観光産業が持つ「裾野」とは [コラムvol.224]

2014.09.26

観光文化研究部 菅野正洋
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○観光産業の範囲

 観光は関連する分野が多岐にわたることから、「裾野の広い産業」であると言われます。確かに実感としてはその通りなのですが、その「裾野」はどこまでとしてとらえられているのか、あるいはとらえるべきなのでしょうか。
 ここでは、各種調査や研究における観光産業のとらえ方を見ていきたいと思います。

○国際基準に照らした観光産業のとらえ方

 まず、国際基準に照らした観光産業のとらえ方について見てみます。
世界観光機関(UNWTO; World Tourism Organization)では「観光統計に関する国際勧告2008(IRTS2008; International Recommendations for Tourism Statistics 2008)」において観光産業(Tourism Industries)の業種を規定しています。
 我が国でも、観光庁が行っている各種調査は上記の規定を踏まえた形で実施されています。
 例えば、観光庁が実施している「観光地域経済調査」では、UNWTOの規定した業種に属する事業所のうち、観光客に対して商品の販売又はサービスを提供する業種に属する事業所を対象として、その概要や経営(売上やその観光比率、営業費用の項目別内訳や支払先地域別割合など)について把握していますが、業種としては、宿泊サービス/飲食サービス/旅客輸送サービス/輸送設備レンタルサービス(レンタカー)/旅行業・その他の予約サービス/文化サービス(博物館や美術館など)/スポーツ・娯楽サービス/小売の8業種が分類されています。

○観光研究分野における観光産業のとらえ方

 一方、海外の観光研究分野ではどのような状況なのでしょうか。
 これに関しては、Ottenbacherらが、研究対象としての“ホスピタリティ産業”の定義付けを行う目的で、先行研究や既往文献において行われている定義づけを整理・考察している論文(Ottenbacher, Harrington and Parsa, 2009)が参考になります。 その内容からは、海外の観光研究の議論においては、観光産業のとらえ方が様々であることが伺えます(そもそも、「ホスピタリティ産業の定義」という内容で論文が執筆されるということ自体がその証左かと思います)。
 この論文によれば、例えば、前述したUNWTOの規定に含まれていた宿泊、飲食、旅客輸送、旅行業といった業種はもちろんのこと、出版や政府観光局、金融、不動産開発といった、観光客に対して間接的にサービスを提供する業種までを観光産業として含めて扱っている研究(Gee, Makens, and Choy, 1989)や、クルーズやゲーミング(カジノ)といった海外ならではの産業を含めて扱っている研究(Biederman et al., 2008)もあるようです。
 ちなみにOttenbacherらは先行研究を踏まえて、ホスピタリティ産業の“コア”となる産業を、宿泊/飲食/旅行会社/レジャー(ガイド事業者など)/アトラクション(国立公園、テーマパークなど)/コンベンションの6つに整理しています。

各種研究・文献における「観光産業」の範囲

図

○これらの枠組みで捉えられない産業・業種とは?

 ここで再度立ち戻って、我が国における観光産業のとらえ方について見てみますと、観光地の現状に即してみた場合、上記のような枠組みでは捉えられていない分野があるのではないか、という点に考えが及びます。
 例えば、観光地においてエコツアーやまちあるき等のプログラムを提供するガイド事業者は観光客に直接サービスを提供する業種であり、屋久島や小笠原など、一部の観光地では地域における主要な産業として認知されている場合もありますが、産業分類において独立して分類されていない(日本標準産業分類では「観光案内業(ガイド)」は「他に分類されないその他の生活関連サービス業」に分類)などの背景もあり、上記の枠組みからは外れてしまっているようです。
 また、我が国では各地域で農山漁村体験やグリーンツーリズムへの積極的な取組が見られますが、そのような地域においては、農林水産業(農家、漁家)も観光客に直接サービスを提供する業種となり得ます。(観光庁の調査によれば、農業や漁業に対して観光消費がもたらす直接効果は他産業に対する効果と比較して少ないものの、一定は認められているようです)

○地域の状況に応じたきめ細かなとらえ方が必要

 このように見てみると、観光産業をどのように捉えうるかという点については一律に規定できるものではなく、通常は観光産業とは認識されない産業も、地域や状況によっては観光産業として位置づけることが適当である場合もあることが分かります。
 今後、観光産業の重要性はますます高まるものと思われますが、その振興のための方策を検討するなどの際には、よりきめ細かな視点を持つ必要があると思われます。

(参考文献)

  • World Tourism Organization (2008). 2008 International recommendations for tourism statistics. Madrid: World Tourism Organization.
  • United Nations Statistics Division, Statistical Office of the European Communities, Organisation for Economic Co-operation and Development & World Tourism Organization (2008). 2008 Tourism Satellite Account: Recommended methodological framework. Madrid: World Tourism Organization.
  • 観光庁ウェブサイトhttp://www.mlit.go.jp/kankocho/siryou/toukei/kouzou.html
  • Ottenbacher, M., Harrington, R., & Parsa, H. G. (2009). Defining the hospitality discipline: a discussion of pedagogical and research implications. Journal of Hospitality & Tourism Research, 33(3), 263-283.
  • 観光庁、旅行・観光産業の経済効果に関する調査研究 (2014)

 

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