空港の集客機能強化による活性化の可能性 [コラムvol.35]

 航空機の離発着場である空港は、交通の結節点として重要な役割を担っています。従来は旅客や貨物の輸送という「交通機能」のみに重点が置かれてきましたが、近年は航空利用以外の人も訪れる「集客機能」としても注目が集まっています。今後はますます空港の魅力向上が問われることとなるでしょう。

■集客機能強化の背景と目的

 空港の集客機能が注目されてきた要因はいくつか考えられます。
 1点目として、空港整備の方向性の転換があげられます。わが国ではこれまで「1県1空港」を目途に、地域間での激しい誘致争いを繰り広げつつ、空港の新規設置や拡張が行われてきました。その転機が訪れたのは、平成8年に閣議決定された「第七次空港整備計画」です。この中で、「国内の空港網はほぼ完成に至ったため、能力不足が深刻な大都市拠点空港(ハブ空港)に重点的に投資し、地方空港の整備については国の負担(補助金)を減らす」ことが言及されました。また、平成14年度にまとめられた「交通政策審議会航空分科会答申」では、「今後の一般空港の整備は、ハード重視の考え方を転換し、既存空港の十分な活用を中心とする高質化に重点を移す必要がある」ことが示され、平成19年度の「交通政策審議会航空分科会答申」では、「一般空港は、その質的な充実を図るとともに、観光振興のためにもその利用を促し、既存ストックを最大限活用する」旨が記されています。このように、我が国では、大都市圏の空港を除き、ハード面からソフト面の整備へと重点が置かれるようになってきました。
 2点目として、空港の民営化議論があげられます。現在、わが国で民営化(行政が主要株主である場合も含む)されている主要な空港は成田空港、関西国際空港、中部国際空港であり、その他の空港は国もしくは自治体(都道府県、市町村)が管理・運営を行っています(空港ターミナルビルについては株式会社が運営している場合が多くみられます)。滑走路やエプロン等を行政が管理する後者の場合、空港会社は建物部分(ターミナルビル)の採算性を考慮すればいいのですが、全てを会社が管理・運営しなければならない前者の場合、建物部分に加え、着陸料や滑走路部分を含めた土地賃借料等も考慮しなければなりません。建物部分の採算性を維持するだけでも大変なのですが、空港全体の採算性となるとそれ以上の努力が必要となってきます。
 3点目として、空港間の激しい競争があげられます。通常の場合、利用者数や便数が他空港を上回ると、規模の経済が働き、航空利用者にとっては利便性が向上するとともに空港施設内の多様な機能(物販、飲食、アミューズメントなど)を享受・活用することができ、運営会社にとっては収益の向上及び経営の安定化につながるため、さらに優位性が増すという好循環になります。海外の主要空港がハブ空港化を目指しているのはまさにこのメリットを最大限に享受するためといえます。ちなみに、競争力強化の観点は前述した空港の民営化議論にも影響を及ぼすものであり、イギリスなどでは民営化による競争力の強化が図られています。
 そして4点目として、地域の活性化があげられます。集客機能の多様化が進み、航空利用者だけでなく立ち寄り客が増えるようになると、消費額の拡大やそれに伴う税収増、雇用の拡大といった経済効果が得られることとなります。また、地域のシンボルとしての空港に対するアイデンティティの一層の向上にもつながります。騒音や安全性等の問題があり、空港は市街地から離れた場所に設置されるケースが多いため、これまでは航空利用者のみが行く場所と捉えられる傾向がありましたが、集客機能が強化されることにより、地元や周辺地域の人も気軽に訪れる場所(ショッピングセンターや公園等と同様のイメージ)に変身する可能性があります。
 以上のような時代の流れやグローバル化、地域活性化等の観点から、今後は空港の集客機能の強化及びそれに伴う地域振興や観光等への活用が期待されます。

■集客機能強化の例

 海外の主要空港では、航空・空港利用者の増加を目指した空港機能の強化が進められています。例えば、シンガポール・チャンギ空港では、トランジット(飛行機の乗り継ぎ)客の快適性を向上させるため、旅客専用エリア(制限エリア)内において、ショップやレストランはもちろんのこと、フィットネスジムや無料シアターなども設置しています。また、オランダ・アムステルダム・スキポール空港では、旅客専用エリア(制限エリア)内に小さな美術館(レンブラントの絵が飾られることもあります)やカジノを設置するなど、空港とは思えないようなエンターテインメント空間が形成されています。もちろん、両空港とも一般エリア(制限エリア外)でのショップやレストランが充実しているのは言うまでもありません。航空利用者以外の人も、展望や食事等を楽しんでいる光景が随所にみられます。
 わが国の場合、旅客専用エリア(制限エリア)内の機能の充実度は海外の空港に比べるとまだ低いと言わざるをえませんが、一般エリア(制限エリア外)の機能強化については、大都市空港を中心に整備が進み、効果が表れているところがみられます。例えば、2005年に開港した中部国際空港では、和風・洋風それぞれのコンセプトに合わせた物販店舗や有名レストラン、展望風呂等の設置や見学ツアーの実施に取り組んでいます。また、北九州空港や鹿児島空港では足湯を設けるなどの趣向を凝らしています。このような施策が充実してくると、航空利用者はもちろん、航空利用以外の人も空港を訪れることが期待され、賑わい空間が形成されることとなります。

■整備は計画的に

 羽田空港の滑走路増設により、地方と羽田空港を結ぶ航空路線の新設や便数の増加、及びそれに伴う利用者数の拡大が期待されています。これに合わせ、各地の空港機能の強化も期待されることとなるでしょう。
 これまでに述べたように、空港の整備の方向性がソフト面へ移るなかで、競争力強化や地域活性化を目指すためにも、集客機能の強化は効果的であるといえます。但し、やみくもに整備を行うとお金の無駄遣いに終わる恐れがあるので、マーケット動向の把握や他地域の例を参考にしつつ、計画的な整備を行うことが肝要です。同時に、交通機関の整備(バス路線、駐車場など)も求められてきます。
 近年の外資による空港会社への経営関与の問題にみられるように、”空港経営””空港活用”に対する注目度は今後も高まっていくと推察されます。様々な動きがみられるなかで、今が空港のあり方を見直すよい時期ではないでしょうか。
 

アムステルダム
ミュージアム
中部国際空港

洋風コンセプト

アムステルダム・スキポール空港の旅客専用エリア
(右下はミュージアム)
中部国際空港の一般エリア
(上:和風<コンセプト、
下:洋風コンセプト)