東京2020大会のその先へ―オリンピック・パラリンピックを契機としたインバウンド振興― [コラムvol.413]

2020.01.20

観光経済研究部 主任研究員 柿島あかね

東京2020大会がいよいよやってくる!

 新年を迎え、今年はいよいよ東京にオリンピック・パラリンピックがやってきます。メディアでは連日オリンピック関連の報道がされ、街中を歩いていてもオリンピック・パラリンピック関係の文字が目に入る機会が増えました。一個人としては、昨年のRWC同様、東京を中心に日本全体が明るいムードに包まれることへの期待感もあります。

 また、政府は2030年を目途に観光施策の数値目標を設定していますが、今年はその中間目標年として設定されています。東京2020大会の招致決定以降、官民一体となってさまざまな取組が進められてきており、今年はこれまでの締めくくりの年であるとともに、2030年に向けて新たな一歩を踏み出す重要な年になるでしょう。訪日外国人旅行者数が過去最高を更新し続ける中、東京2020大会というビッグチャンスを活かし、さらなる飛躍をすることが、2030年の目標達成のカギを握ると言えるでしょう。そこで、今回は東京2020大会がもたらすインバウンド市場への影響について、過去の開催都市の事例も踏まえて考えてみたいと思います。

東京2020大会がもたらすインバウンド市場にとってのチャンス-東京2020大会を活用して訪日無関心層へどう働きかけるか-

 今年は、大会前後を中心に、いまだかつてないほど、集中的、かつ世界規模で東京を中心に日本の様子が発信され、世界中の日本をまだあまりよく知らない人や、日本に関心のない人に対してアプローチする絶好の機会となるでしょう。「DBJ・JTBFアジア欧米豪訪日外国人旅行者の意向調査(2019年度版)」(以下「DBJ・JTBF調査」)の結果では、訪日リピーター率が低い国・地域を中心に訪日観戦意欲が高い結果となっており、東京2020大会が新たなインバウンド市場獲得のためのフックとなり得ることを示しています(図1)。また、東京2020大会を理由に訪日した外国人に、日本国内で+αの滞在をしてもらい、地方部での消費促進や今後の市場開拓につなげていくことも期待されます。DBJ・JTBF調査では訪日観戦希望者を対象とした地方訪問意向についても尋ねており、アジアで96%、欧米豪では92%と非常に高い結果となっています(図2)。

 訪日旅行需要を喚起することは容易ではありませんが、既に東京2020大会によって、日本や東京の旅行先としての認知度が高まり、場合によっては、訪日にまで結びつく訳ですから、これは大きなチャンスと言えます。東京2020大会の記憶が新しいうちに、次の一手を打つことが重要です。

図1:国・地域別東京2020大会の訪日観戦意欲(※1)

出典:DBJ・JTBF アジア・欧米豪 訪日外国人旅行者の意向調査(2019年度版)


図2:東京2020大会訪日の際のエクスカーション意向

出典:DBJ・JTBF アジア・欧米豪 訪日外国人旅行者の意向調査(2019年度版)


 例えば、ロンドン大会(2012)では大会終了の翌日から、航空会社、ホテル、旅行会社等と連携した特別プロモーションや、海外6ヶ国における雑誌への広告掲載等を行う“Memories are GREAT(※2)”キャンペーンを政府観光局であるVisit Britainが主導して実施しています。この他にも、市場特性を踏まえたプロモーションを矢継ぎ早に展開しています。これらの詳しい紹介は、別の機会に譲りたいと思いますが、ロンドン大会で喚起された英国への認知や関心を無駄にしない、という積極的な取組が、ロンドン大会以後、英国を訪問する外国人旅行者数増(図3)に影響しているものと考えられます。

図3:英国の外国人旅行者数(※3)の推移(2012~2018年)

資料:Compendium of Tourism Statistics(UNWTO)より作成


※1:東京2020大会認知者(n=3,333)を対象としている。
※2:https://www.visitbritain.org/our-great-story-so-far
※3:TF(国境での国際観光客到着数、日帰り客を除く)

