●銀座でミツバチ!?
NPO法人銀座ミツバチプロジェクトは2006年から銀座3丁目、紙パルプ会館を中心に活動している。メインとなる取り組みは、都会の真ん中、銀座の45メートルのビルの屋上での養蜂である。なぜ、都会の真ん中で養蜂?と思われるだろうが、きっかけは食の安全や銀座のまちと環境の共生を考える勉強会から「ミツバチを通して銀座の環境を考えよう」ということからはじまった。都会の真ん中でもミツバチは元気に蜜を集めている。ミツバチが蜜を運べる距離は約4㎞。銀座からの距離には皇居や浜離宮など都会の緑地があり、ミツバチたちはビルを越えて良質な蜜を集めることができる。現在では国内蜂蜜生産量の0.01%以上を生産する立派な蜂蜜生産者である。
集まった蜂蜜は銀座で消費される仕組みになっている。都会の地産地消である。銀座は職人のまちであり、集められた蜜は銀座のバーテンダー達がカクテルに、パティシェや和菓子職人達がケーキや和菓子に、蜜蝋にして銀座教会のキャンドルサービスにと、銀座のまちを豊かにしている。
●銀座に地域があつまる日
今回紹介したいのは、4月末に銀座で開催されたイベントである「ファームエイド銀座2011春」である。
ファームエイド銀座はNPO法人銀座ミツバチプロジェクトが中心になって年6回開催され、全国から様々な地域が集まる。今回は福島県会津若松市、須賀川市、茨城県大子町、徳島県阿南市、愛媛県宇和島市、高知県本山町、岡山県新庄市、東京都檜原村などが集まり、環境、食の問題などのフォーラムを開催したり、物産の直売などを行っている。
銀座で収穫されるミツバチと各地の特産品(高知しょうが、徳島すだち、宇和島柑橘など)のスペシャルカクテル「ハニーハイボール」は、銀座の一流店のバーテンダーらが目の前でつくってくれる。調子に乗っていただいていたら昼間から酔っぱらってしまった。
●ミツバチが都市と地域をつなげる
こうしたNPO法人銀座ミツバチプロジェクトの取り組みを通じて、様々な地域と出会い、交流がはじまり、銀座と全国地域がつながるネットワークが生まれている。
銀座ミツバチプロジェクトと同じミツバチの生産地(を目指すまち)、自然との共生を目指すまちが銀座のミツバチを見学しに訪れる。銀座の皆さんは次にその地域を訪れる。そして、自然との共生を目指す農業やまちづくりの現場の人々に出会い、共感が生まれる。こうした「FACE TO FACE」のつながりの中で生まれたのがファームエイドというイベントであり、従来のような都市(消費地)に地域(生産地)が集まって特産品を販売するといったイベントとは異なり、銀座の方々と地域の方々が同じ目線、同じこころざしで語り合うのである。
同じこころざしを持つ生産者が語り合えば様々なアイディアが生まれる。実際、銀座×地域の新商品も次々と生まれている(ハニーハイボールはその代表例)。
●都市と地域、そして観光
銀座で養蜂見学に参加(ミツバチは滅
多に指しませんが念のために防御)
銀座ミツバチプロジェクト、ファームエイド銀座の例では、都市と地域の関係が、消費地と生産地というこれまでの一方向の関係を越えて、消費地と生産地の双方向の新しい関係が成り立っている。地域にとって銀座は日本の先端消費地であり、そこでの販売、プロモーションの意義は大きいのだが、銀座にとっても生産地、地域で頑張っている生産者、特に既存の流通ルートに乗りづらい少量生産で質の高い農産品の生産者とのネットワークは銀座ブランドをより高めている。
こうした都市と地域の新しい関係は、観光の分野でも創られつつあるのではないだろうか。都市(居住地)と観光地(地域)が、お客様と受入側といった関係を越えて、ともに地域の光を磨きあげ、地域の活性化に取り組む。そうした都市と地域の新しい関係を創る機会、場としての観光。地域での消費額や入り込み客数では捉えきれないこうした観光の役割は、これからの地域づくりにとって重要な要素となってくるのではないだろか。
●おわりに
この度の東北地方太平洋沖地震で被災された皆様方に対して、心よりお見舞いを申し上げます。また、被災自治体や周辺自治体等をはじめとした関係者の皆様の復興活動へのご尽力につきまして、深く敬意を表します。
震災直後、銀座ミツバチプロジェクトには深い交流の合った被災地からはすぐさま現地の状況が、被災にはあわなかった地域からは銀座ミツバチプロジェクトを通して多くの支援の申し出があったそうです。「FACE TO FACE」のつながりはこんなにも強いのだと学ばされた。こうした地域同士の結びつきを生み出すのも観光の役割だと強く思った。
参考
◆『銀座ミツバチ物語』(田中敦夫、時事通信社、2009)