財布の紐がゆるむ時~「想い出を買う」ということ [コラムvol.23]

2008.03.14

研究調査部 岩崎比奈子

 「特別な経験」に対して、一定の対価を支払いたいという消費者は存在します。そうした人々の財布の紐をゆるめるような商品知識と魅力的なコミュニケーション能力が、旅館にも求められています。

■「百貨店での買い物」の魅力

 私の気分転換法の一つは百貨店での買い物ですが、ここ2か月ほどその楽しみはお預けになっています。今出かけていくと、大きな散財をしてしまいそうです。
 ディスカウント店やスーパーなど様々な店舗形態の中で、私が「買い物の愉しみ」を百貨店により強く感じ、割高と感じつつも、時につい衝動買いをしてしまうのはなぜか、少し考えてみました。

 まずは、特に老舗の百貨店で感じる重厚な雰囲気と、明るくて美しく、わかりやすい売り場といったハードの良さがあります。加えて品質が良く品揃えも豊富なうえに、最近はシューフィッターなど各種アドバイザーの配置、冷蔵ロッカーの設置など、サービス面もいよいよ充実してきました。こうした百貨店のハードとサービスのコストは、最終的には来店者が負担しますから、一般的に百貨店の商品は安くはありません。人によっては「同じようなものを買うなら、より安い店がいい」と言うでしょう。
 それでも私をはじめ多くの人々を惹き付けている「百貨店」の大きな魅力とは、大事なお客様として個別に対応されて、ちょっとした非日常を感じさせる店員の物腰ではないでしょうか。「背が高いお客様には、このコートがお似合いですよ。このスタイルのこの部分が、ここのデザイナーならではなんです」といった“私のための、具体的なアドバイス”をしてくれたり、感じのいい店員さんだった時、私はつい衝動買いをしてしまいます。「1点、買い過ぎたかな」ということも少なくありませんが、納得して買っているのですから、後悔することはあまりありません。

■財布の紐をゆるめる「人」の存在

 必要なものや欲しいものが、すでにある程度揃った年代の私にとって、買い物は大きな娯楽でもあります。「モノ」を手に入れるだけではなく、店員から得られる情報やその場でのやり取りに「価値や楽しさ」を感じて、それを買っているのです。
 このことは、海外旅行先のブランド店で買い物をする場面なら、イメージしやすいかもしれません。例えばルイ・ヴィトンのシャンゼリゼ店で、本国ならではの豊富な品揃えの陳列棚から、専属の店員にあれこれ出してもらい、カタコトのフランス語で品定めをする、こうしたやり取りは、手に入れた数万円のバックに、「旅の想い出」という「楽しさ」を付け加えています。そして多くの場合、その「楽しい想い出」には、店員や現地の人々など「人」が登場します。

■「旅館での宿泊」の魅力

 こうした「想い出を買う」という感覚は、選りすぐりの旅館に宿泊している最中にも感じることがあります。季節の料理に合わせた時期限定の日本酒や客室係から聞く郷土の歴史など、特別に提供されたサービス、後々語るに足る想い出といった「特別な経験」に対して、一定の対価を支払いたいという消費者は存在します。
 旅館の魅力は、大きくは客室や料理、温泉、人によるサービスなどで構成されていますが、一般的に旅館全体への評価は、こうした個々の満足度のかけ算であると言われます。客室係のサービスなど、ひとつでも満足度が「ゼロ」であれば、その旅館での宿泊の満足度はほぼ「ゼロ」に等しくなってしまうのです。JTBの販売担当者へのアンケート調査でも、お客様が宿泊旅館を決定する際のよりどころは、一つではなく多岐にわたっているという結果が出ています(図)。
 身の回りに質の良いモノがあふれ、消費経験も豊かな人々は、単に安いからといって商品を購入するわけではありません。旅館のスタッフには、お客様に満足していただける商品づくりとともに、優れた百貨店の店員のように、お客様が自然と財布の紐をゆるめてしまうような商品知識と魅力的なコミュニケーション能力が求められていると言えるでしょう。




出典:JTB協定旅館ホテル連盟「JTB国内旅行商品販売担当者アンケート調査」((財)日本交通公社 調査、2007年)

 

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