東京2020大会がもたらすインバウンド市場にとってのリスク-クラウディング・アウトをどう回避するか-

 一方、オリンピック・パラリンピックの開催はインバウンド市場にとってチャンスだけではありません。例えば、日本への旅行を検討していたものの、滞在先の混雑、航空運賃・宿泊施設等の価格高騰を懸念して、旅行をとりやめる「クラウディング・アウト」という現象がこれまでの開催都市でも起きており、シドニー大会等でもその対策が行われています。

 クラウディング・アウトという言葉自体は聞き慣れないかもしれませんが、みなさんの中にも、航空券や宿泊施設の予約が取れず、調べてみると、国際会議や有名アーティストのコンサートが開催されていた…という経験がある方は多いのではないでしょうか。

 確かに、大会期間中は航空券や宿泊費は高騰し、まちなかも混雑します。DBJ・JTBF調査の結果からも、訪日観戦を「どちらかといえばしたくない」、「したくない」を選択した人を対象にその理由を尋ねたところ、開催中の混雑や費用の高騰等が主な内容となっていることがわかります(図4)。しかし、問題は、懸念される状況とは無関係な「場所」や「時期」にも関わらず、クラウディング・アウトが起きてしまうことです。観光地にとっては大きな機会損失とも言えるでしょう。

 こうした事態を防ぐための対策の1つ目は「情報管理」です。宿泊施設や観光施設等の混雑状況について正確な情報を速やかに発信することが必要です。自前のウェブサイトの情報管理はもちろんのこと、マスメディアが誤った情報を発信していないかというモニタリングも必要となります。また、近年はSNS利用者が増加しており、利用者との即時的かつ双方向型のコミュニケーションが可能となりました。実際に、ニュージーランドRWC(2011)(※4) やリオ大会(2016)ではSNSモニタリングを導入し、ユーザーの質問に即時対応できる体制を整えています。これらは大会期間中を中心に行われましたが、大会前後もこうした環境を整えることによって、クラウディング・アウトの回避に一役買うのではないでしょうか。

 2つ目は「魅力づくり」です。具体的には、その時期にしか体験できないイベントを開催し、あえてその場所、その時期に来る理由をつくることです。ロンドン大会時には、ロンドンの観光振興を担うDMOであるLondon & Partnersが、市内各地でその時期にしか見られない舞台公演や美術館等の企画展示等を行う“Limited Edition London(※5)”を大会直前に開催しました。これは、需要分散のための取組とも言えますが、メガイベント開催期間中においては、情報管理と組み合わせることによってクラウディング・アウト対策としても効果を発揮するものと考えられます。

図4:訪日観戦したくない理由

出典:DBJ・JTBF アジア・欧米豪 訪日外国人旅行者の意向調査(2019年度版)

※4:https://suitcaseentrepreneur.com/full-credit-to-the-rugby-world-cup-and-social-media-is-the-winner-on-the-day/
※5:London & Partners(2013)”ONE REMARKABLE YEAR FOR LONDON London & Partners 2012-13 review” p44.

東京2020大会のその先に

 今回紹介した事例は、政府や政令指定都市レベルの取組となるため、地方自治体で取組そのものを参考にすることは難しいかもしれません。しかし、東京2020大会によって生じる自地域へのチャンスとリスクをどう捉え、チャンスの最大化とリスクの最小化を図り、どのように五輪をインバウンド振興に活用しているのかという点においては、自治体の規模に関係なく参考となる部分もあるのではないでしょうか。

 また、今回は誌面の都合上、過去の開催都市の事例を十分紹介しきれていませんが、大会終了後も継続的かつ戦略的に取組を展開している都市(及び国)では、その後の観光分野の成長に結びついています。実際に、ロンドン大会では、大会開催に伴う観光振興の予算配分を大会前中後で2:2:6(※6)に配分したとも言われていることから、開催後の取組の重要性をうかがい知ることができます。メガイベントはとかく開催前と開催中に注目が集まりますが、東京2020大会の興奮冷めやらぬうちに、次の一手をどう打てるかが、東京2020大会のその先のインバウンド振興に影響するのではないでしょうか。

※6:本保・矢ヶ崎(2015)過去のオリンピック・パラリンピックの経験を踏まえた2020 東京オリンピック・パラリンピックを契機としたインバウンド振興策に関する一考察pp.6-7.

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