東南アジアで考えた日本食を活用した訪日外国人の消費促進の可能性 [コラムvol.352]

2017.09.04

観光経済研究部 主任研究員 柿島あかね

 訪日外国人消費動向調査(平成28年)によると「訪日前に最も期待していたこと」の1位は全国籍・地域で「日本食を食べること」(26.0%)で、2位の「自然・景勝地観光」(16.4%)を大きく引き離しています(図1)。今回は、訪日外国人旅行者から期待が大きい「日本食」を中心に訪日前後の訪日外国人の消費について考えてみたいと思います。

「刺身は食べたい」けど「寿司は食べたくない」!?

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 8月のお盆の最中、出張でタイ(バンコク)とシンガポールを訪れました。滞在中、いろいろな方とお話させていただく機会に恵まれましたが、ある時、旅行会社の方に「訪日旅行商品(団体ツアー)を販売する際、目玉になるような日本食は何かありますか?例えばお寿司とか…」と、訪日外国人旅行者にも人気があるお寿司を例に挙げて質問したところ、「刺身は喜ばれるけど寿司は喜ばれない」と、日本人にはなかなか理解しにくい回答が返ってきました。よくよく聞いてみると、「シンガポールでは日本人から見たら寿司ネタとは思えないようなネタの寿司がスーパーや回転寿司で安く(1SGD以下!)売られていているので、そのイメージが強いのかもしれません。」とのこと。私も以前にシンガポールを訪れた際、日本では見たことのない謎の寿司ネタ(写真1)に驚いたことを思い出しました。それと同時に日本では回転寿司でも十分に新鮮で大きなネタの乗ったお寿司を楽しむことができるし、ある程度お金を払えば本格的なお寿司を食べることができるのに、残念でもったいないような気持ちになりました。

 一方で、ツアー商品の中で刺身以外に目玉として扱っているのが牛肉。牛肉といえば海外では神戸牛のイメージが浸透していましたが、近年では松坂牛、飛騨牛、佐賀牛等もシンガポールの人に認知され始めてきているようです。理由は「現地のスーパーで高級品として販売されているから」とのこと。シンガポールではありませんが、私が訪れたタイの高級スーパーで販売されていた牛肉(サーロイン)で比較すると、佐賀牛が100gあたり1,390バーツ(およそ4552円)に対し、オージービーフは320バーツ(およそ1048円)と約4倍の価格で販売されています(写真2)。現地で日常的に高級品としてのイメージが定着した牛肉は、「せっかく日本を訪れたのだから一度は食べてみたい」と思われる対象になっているようです。

写真1:緑色の寿司ネタ

写真1:緑色の寿司ネタ

写真2:高級スーパーで販売されている佐賀牛

写真2:高級スーパーで販売されている佐賀牛

旅行者の日本食体験が訪日前後の消費に影響する

 タイ、シンガポールともにさまざまな価格帯、ジャンルの日本食レストランが充実しており(写真3~4)、高級スーパーでは日本産の生鮮食品が所狭しと並び、まちなかにある一般的なスーパーでも赤肉メロンが「Japanese Melon」として、フジリンゴが「Fuji Apple」として販売されており(これらの多くは日本産ではありませんが日本ブランドが広く浸透していることを実感しました)予算や好みに合わせて日本食や日本食材を購入できる環境が十分に整っていることを強く実感しました。

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写真3:タイの日本食飲食店の様子
(日本でもおなじみのとんかつ店が人気を集めている)

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写真4:シンガポールの日本食店街の様子
(ショッピングセンターを中心に日本食店が軒を連ねている「日本食店街」が多く見られる)

 寿司や牛肉のエピソードから、タイやシンガポールにようにこれだけ日本食が浸透していると、日常的に接している日本食のイメージが訪日前に確立されている可能性が高く、それが日本を訪れた際の日本食の消費にも大きく影響することに気付かされました。一方で、日本滞在中に食べた日本食や食材を自国でも食べたいという需要もあるかもしれません。実際に、近年ではそうした需要を受けてか、日本食を扱う越境EC等も多くみられるようになりました。

滞在「中」だけでなく、滞在「前後」も消費促進へ

 今回のタイ、シンガポールでの滞在を通じて、従来から言われてきた滞在中の消費促進やそれに伴う経済効果の向上から一歩踏み込み、今後は滞在をきっかけとした訪問前後の消費促進とそれに伴う経済効果の向上という観点も重要になってくるのではないかと感じました。また、「食」いうコンテンツも重要です。訪日外国人の関心の高さが示すように、「食」は誰でも体験するものであり、身近であることから消費促進の手段として果たす役割は大きいのではないでしょうか。

 このように食を活用し、訪日旅行の前後で消費の好循環を生み出す取組は少しずつ行われ始めています。岐阜県高山市では2011年に「海外戦略室」を立ち上げ、誘客と物販と交流を一体化させた取組を推進しています 。取組の一例を挙げると、シンガポール、台湾、香港等で、高山市で販売されるおよそ5倍程度の価格で飛騨牛を販売し「飛騨高山ブランド」を普及することによって、高山市を訪れた外国人旅行者に「高山で安くて新鮮な飛騨牛を食べたい」という意欲を喚起しています。古いまちなみ界隈では、飛騨牛の串焼き、握り寿司、コロッケ、肉まん等の店舗が軒を連ねており、私が訪問した日は大雪にも関わらず多く多くの外国人が食べ歩きを楽しむ姿を目の当たりにし、誘客と物販の好循環を垣間見ました。また、最近では、海外向けに販売されている農産品の産地を訪れる旅行商品も販売されはじめています。

 国内の人口減少や、昨今のインバウンドブームによる訪日経験者の増加により、このような取組は今後も増えてくるのではないかと思います。特に、地方の市町村は都市部と比べて人口減少のあおりを受ける反面、豊かな食文化があり、農林水産業も盛んです。また、訪日外国人市場に目を転じると、FIT化、地方分散化が急速に進みつつあります。以上を踏まえると、海外の人にその地域の「食」を知ってもらい、体験してもらい、地域の経済効果につなげていくチャンスが地方の市町村にも到来しているのではないかと感じました。

 10月に開催される「第27回旅行動向シンポジウム」では、当財団の2本の独自調査(「DBJ・JTBFアジア欧米豪訪日外国人旅行者の意向調査」・「JTBF訪日旅行商品調査」)結果報告の中で「日本食」をテーマとした分析をご紹介する予定です。(申し込み等、シンポジウムの詳細はこちらをご確認ください)

・詳細は「観光文化」233号p26~p32を参照のこと

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