旅行業の体系的整理への試み~「旅行産業論」執筆、出版を通じて~[コラムvol.289]

2016.02.08

観光文化研究部 研究員 柿島あかね

 私が初めて海外に出かけたのは中学2年生の夏休み。ホームステイのためにオーストラリアを訪れました。今まで生きてきた中で体験したことのない新鮮で刺激的な体験の連続に、帰宅してからもその時の経験をその時の感情とともに一つ一つ丁寧に思い出したり、日本との文化・風習の違いを改めて思い起こして調べてみたり、しばらく夢から覚めないような感覚にあったのをよく覚えています。結果的には、この海外旅行をきっかけに貴重な体験を提供することができる「旅行」にとても興味を持つようになり、大学進学も迷わず観光を学べる大学を選択し、現在もこうして旅行や観光に関係のある職業に就いています。

就職先として人気の旅行業界

 私のように、個人的な旅行体験から旅行業界や旅行について興味・関心を持ち、旅行会社への就職を目指して観光を学べる大学(以下「観光系大学」)を選択する若者は多いかもしれません。ここ10年程で観光系大学は増加し、就職先企業人気ランキングでは旅行関連企業は上位にランクインすることも多い傾向にあります。また、就職を選択する際にはその業界の実情を把握することが重要となります。もちろん、観光系大学では旅行業の第一線で活躍している方が教壇に立って講義を展開しており、私もこうした現場感のある講義を聴講するたびにわくわくしたものです。その他にも、就職活動生を対象とした旅行業界を解説する書籍も出版され、こうした本を読んだこともありました。しかし実際には、講義で「店舗営業」について「なんとなく」理解し、就職本で「旅行業界の実際の働き方」が「なんとなく」分かった気になっていました。もちろんこの「なんとなく」の理解は、学生であることから、あくまでも想像の域を出なかったということも影響していますが、今になって思うのは、なぜこのような店舗営業がされているか、なぜこのような働き方につながっているか、その背景にある旅行業のビジネスモデルを体系的に理解することができていなかったことも影響しているのではないかと思うのです。

旅行業を体系的に理解できる書籍「旅行産業論」の発刊

 旅行業のビジネスモデルを最も手軽に理解する方法は書籍ですが、旅行業に関する書籍は観光概論の一部を構成するものとして発刊されており、その内容は実務を中心としたものや、「旅行代理店」的機能を解説するものが多く、体系的に整理した書籍はなかったのではないかと思います。

 こうした背景もあり、このたび、立教大学観光学部を中心とする「立教大学観光学部旅行産業研究会」では、立教大学で展開している「旅行産業論」「旅行業経営実務」の講義内容をベースとして、旅行業を体系的に整理した「旅行産業論」を発刊することになりました。書籍は2014年度4月から検討を開始し、およそ2年間の執筆、出版準備を進め、2016年2月に発刊することとなりました。

 主な対象は旅行・観光産業への就職を目指す学生や、旅行・観光産業に就職した新入社員、観光を研究対象とする学生を中心としており、旅行業に関する基本的な知識の習得、旅行業の全体像の理解等を目的とした構成となっています。

 内容は、旅行・観光産業の歴史に始まり、旅行商品の形態・バリューチェーン、旅行会社の形態、旅行商品の特性及び経営の特性、財務の特質、マーケットの変遷と現状、旅行会社のビジネス展開(店舗販売、メディア販売、オンライン・トラベル・エージェント、ビジネストラベルマネジメント、法人営業、MICE)、インバウンドマーケット、旅行会社のシステム、旅行会社のグローバル化、業界構造と戦略モデル、着地型観光、危機管理、旅行業の未来像と求められる人材等、旅行業に関わることはほぼ全て網羅されています。

 「旅行産業論」の特徴は、体系的な整理への試みだけではありません。これ以外にも「旅行会社のグローバル化」や、かなり踏み込んだ内容となっている「業界構造と戦略モデル」等、同種の書籍であまり詳細に扱われてこなかった内容を取り上げたことが挙げられます。また、上記の内容構成から、従来の実務的なテキストに比べてやや高度な内容となっているため、観光を学ぶ方だけではなく、経営学的な視点で旅行業を知りたい方等にも読んでいただける内容となっています。

おわりに

 「旅行産業論」の編著者である「立教大学観光学部旅行産業研究会」は立教大学の先生方を中心に旅行産業の各分野に精通している専門家の方で構成されています。当財団からも立教大学観光学部で特任教授を務める志賀会長、守屋主任研究員、私も執筆者として参画しています。結果的に、私自身は今現在、旅行業界で活躍しているわけではありませんが、この「旅行産業論」を読んだ学生が、旅行業の基礎的な知識の習得や、旅行業の可能性を見出し、旅行業界で活躍し、かつての私が感じたような新鮮で感動的な体験をいろいろなところで提供することにつながれば、その体験の提供に間接的に関わることができるのではないかと「旅行産業論」の発刊をうれしく思っています。

※「旅行産業論」は近日中に発刊予定です。詳細が決まり次第、当財団のホームページでお知らせいたします。

旅行産業論

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