県内でも最大級なのだそうです。2012年(平成24年)には国の登録有形文化財にもなっています。

 現在、指定管理者としてこの美術館を運営する「NPO法人ゆりほんじょう木育推進協議会」の方によると、「当時、学校の建設には地域住民の並々ならぬ強い思いがあり、建設費用も地域でご負担された。愛着のある学校を、廃校後は校舎の保存活動に賛同する地域住民や県外出身者が維持管理する一方で、2008年(平成20年)には「鮎の風実行委員会」が設立されて交流会などを開催してきた」とのこと。

 その後、「学校の利活用を模索する中で、ご縁のあった「東京おもちゃ美術館」(東京都新宿区四谷)が全面監修する形で、地元の職人が地元産の木を使って製作するおもちゃや大型遊具を設置し、雪の降る冬でも、子どもから大人、お年寄りまで楽しめる「多世代交流・木育美術館」として整備された」とおっしゃっていました。

濃茶の木の壁に白い窓枠、三角屋根が特徴的な旧鮎川小学校(「鳥海山 木のおもちゃ美術館」)

随所に様々な工夫が施され、子どもも大人も素直に楽しめる美術館

 「鳥海山 木のおもちゃ美術館」は、3つの棟(A~C棟)と、元体育館(D棟)の、計4つの建物からなっています。A棟・D棟が有料の美術館ゾーン、B棟・C棟が無料の市民ゾーンです。

 子ども達に大人気なのはD棟「もりのあそびば」。スギ、エンジュといった主に秋田県材が使用された、優しくあたたかな雰囲気に包まれた空間の中央には、隠れ家のようなツリーハウス「ちょうかいタワー」がそびえ立ち、5000個「木のどんぐりプール」や、様々なおもちゃが置かれた「遊びのこべや(26室)」が整備されています。

 A棟では、国内外のおもちゃの展示室のほか、おもちゃ遊びやおもちゃ作りが体験できる部屋などが並んでいます。工夫や集中力が必要な積み木やパズルなどには、子どもだけではなく、意外と大人も夢中になってしまうのだそうです。 B棟の「キッチンカフェキノ」では、地元の食材を使用した食事(ゆり根うどん、本荘うどん、野菜たっぷりカレー等)がいただけます。またC棟の「民具展示室」では、かつてこの地域で使われていた様々な道具や衣類、当時の様子を写したパネル、動画などを鑑賞できます。

 建物(校舎)の所々には、学校の歴史(年表)や校歌が掲示され、机や椅子などが置かれ、また壁には子ども達の写真が飾られているなど、当時の学校の様子が大切に残されています。木造校舎で子ども時代を過ごしたことのある方には、自分の子ども時代を懐かしく思い出す、郷愁を誘うものとなっています。

資料:鳥海山 木のおもちゃ美術館パンフレット

隠れ家のようなツリーハウス「ちょうかいタワー」

地元の食材を使用した料理がいただける「キッチンカフェキノ」

年々増え続ける廃校を、地域内外の方から愛される施設に

 「鳥海山 木のおもちゃ美術館」は、地域住民の学校への愛着、強い思いが、廃校を“多世代交流・木育美術館”として生まれ変わらせたものでした。

 7月の開業以来、お盆には1日1600人も来館するなど利用者数も好調に推移しているそうです。市民が3~4割で、市外では遠くは鹿児島県、また外国人旅行者の来訪も少なくないとのこと。

 今では、かつての学校のように、多くの子ども達の元気な声が館内に響いています。美術館では、おもちゃや遊びを通して由利本荘市の魅力を伝え、多世代交流の架け橋となるボランティア「おもちゃ学芸員」を募集していますが、ご年配の方を中心に多くからお申し込みがあったそうです。そうしたボランティアスタッフが、子ども達の遊ぶ様子を微笑ましく見守ったり、手伝ったりと、ご活躍をされていらっしゃいます。

 「鳥海山 木のおもちゃ美術館」は、展示物を眺めるだけではなく、子どもも大人も遊びたくなる、遊び心がくすぐられる素敵な美術館になっています。

 文部科学省によると、2002年度から2015年度の廃校数は、6,811校。毎年500校前後が廃校となる中、その約7割が様々な用途に活用されています。このうち5.0%は、新たに「体験交流施設等」として使われています。

 私ども研究員は、仕事柄、多くの地域にお伺いします。廃校を活用した施設に訪れることも少なくありません。今回ご紹介した「鳥海山 木のおもちゃ美術館」のように、地域住民に愛され、利用者にも喜ばれる施設が増えてくることを願っています。

資料:文部科学省 http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyosei/1296809.htm

表1 廃校施設等活用事例(体験学習施設・宿泊施設など)

資料:文部科学省http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyosei/1296809.htm

この研究員のその他のコラム

最新研究員コラム

観光研究コラム一覧




関連するタグ: